蟻との交渉
蟻の女王と仲良くなった所で、私は本題を話す事にした。
「女王さん、私達は貴方達にお願いをしたくて来たのだけど話聞いてもらえないかしら?」
「願い? それは、一体何なんだ?」
「この前、洞窟に侵入者が現れてムカデ達の命が奪われてしまったのよ。だから、家を守るために偽の洞窟を作りたいんだけど、穴掘りの名人である。貴方達に洞窟作りを手伝って欲しいの。もちろんタダじゃないわ、仕事に対して報酬を考えておくわ。どうかしら?」
「穴を掘るのは我等は得意じゃか、我等が望む報酬を主人様は用意することができるのかじゃ?」
「内容次第になるわね」
「それと、報酬の他に我は名が欲しい」
「それは今考えてもいいけど、藍介もう一度花の図鑑出してもらってもいい?」
「かしこまりました」
藍介はもう一度花の図鑑を取り出して蟻の女王に図鑑を渡した。
「好きな花を選んで」
「好きな花か、どれどれ」
蟻の女王は花の図鑑を見始めた。
「我はこの花がいいな」
蟻の女王が指差したのは梅? に似た花だった。
「えーと、蝋梅? 梅に似てるけど、私初めて見たわ」
「それで、どんな名を貰えるのじゃ?」
「ちょっとまって、考えるから」
蝋梅、姫つけると蝋梅姫なんかしっくりこないわね。蝋梅姫違うわ。ちょっと、蝋梅難しいわね。そのままの名前にする? 嫌だめよ! うーん、蟻、蝋、梅、うーん。ぎろうひめ? 安直に梅姫。なんだろう、これでいいような気がするけどしっくりこないのよね。読み方変えて梅姫? 蝋姫? やっぱり梅姫にする? いや、姫をやめて妃にする? 蝋梅妃! いいじゃない!
「主人様、今回はかなり悩んでおりますね」
「あたい達と同じで花の名前に姫つければいいんじゃない?」
「お揃い良いですよね」
「お主らは名前をもらったのかい?」
「えぇ、私は菊姫」
「あたいは百合姫!」
「ほぉ、なら我は蝋梅姫となるのかね」
「もう、これしかない。貴方の名前は!蝋梅妃よ!」
「ひめじゃないのか?」
「姫よりも妃の方が大人っぽくて素敵なじゃない?」
「そうだな、我の名は蝋梅妃主人様、我に名を与えてくれて有難う。だが、仕事の報酬はキチンともらうぞ」
「いいわよ。それじゃあ、蝋梅妃は何が欲しいの?」
「甘いものが欲しい」
「果物とか?」
「砂糖というものが白く甘いと聞いたことがある。我は砂糖を食べてみたい」
「砂糖かぁ、藍介砂糖は家になかったわよね?」
「砂糖は作ったことがないですね。うーん、材料も探せばあると思うのですが、蟻達に行き渡る分を作るのは難しいですね」
「甘い物なら私達の蜜はいかがかしら?」
「我も花の蜜は好きだが、砂糖が食べてみたい」
「あたいも甘い物なら食べてみたいな!」
「もう、百合姫は私が取ってきた蜜でも食べてなさい!」
菊姫は少しだけ持ってきていたハチミツを百合姫の口に入れた。
「あまーい! 花の蜜って最高だよな!」
藍介は私だけに思念を伝えてきた。
『主人様、イデアさんにお願いしてみたら如何でしょうか。彼なら蟻達を賄える量の砂糖を入手できると思うのです』
『私もそれを考えたけど、お願いするの嫌なのよね。報酬は貴方の体ですとか言ってきそうじゃない?』
『そうですが、イデアさんに頼む以外に砂糖は入手できませんよ。そうです! イデアさんに何かされそうになった時は、クティスさんに助けて貰いましょう!」
『じゃあ、帰ったら連絡してみようかしらね』
『本当は私が砂糖を用意できれば良かったのですが、流石に量が難しいですね』
私は藍介との会話を終わらせて、蝋梅妃には砂糖が準備できたら洞窟堀を手伝ってもらう事にした。
「主人様、今日はここで泊まってください。我等一堂心を込めて歓迎いたします」
「ごめんなさい。砂糖を用意するために帰らなきゃいけないのよ」
「そうなのか、折角巣へと来て頂けたのに残念じゃ」
「まぁまぁ、今度遊びに行くわね!」
「その時は我等の歓迎会に出席してくれると嬉しいのじゃ」
「それじゃあ! みんな帰るわよ!」
私達は蝋梅妃の部屋から離れ、また長い道のりをかけて巣から出ることができた。
「うわっ! 外もう真っ暗じゃない!」
「あれだけ歩けばそうなりますって。はっ! まずい! こんな時間になるなんて思いもしませんでしたのでご飯作ってなかったです! 早く帰らないと!」
「主人様はもうお戻りになってしまうのですか。私達の巣へ招待したかったのですが」
「あたいも帰らなきゃな。あいつらが心配して暴れかねないな」
「百合姫も大変なのですね。私なんて外へ出かけようとすると兵士達が騒ぎ始めちゃうんですよ」
「菊姫もあたいと一緒だったんだな」
「ごめんなさいね。また明日会いに行くわね」
「はい! その時は沢山蜜を用意しておきますね」
「暇つぶしに会いに来てやるよ」
「それじゃあ! また明日! じゃあねー!」
私は手を振りながら自分の家に向かった。
蟻の巣には蝋梅妃が独り言を言っていた。
「1人は寂しい。我とまともに話すことのできる者は同族にはいない。久しぶりに話をすることができて嬉しかった。いつでも逢えるようにこの前の穴を復活させる事にしようか」
蝋梅妃は玉座から立ち上がり、部屋から出ると民達を全て集め、民に命令を下した。
「皆の者聞けー! 魔蟲の洞窟4層目に繋がる道を開通させよ! 期限は明日まで、皆働くのじゃ!!!」
「オオセノママニ」
「オオセノママニ」
「オオセノママニ」
民達は一斉に洞窟4層目に繋がる道を掘り始めた。
「これで、我は寂しくなくなるのじゃ」
おまけ『イデアのくしゃみ』
凪が藍介とイデアの話をしている時、噂の本人はと言うと、イデアは自身の屋敷で2日後に洞窟へ行く為に準備をしていた。
「ヘックシュン!!!!」
「ガウルガル?(風邪引いた?)」
「もしかして、凪さんが私の事を話してくれている!」
「ガルグラグ(そんなことないでしょ)」
「いえ、私には分かるのです! 凪さんが私の話をしているに違いありません! はぁーーー!!! 凪さん! 私に会いたいのですね! 明日は最終準備としてケーキ屋巡りをしなくては! 最高のチョコレートケーキで凪さんのハートを鷲掴みにするのです!!!」
「ガウグルガウガ(まーた、甘い物地獄かぁ)」
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