紫水の前世 後編
父さんが居なくなって1年経った時、俺は産まれて初めて熱を出したんだ。そしたら、俺の水を作り出す力が暴走して、暴雨が村を襲った時があったんだよね。あの時は、母さんの血の力で俺の力を封じる事で解決したんだけど、その3ヶ月後にまた暴雨が村を襲ったんだ。村の人達はまた俺が熱を出したと言って、母さんの血を俺に浴びせたんだ。母さんはこの暴雨が俺のせいじゃないと分かっていたから、村人達に今回の暴雨は違うと話していたんだ。俺に母さんの血を浴びせても暴雨はより勢いを増して、村は山に囲まれていたから土砂がずれが起こって、村に住んでいる人達が何人か巻き込まれてしまったみたいで、俺にこの雨を止ませろって村人達は俺と母さんに迫ってきたんだ。
「うわっ、自分勝手に水を出せと言っていたのに次は雨を止ませろか、子供になんてこと言いやがるんだ!」
「あの時の村人達は本当に怖かったよ〜。でも〜、もっとムカつく事があったんだよね〜」
「もっとムカつく事か、俺はもうこの時点で村人達を全員殺してやりたいとまで思ったわ」
「俺も〜、村人達が生きていたら〜、全員母さんを殺したやり方で殺してやりたいよ〜」
「母さんを殺したやり方? ってまさか、あいつら!」
「それじゃあ〜話すね〜」
土砂崩れの後、俺の暴走を止めるにはもっと母さんの血が必要だって村人達は考えたみたいで、俺を母さんの血が染み込んだ縄で絞め、目の前で母さんの首を斧で切り落としたんだ。
「はぁ!? 一体何を考えてやがるんだこいつら!」
紫水の声と体が震えていた。俺を簡単に倒したこの男が泣いていた。そりゃあ、子供の時に目の前で自分の母上を殺されたら相当なトラウマだよな。しかも、それを誰にも伝えられずに、ずっと一人で抱えていたなんて。
「俺は、あの時泣き叫んで母さんとしか言えなかった。俺が見る夢はこの時の光景の夢で、毎晩、前世の母さんが村人達に首を切られるのを見続けてて、俺はどうして今みたいに強くなかったんだって、とっても悔しくて、悔しくて」
俺は震えている紫水を抱きしめた。
「紫水、お前は何も悪くない、何も悪くないんだ!」
「魚君、ありがとう」
「話すのが辛かったらもう話さなくていいからな」
「ここまできたら、魚君には全部俺の前世の話を聞いてほしい」
「分かった! なんでも話せ! 俺が聞いてやる!」
紫水は震える声でゆっくりと続きを話し始めた。
村人達は母さんの遺体を吊るして、動物を血抜きするみたいに母さんの体から血を抜き取り始めたんだ。その血を俺に浴びせても暴雨はやまない、俺はその時初めて龍の姿になれたんだ。母さんの血の縄を噛みちぎり、母さんを斧で殺した男の頭部を食いちぎってやったんだ。他の村人達は俺を恐れ、村から逃げようとしたんだ。だから、俺は暴雨をより強くして村を沈めさせようとしたんだ。村人達は何人か村から脱出して、母さんの血を染み込ませた黄色い縄を山の木々に結び、村から俺が作った水をこれ以上、外に漏れないように封じたんだ。
龍になった俺は村から脱出した人間達を殺そうと村から出ようとしたら、縄の結界によって俺は水に沈んだ村から出れなくなってしまったんだ。俺は沈んだ村の中で母さんの遺体の前で眠ることしか出来なかった。どうしたら、母さんにまた会えるのか、どうして、父さんは俺と母さんを助けに来てくれないのか、その時から俺は父さんの事が憎くなったんだ。
何度も、何度も、どうしたら良かったんだと考え、母さんに会いたいと願い続けたんだ。それで、唯一母さんに会うことができる方法を思いだしたんだ。
「それって」
自分が死ねば母さんに会えると考えたんだ。俺は自分の首を自分の力を使って刎ねたんだ。それで、俺が死んだ時、父さんの上司っていう人が現れて、俺はそいつにお願いしたんだどんな姿でも構わないから母さんに会いたいって、そしたら、そいつはこう言ったんだ。
「いいだろう! 君はこんなふうに死ぬ神じゃ無いからね! でも、対価なしに君のお願いを聞いてあげるほど僕はお人好しじゃ無いんだ、これから言う僕の願いを聞いてくれるのであれば、君の人生を平和で楽しい未来にしてあげるって約束してあげよう」
ってね、俺は母さんに会いたいばかりにその上司の願いを聞く事にしたんだ。
「その願いってなんだ?」
「勇者を助けてほしいんだって〜。でもさ〜、俺〜、ムカデだよ〜。どうやったら勇者を助けるんだよ〜」
「それで、今の姿になったわけか」
「うん〜。神は俺の願いを聞いてくれて〜、俺を〜、もう一度母さんの子供として転生させてくれたんだ〜。それだけは感謝してるけど〜、俺は神が言っていた勇者を助けてほしいと言う願いは叶えられそうに無いんだよね〜」
「紫水は今の人生楽しいか?」
「そりゃあもちろん!!! 母さんもいるし〜、友達もいる〜。それに〜、主人様〜!俺にとって〜、 母さんと同じぐらい、いや〜、母さんよりも大切な存在の主人様〜!!! 主人様に出会えて毎日が楽しいんだよね〜!!!」
「おうっ。そうなのか」
紫水は洞窟の主人の話をし始めるとテンションが上がるんだけど、上がり幅が大き過ぎてビビるんだよな。
「ネルガルに話をしたら〜、なんかスッキリしたから眠くなってきた〜。ちょっと寝るから〜、ネルガルは俺の抱き枕になって〜」
「俺はネルガルじゃねぇ!!! いや、合ってるか、てっ! おい!!! 急に抱きついてくるなよ!」
紫水は俺の体に巻き付き、俺を抱きしめながら眠り始めた。まぁ、こんな辛い夢を見続けるなんてキツイよな。仕方ない、波はまた今度お願いしよう。でも、紫水が俺の名前を覚えてくれて、前よりも紫水と仲良くなれて俺は嬉しかった。
俺は紫水と一緒に昼寝をした。
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