紫水の前世 前編
俺とライネルは洞窟に来て1週間が経った。
ライネルは花茶と仲良くなり、毎日身体を動かして遊んでいる。洞窟の主人が考えたスポーツというのはなかなか面白い、特に板の上に乗って波に乗るサーフィンというのが俺の趣味になり、とっても楽しいんだ。紫水とはサーフ友達となった。これなら、洞窟の主人の好きな男の好みも聞き出せるかもしれないな。
ライネルと特別任務について話し合った結果、直接本人に聞くのは流石に恥ずかしいので周りの配下から仲良くなって好きな男を情報を聞き出すと言う結論に至った。女に直接好きな男の情報を聞くなんて、俺にはできない。そもそも、女とまともに話したことがないからなんて言って聞いたらいいのが、分からなかったからだ。
そして、今俺は何をやっているのかというと、湖の辺りで紫水に大波をたててくれないかお願いをしている所であった。
「なぁ、紫水、さっきのよりも大きな波たててくれよ」
「これ以上は危ないからダメ〜。魚君は〜、サーフィンが本当に好きなんだねぇ〜」
「こんな面白いスポーツがあるなんて知らなかったからな」
「う〜ん、それなら〜俺の話聞いてくれたら〜、さっきよりも高い波立ててあげるよ」
「いいのかよ! なんでも、話聞くぜ!」
「調子いいんだから〜、そうそう〜、この話は誰にも言わないでくれる〜?」
誰にも言わないでって言うことは秘密話をしたいと言うことだな。でも、俺に秘密話してもいいのか?
「いいぜ! でも、俺なんかに秘密の話をするのはどうしてなんだ?」
「これは〜、俺の前の姿を見たことがある〜。魚君にしか〜、話せない話なんだよね〜」
「確か、龍って言ってたよな?」
「そう〜、この前からずっと〜、前の姿だった時の夢に見るんだよ〜」
「ずっと同じ夢を見るなんて怖いよな、この前聞いた死ぬ夢を同時に見たって言うのも縁起悪いよな」
「そうなんだよ〜。他のみんなは〜、夢の内容を主人様に話しているんだけど〜、俺にはそれが出来ないんだよね〜」
「確か、俺と戦っている時に龍の姿を見せたくないとか言ってたよな?」
「母さんにはどうしても思い出して欲しくないんだぁ〜」
「でもよ、龍の姿を見ても前世を確実に思い出せるとは到底思えなんだよな。そもそも、前世って基本覚えてないはずだからな」
「でも〜、俺は覚えているんだ〜。本当に思い出したくないけど〜、そのおかげで母さんにまた逢えたから〜、覚えているの腹立つけど〜、感謝もしてるんだ〜」
「それで、紫水の前世はどんな感じだったんだ?」
「それじゃあ〜、話すね〜」
紫水は自身の前世の事について話し始めた。
俺は水神と言われる龍と水神と話すことのできる人間の巫女との間に産まれたんだ。父さんは神の仕事が忙しくて家には殆ど居なかったんだけど、それでも帰ってきてくれた時は沢山俺と遊んでくれたり、母さんとは必ず交尾をしてたんだよねぇ。
「いきなり、交尾って単語出てきて焦ったわ」
「ちょっと〜、話折らないでよ〜」
「ごめんって」
父さんは俺にいつも母さんを守れと言ってて、あとは母さんとの馴れ初めを話してくれてたんだ。その時の父さんは俺好きだったな。でも、月に一度は会いにきてくれていたのに、俺が8才になった時から父さんは家に帰ってこなくなったんだ。
父さんの仕事は星々に水を与えると言う仕事みたいで、その水を与える、つまり水を作り出す力を俺は引き継いでいたんだ。
俺と母さんは山に囲まれた小さな村に住んでいたんだけど、その村の人たちは月に一度綺麗な水を父さんから貰っていたんだけど、父さんが来なくなってからは俺と母さんに対する態度が変わったんだ。
父さんがいた時は父さんを神と崇め、俺と母さんにも優しく接してくれていたのだけど、父さんがいなくなってから、俺に水を作り出せと要求してくるようになったんだ。
当時俺は8才だよ。水を作れると言っても父さんが作り出す量なんて作れっこないじゃないか。でも、村人達は小さな俺に水を作らなければ、母さんと俺を村から追い出すと言い始めたんだ。だから、俺は母さんを守るために頑張ったんだ。それでも、俺には限界があった。母さんは俺を守る為に巫女の権能の一つ、黄色い血を村の人々に渡す事にしたんだ。
「巫女の権能? 黄色い血ってどう言う事だ?」
「神の力を封じる力を持つ血だよ。俺の力も神の力だから、母さんの血を浴びると水を自由に動かすのが難しくなるんだ」
「おい、お前の弱点俺に言ってもいいのかよ」
「魚君は〜、村人達みたいに酷いことはしないと思うから大丈夫〜。それに〜、魚君が〜、知っても母さんには勝てないでしょ〜」
「子供に辛い思いをさせてまで水を要求するなんて酷いな、しかも血を提供しないと住まわせてくれないって最低だな」
「ほんと最低な人達だったよ〜。でも〜、子供1人と女1人で外の世界に行くのは危険だよね〜。だから〜、村人達の要求を母さんは呑むしか出来なかったんだと思う〜」
「お前の母さんも大変だったんだな」
「うん〜。俺を守る為に3日に一度は血を提供していたからね〜。そんな母さんを見て〜、俺は本当に情けなく思ったんだ」
「子供なのに、紫水偉いな」
ネルガルは紫水の頭を撫でてあげた。
「ちょっと〜、急に撫でてこないでよ〜。ビックリした〜」
「俺が8才の時は父上に槍術を習っていた時だったな」
「魚君は〜、父さんの事を〜父上って呼ぶんだ〜」
「父上って呼ばないと半殺しにされるからな、親父って呼んだら槍で頭殴られたな。俺結構親父呼び憧れがあってさ、友達が親父がさぁって話し始めた時があってなそれで、って、俺の話より紫水の話だな」
「うん〜、それじゃあ続き話すね〜」
「おう!」
紫水が俺に秘密を打ち明けてくれたことが俺はとっても嬉しかった。親友って言うのか、ライネルは親友というよりライバルに近かったからこう言う秘密を話す仲では無いんだよな。それに比べて、何故か紫水には俺の実家の話をつい話したくなるんだよな。
ブックマーク、評価いただけると嬉しいです。