南の長
私達は声の主達の所に向かった。
森を駆け抜けると広大な花畑が目の前に現れた。多種多様な花が咲いていて美しい花畑であったが、花畑の中央に大樹には見事な蜂の巣が作られていた。
「なにあれ! うわっ! 巣デカすぎない!?」
「主人様! 大樹の前にて蜂達が争っています!」
藍介が示した先には花茶と同じぐらい大きさの蜂、あれはスズメバチよね? 流石に虫の知識が乏しい私でもスズメバチぐらいは虫の名前覚えているわよ。そのスズメバチの前には沢山の小さな蜂が壁を作り巣を守っているようだった。
「藍介! 小さい蜂がミツバチってことでいいのよね?」
「はい!」
「それじゃあ! 助けに行くわよ!」
紫水は蜂の巣に走り始めた瞬間、知らない声の思念が送られてきた。
「かわあいいこちゃぁーん!!! オラと1発ヤらないかー!!!!」
陽気な男性の声の思念が送られてきた方向を見ると一匹の大きなカブトムシが私目掛けて飛んできた。
「なにあれ!? てか、カブトムシ!?」
「あの方は確か南の長!!!」
「ねぇそういえば、藍介は森長達と面識はあるの?」
「いいえ、ですが、本で魔蟲の森の長の情報を調べたので現在の長の種族は知っています。それに、長としての称号を持つものなら、誰が長なのか姿を確認できたら分かりますからね」
「そういうものなのね。で、カブトムシが追いかけてきているんだけど、これは彼から逃げた方がいいかしら?」
「それでしたら、彼に蜂達の抗争を止める手伝いをお願いしてもよろしいのでは無いでしょうか?」
「それもいいわね! 紫水止まってくれる?」
「え〜、あいつなんか変なこと言ってなかった〜。俺は止まるの反対〜」
「お願いだから、ね!」
私は紫水の触覚を優しく撫でた。紫水は触覚を触られるのが好きみたいだから多分、私のお願い聞いてくれると思うのよね。
「もう〜♡ 分かったよ〜♡ 危ないと思ったら逃げるからね〜」
「紫水ありがとう」
私は思念伝達を使い藍介、花茶、緑癒には先に向かって欲しいと伝えた。藍介には、蜂達を宥めて欲しいとお願いもした。こういう時に1番頼りになるのはやっぱり藍介よね! もしかしたら、私が蜂達と話す前に争いが鎮まっている可能性もあるわね!
「オラの事を待ってくれるなんて、オラ嬉しいだぁ!」
迫り来るカブトムシを見つめて紫水は身構えていた。
「ねぇ〜、主人様〜、あいつと話し合いできると思う〜?」
「うーん、まぁ、話してみてから決めてもいいんじゃない?」
「かわいいこちゃーん!!! さぁ! オラとヤろうか!!!」
「何をやるのかな?」
「嫌な予感してきた〜。主人様〜、俺に捕まって〜」
「どうして?」
「逃げないといけないかもしれないからね〜」
カブトムシは私達と約20メートルぐらいまで来た時に紫水はカブトムシの下半身から出ている棒を見てすぐにカブトムシから逃げ始めた。
「あいつやば! 主人様! 逃げるよ!!!」
「えっ! てっ、ちょっ!」
「かわいいこちゃん!!! なんで、オラから逃げるんだー!!! 待ってよーかわいいこちゃーん!!!」
紫水はさっきは走っていた時よりもスピードを上げて花畑を走り始めた。
「どうして逃げるのよ! まだカブトムシと話してないわよ!」
「あいつバカだよ!」
「どうして、見ただけでバカって言うのよそう言う決めつけは良くないわよ」
「もう〜、主人様〜、あいつの下半身見てみてよ!」
「下半身? なんでそんなところ見ないといけ」
私は望遠鏡を作り飛んでいるカブトムシの下半身を見てみた。すると、お尻の前あたりに黒い棒が出ていた。まって、下半身に棒。
「えっ!? はぁっ!? え、どう言う事!?」
「あいつ〜、ち○こ丸出しで向かってきてるんだよ〜
!!!」
「まじか! やっぱりあれはち○こなの!?」
まぁ、そうよね、虫達は裸同然だから下半身の棒が出ちゃうのも仕方ないわよね。うん、いやでも下半身露出しながら飛んでくるって怖いんですけど!!!
「主人様がち○こって言うと〜、なんかエロいね〜」
「何おっさんみたいな事言ってるのよ!!! 取り敢えず逃げるわよ!!! もしかしたら、彼が探しているのはカブトムシのメスで、たまたま私達がそのメスの側にいるだけなんじゃない!」
「だったら〜、なんで俺が〜、あいつに追いかけられているのかな〜」
紫水は蜂の巣には向かわずに森は中へ入った。カブトムシも私達を追ってきていた。
「カブトムシは紫水の事をメスだと勘違いしているんじゃない?」
「それは無いと思うんだけどな〜。それなら〜、主人様〜俺から降りてみる〜?」
「そうね! 紫水を追いかけているかもしれないし、ちょっと降りてみようかしら」
紫水は足を止めて私を降ろした。
「紫水頑張って逃げなさいよ!」
「うん〜、主人様の方こそ頑張ってね〜」
紫水は私から離れていった。
よし、カブトムシは紫水に任せて蜂の巣に向かわないとね。花畑から結構離れちゃったけどこのぐらいなら歩いて行けるわね。
「かわいいこちゃん!!! 森の中でオラとヤりたかったんだね!!!」
私は後ろを振り向くとカブトムシがすぐ目の前まで来ていた。あれ? 紫水はあっちに向かったのよ。なんで私に向かってきているの?
カブトムシをよく見ると瞳が何故かハートの形になっていて真っ直ぐに私に向かってきていた。紫水が頑張ってって言った理由分かったわ。カブトムシの言うかわいいこちゃんは私だったのね。うん、これは紫水が正しかったわ。
「いやぁあああああ!!!! こっちこないでよぉ!!!!!! 紫水たすけてーー!!!!!」
私は下半身露出魔カブトムシから必死に走って逃げた。もう、人生で1番速く走れていると思った。このスピードなら陸上選手になれると思うぐらい必死に走った。
「かわいいこちゃーん、こっちでオラとヤりたいんだね!!!」
「違うわよ!!!!」
「違う? なら今すぐオラとヤりたいだな!!!」
「バカなんじゃ無いの!!! 嫌よ! 絶対に嫌ぁぁああああ!!!!! 誰かー助けてー!!!!」
10分間私は逃げ続け、足がパンパンになり走れなくなってしまった。私は木の後ろに隠れたがカブトムシは私が隠れた場所を把握していたみたいでゆっくりと近付いてきていた。やばい、嫌だ、カブトムシに、嫌だぁぁああ!!!!
「それじゃあ、かわいいこちゃん! オラの受け入れて」
知らない男性の思念が送られてきた。彼の声は渋く低い声だった。
「この馬鹿者!!! 彼女は我等の主人様だぞ!」
「やめろよじじぃ!」
私は恐る恐る木の影から声がした方向を見た。
すると、目の前にはカブトムシと同じぐらい大きいクワガタムシが2本の立派な角でカブトムシの胴体を挟んでいた。
凄いわ! 虫好きな少年が喜ぶような大迫力の虫バトル!!! 頑張れクワガタムシ!!!
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