獣は嫉妬する
「クティス! もっと早く! もっと!」
「ガウガウガ!!! (本気で走ってるてば!!!)」
クティスは魔蟲の森へ高速で空を駆け抜けていた。
そして、ガルバス平原が見えた時、イデアは目の前の光景に驚いた。
「ゴウライさんが派手にやってますね。ですが、あの大きな竜巻は一体? あっ! あそこにラックル君がいます! まぁ、ラックル君は置いといて、まず最初に凪さんを探しましょう!!!」
本来であればクティスの足で持ってしても、1日はかかるのに対し、今回は30分で走りきり、クティスは消耗していた。
「ガウゥゥ(疲れたぁぁ)」
「ん? クティス! 凪さんはあの壁の上にいます!」
「ガウ!!! (凪!!!)」
クティスは凪を見つけると彼女目掛けて全力で走った。
「ガウガウガァ!!!!!(凪無事で良かったぁ!)」
「なぎさぁーーーん!!! ご無事で良かった!!!」
「えっ!? 着くの早くない!? クティス大丈夫?」
「ガウガァ(疲れたぁ)」
「はぁぁあ!!! 良かった。凪さん! 凪さん!」
イデアはクティスの背から降りると凪に抱きついた。
「ちょっと、急に抱き付かないでよ!!!」
「ぶへえっ、イデアさん痛いですよ!!!」
藍介の思念がイデアに送られた。
「ん? 藍介さんはどちらに?」
「ここよ」
凪は自身の胸を指さした。イデアは凪の服の胸元が開けてる姿を見て理性が飛びそうになったが、一瞬にして冷めた。彼女の胸の谷間に藍介が挟まっていたのだ。
「キャッ」
藍介は恥ずかしそうに手で顔を隠した。
「なんと羨ましい!!!! どうして、そこに、くそぉ! 私も凪さんの谷間に挟まりたい!!!」
「グルルルルガルルル、ガルガルガ!(僕が必死に走ってきたのに何だよこれ、こいつ殺してもいいよね!)」
クティスは凪の胸の谷間にいる藍介を睨んでいた。
「ちょっと、急に怒ってどうしたのよ。もう、それよりも早く魔王軍撤退させてよ!!!」
「その前にです。凪さん、どうして藍介さんが凪さんの胸元にいるのですか」
イデアは藍介を殺したいのを我慢しながら彼女に聞いた。
「それが、成れ果て…。黒い化け物が藍介を狙っているのよ。だから、藍介を守る為に私の胸に隠したのよ!」
「隠す? えーと、藍介さんが丸見えですよ?」
「最初はズボンのポケットに入れようかなって考えたんだけど、こうすれば前が見えて、藍介が魔法使えるようになるでしょ!!!」
「イデアさん、主人様はずっと戦い続け、壁の維持をする為に常に魔力を消費続けている状態なので、テンションがおかしくなっているのだと思います。危ない!? 私は無。私は無」
「藍介さんもおかしくなっていますね?」
「で、早く! 魔王軍を撤退させてよ!」
「そう言われましても、ゴウライさんと戦っている方は誰でしょうか? ゴウライさんと互角にやり合うとは凄いですね」
「何呑気なこと言っているのよ!!! もう、あの男と戦っているのは灰土よ。はい、残りの兵達を早く帰してあげて」
凪はイデアの背中を押して壁から下ろそうとした。
「凪さん危ないですって!!! 分かりましたから、押さないでください!!!」
「あっ! イデアおじちゃん来るの早かったね!」
すると、青雷がイデアの元に駆け寄ってきた。
「えっ!? せ、せ、せいらい!? どうしてここにいるの!? ここは危ないから家に帰りなさい!」
「僕だって戦いたいんだ! 家はねぇちゃんが守ってくれているから大丈夫だよ!」
「それなら、私の側にいなさい」
「僕! イデアおじちゃんと一緒に戦いたい!」
「ダメよ!」
「私と一緒に戦うですか? 凪さんのいう通り危ないのでダメですよ」
「僕だって戦えるよ! あいつの雷僕なら受け流せるし、見てみて!」
青雷は剛雷糸を2人に見せた。
「どう! 僕だって戦えるんだ!」
「それでも、ダメ!」
「凪さんいい考えがあります。青雷君にラックル君を任せたいのです」
