緑癒の悪夢 後編
僕の前世はこんな悲惨な終わり方だったのですね。信仰していた神に見捨てられ、助けてきた人達にも裏切られ、悪意を持つ者達に貶められ、今の僕の人生はなんて平和なんだろうと実感しました。これも、主人様のおかげという事ですね。僕は、怪我をしている人達を見ると治癒してあげたくなってしまうのですが、その所為で、僕はこの洞窟で浮いてしまっていました。だって、僕口がないので食事なんて概念は羽化した時になくなってしまったのですから仕方ないではないですか! でも、主人様のお陰で皆と前よりも仲良くなれました。それを考えるとあの神が言っていた自由な人生は叶った。っという事でしょうね。ムカつきますけど!
すると、祈祷室の扉を叩く音が鳴り響きました。
「もう、僕は覚悟を決めるしかないのですね。ゼス様は呪いませんが、他の者達は僕の呪いで苦しんでもらいます。まさか、僕が呪いを使うなんて、あぁ、この国に災いあれ」
扉が破られ、祈祷室にある男が入ってきた。
彼の目つきは鋭く、睨むだけで人を殺せると思わせるほど醜男。鎧は見事な白銀で、彼の顔には不釣り合いなぐらい美しい鎧でした。彼の手に持つ剣は刀身が漆黒で、古き魔法の刻印が刻まれていました。
「おー、ここに居たな、イーヤヘルド! やっと見つけたぜ、もうお前を守る兵士はいない。ここでお前は終わりってことだな。あー、可哀想に、あの女に好かれなきゃこんな事にならなかったのによ」
「バーラーガ、あの女とは一体誰のことを言っているんだ」
「東部のお姫様さ、あいつはこの世で最も美しい女だ、気が強く、我儘でも、それを許してしまうあの美しさ。俺の嫁にぴったりじゃねぇか」
「私達を襲ったのは、彼女の差し金ということなのですね」
「いいや、それはちげぇよ。あいつは、お前に惚れてんだよ。だからよぉ、。俺はお前の全てを奪ってやったって訳さ! 国に裏切られ、助けた民にさえも蔑まされ、本当に言い気味だぁなぁ!!!」
バーラーガと呼ばれた男はゆっくりとイーヤヘルドの元に歩いてきました。
「お前さえいなくなれば、あいつは俺の嫁になる。そして、お前を殺せばお前が持っていた権力も俺のモノになる! 色々苦労したぜ、国王を懐柔するには女ってな」
「貴方は本当に身も心も穢らわしい方ですね」
「何言っているんだ、俺は至極人間らしい考え方の持ち主なんでな、お前みたいな聖人とは考え方がちげぇんだよ。そんじゃあ、イーヤヘルド苦しまずに死ぬか、俺に痛ぶられながら死ぬか選ばせてやるよ。俺からの最後の慈悲っていう訳だな」
「貴方がこんなにお優しい方だとは思いもしませんてました。それなら、僕から貴方へ素敵なプレゼントを贈りたいと思います」
「プレゼントねぇ、そんなもん、お前の命だけで十分だ!」
バーラーガは漆黒の剣を振り上げた。
そして、イーヤヘルドの首は体から離れ、床にコロコロと転がりました。
僕は彼に殺されたのですね。
「これで、あいつは俺を拒めねぇ。最高じゃねぇか!!!」
バーラーガは教皇の首を左手で持ち、祈祷室を後にしました。
残った教皇の体は黒くドロドロに溶け、そこからこの世界に向けて強力な呪いが発動しました。
その呪いに罹った者は、体がゆっくり朽ちていき、最後にはアンデットになってしまうという呪いでした。
前世の僕がいた世界ではアンデットなんて存在しませんでした。それは、僕がアンデットになる者達を浄化していたから、皆はその存在を知る事がなかった。
その日以降から、呪いで死んだ者はゾンビとなり、土に埋めなれていた死体がスケルトンとして動きだし、その呪いは世界各地に発生したのでした。
なんて、恐ろしい呪いを僕は世界にかけてしまったんだ。
早くこんな悪夢から覚めたい。
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