考え方の違い
私達はムカデ達の遺体を集めて、紫水にお願いして水で洗ってもらった。
「貴方達は勇敢に戦った戦士、貴方達の命は無駄にはしないわ」
一人ずつ大きな鍋の中に入れた。
「ねぇ! 主人様! 花茶お腹減ったから食べていい?」
「花茶ごめんね。これは、あそこにいる人達が食べるから、うーん、そうね、余ったなら食べていいわよ」
「分かった!」
「主人様すみません」
「藍介が謝る事なんてないわよ。よし! ムカデスープ作るわよ! 紫水水入れて頂戴!」
「は〜い」
紫水は大きな鍋に水を入れ、魔王軍の人達が作った焚き木の上に鍋を吊るした。
「主人様、調味料はどういたしますか? 持ってきますか?」
「そんな、調味料なんていらないわよ」
「ですが、毒抜きしないのはどうして」
不思議がる藍介に私は思念を送った。
『彼らにはムカデ達の毒を食べてもらおうと思っているわ』
『それは、どうしてでしょうか?』
『侵入者に美味しくなんて食べられたくないでしょ、それに、やられたからにはやり返してあげたいじゃない』
『それもそうですね。花茶がつまみ食いして毒に侵されないように毒耐性つけておかなければいけませんね』
私は鍋をじっと見つめている花茶を見た。
『そうね、今すぐにでも食べだしちゃいそうね」
私は鍋の中を掻き回し、ムカデ達を水で煮込んだだけのスープを完成させた。
紫水と黄結姫、緑癒は魔王軍の人達に何人殺したのかを聞いていた。
「ねぇ〜、ねぇ〜、魚君は本当に誰も殺してないんだよね〜?」
「あぁ、俺は1匹足りとも殺していない。俺の名前は魚君じゃなくてネルガルだ!」
紫水の頭の上には1人のムカデがいた。その子は、黄結姫に助けを求めた子だった。
「コイツハ、タタカッテイナカッタ」
「分かった〜、魚君は食べなくていいよ〜」
「よっしゃあ!!! よかったぁ、本当に殺さなくてよかったぁ」
ネルガルはガッツポーズをして喜んでいた。
「あっ、魚君には〜、俺のご飯の準備して貰おうかな〜」
「ご飯ってなんだよ」
「ほら、水槍だよ〜、あれ〜、味はまぁまぁだけど〜、食感が良くて美味しかったんだよね〜、味がもう少し濃かったら満点だったよ〜」
「俺の魔法はお前のご飯じゃねぇぞ!!!」
料理を作り終わった私は3人の様子を確認しに行った。
「紫水、この人と仲良くなったのね」
「主人様〜♡ うん〜。魚君とは仲良いよ〜」
「仲良いわけないだろ!」
「貴方確か、ネルガルって名前だったわよね。貴方は誰も殺していなかったみたいだけど、一杯は食べてもらうわよ」
「え! どうしてですか。俺は1匹も」
「殺していなくても、貴方が来たことによって死んだのだから貴方1人が弔わないのはおかしいでしょ。貴方も食べるのよ」
「そんな。あれを食えって言うのかよ」
ネルガルは絶望した。
「あ〜あ、魚君どんまい〜。でも〜、他の兵士の中には食べない人もいるのに、どうして魚君は食べなきゃいけないの〜?」
「そんなの、隊長だから責任というものがあるでしょ。責任逃れは隊長としてどうなのかな〜。貴方の友達のライネルは今にも死にそうな顔しているわよ」
「なんで、俺はあんなに殺しちまったんだよ。くそぉ、くそぉ、今すぐにでも洞窟に入った時の俺をぶん殴りてぇよ」
ライネルは地面を殴って自分がやった行いを悔いていた。
「ねぇ、ねぇ、どうして地面を殴っているの?」
鍋に張り付いていた花茶は地面を殴る魔人が気になって声をかけた。
「あぁ、うわっ!? お前も話せるのかよ」
「ねぇ、どうして?」
「俺はお前の仲間を沢山殺したんだよ。だから、あのスープを10杯食べなきゃなんねぇんだよ!!!!!」
「10杯も食べるんだね! 花茶なら15杯食べれるよ!!!」
「お前仲間を食うのに躊躇はしないのか」
「ん? だって、お腹減ったらご飯食べるでしょ? 魔人さんはお腹減ったらご飯食べないの?」
「いや、食うけどよ。でも、俺は仲間を食わねぇ」
「うーん、花茶はお兄ちゃんが死んだらお兄ちゃんを食べるよ」
「おい、お前家族を食べるのかよ!?」
「うん! もし、花茶が死んだら、お兄ちゃんや主人様! 紅姫さんに黄結姫さんとか友達に花茶の事食べて貰いたいな」
「お前狂ってやがるな」
「狂ってる? うーん、なんで言えばいいんだろう? お兄ちゃん! 花茶うまく話せないから手伝ってー」
「いいですよ。花茶とライネルさんの話は聴いていましたからね。そうですね、人間や魔人は同胞を火葬や土葬など、自身の糧にするのではなく、自然に帰すという方法で死者を葬います。私達の場合は自身の命を繋ぐ為に、死者を食べて弔うのです」
「それが仲間でもってことなのかよ」
「えぇ、そうですよ。まぁ、私は同胞を食べたことは一度もありませんけどね!」
「ねぇのかよ!!!」
「お兄ちゃんは基本お野菜ばっかり食べてるよ! 花茶は何でも食べれるよ!」
「やっぱりこいつら狂ってやがる」
ライネルは上を向き美しい夜空を見て、現実逃避をした。
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