「ラックル君? って誰よ」
「彼は八翼の1人、七翼を担当しています」
「そんな強い人と戦わせるなんて危険よ!!!」
「いえ、彼は青雷君よりも弱いと思いますよ。そもそも、戦うのではなく、青雷君には彼を守ってほしいのですよ」
「僕、敵を守らないといけないの?」
「兵士達はゴウライさんの命令に従って来ているだけなので、ゴウライさんの我儘の被害者達なのですよ。出来れば、彼等は生きていて欲しかった」
「最初はできるだけ殺さないように、配慮していたわよ。でも、私の忠告を無視して壁を壊そうとしたり、私の仲間の命を奪ったの。そんな事されたら、手加減なんてするわけないでしょ」
「凪さんの言う通りです。ゴウライさんはここで殉職しようが、拷問されようが私は別に何も言いませんが、ラックル君と付き合わられた兵士達は守りたいのです」
「それは、貴方の気持ちも分かるけど、それなら、成れの果てはどうなのよ」
「成れの果て? それは、凪さんが黒い化け物という事ですよね?」
「ええ、ネルガルとライネルが魔王軍にはいないと言っていたけど、幹部であるイデアさんなら、何か知っているでしょ」
「いいえ、私はあの化け物が何なのか知りません」
「緑癒が言うにドラゴンの呪いを受けた人間の成れの果てって言ってたわよ。人間で人体実験でもしているじゃないの!!!」
「そんな事してませんよ。そう言うことをするのは人間だけです。もしかしたら、黒い化け物は人間側の勢力の可能性もありますね」
「今まで一度も人間と会った事ないのに、いつの間にか人間と敵対していたというわけ?」
「彼等はこの世界で二番目に強欲な生き物です。もしかしたら、洞窟の魔石を狙って来たのではないのでしょうか」
「でも、藍介を追いかけていたのよ?」
「藍介さんのフヨフヨさんに反応したのではないのでしょうか」
「うーん、それですと、成れ果ては真っ先に主人様の魔力量に反応すると思うのですが」
「もう、今考えても何も始まらないから今できる原因を一個ずつクリアしていきましょうよ」
「分かりました。青雷君私の肩へ」
「はーい!」
「ちょっと、私は反対よ!」
「主人様、今回はイデアさんに任せるとしましょう」
イデアの肩に乗った青雷は嬉しそうにしていた。
「で! イデアおじちゃん! 僕は何すればいいの?」
「逃げ出そうとするラックル君を拘束して、外敵から守ってください」
「分かった! ラックル君を捕まえて守ってあげればいいんだね!」
「もう、分かったわよ。それなら、青雷! これ持っていきない」
凪は青雷専用の青白い手袋を使って渡した。
「主人様ありがとう!!! でも、これどうやって使うの?」
「巣を張る時、何かしらに糸をくっつけて作るでしょ。平原だと木はないし、糸をくっつける所が全くないわ。だから、糸をくっつけたい空間に小さな魔石を作り出してその場に固定できる魔法を付与した手袋よ」
「それって? つまり?」
「何もない場所でも巣を張れるって事ですよ!」
「凪さん!!! 青雷君の能力を活かすことのできる青雷くん専用武器ということですね!!!」
「専用武器!!! めっちゃかっこいい!!! 主人様ありがとう!!!」
「青雷、行くからには絶対に生きて帰ってくるのよ」
「分かった!」
「それでは、私はゴウライさんの相手をしましょう。今回は流石に許せませんからね」
「ガウガウグルガ!!!(ゴウライぶっ飛ばす!!!)」
「クティス仮面に戻ってください。久しぶりに本気で戦いましょう」
「ガウ!(分かった!)」
クティスは仮面に戻りイデアの右目に戻った。
「それでは、凪さん行って来ます」
「主人様!!! 行って来まーす!!!」
「気をつけてね!!!」
イデアと青雷は後方にいるラックルの元へ向かった。
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