窮極の眠気
私は死を覚悟した。
血まみれの男は両手を私の背中に当て私をへし折るつもりなんだ。みんなには悪いけど、死んだら元の世界に戻れるかもと考えてもいた。でも、違った。
「凪さん! 凪さん! 貴方は本当に素晴らしい!!! 私を殺した人は世界に4人しかいないと言うのに、貴方で5人目ですよ!!!」
彼は私を抱きしめていた。
彼のシャツは血まみれで胸の辺りは破けていた。そこから、見える彼の立派な大胸筋に顔を押し付けられて、とっても苦しかった。
どうして、私は彼に抱きしめられているの?
ひぇぇぇええええ、イケメンに抱きしめられてる。
ねぇ、これってどういうことなのよ!!!!
でも、それよりも疲れてるから、とっても眠いわ。
「あぁ、凪さん! 凪さん!」
「どうして、私は、貴方を殺したはずじゃ」
彼は左手を私の腰に添え、右手で私の頭を撫で始めた。
「私、不死なんですよ」
「不死‥‥。そんなの、敵うはずないじゃない」
不死なんですか、そうなんですか‥‥。
この状況どうにかならないかしら!!!
「えぇ、でも、ゴキブリの彼の魔法は危なかったですね。不死なので死にはしませんが、永遠に戻れない場合には行きたくないですよ。あれは、本当に驚きました。いえ、彼には2度も驚かされました。最後の魔力爆発もなかなかの威力、その前の魔法攻撃を防ぐために魔力を全て魔法防御に充てていなかったら、死んでいたかもしれませんからね」
彼の心地いい低い声は、疲れ切っている私にとって眠気を誘うものだった。
彼の体温も心地よく、とっても、眠く、なってきた。
「おや、凪さん疲れているのですか? そうですよね。ゆっくりと私の腕の中で眠ってください。大丈夫。何もしませんから、ゆっくり、ゆっくりと、眠ってください」
「眠らないわよ! 今すぐに私を離しなさい!」
私は残った体力を全て使い、男の腕の中から逃げようと暴れてみたけど、彼はびくともしなかった。
布団でゆっくりと寝たいよぉぉおお!!!!!
「それは、できません。私も久しぶりに死んで痛かったのですよ、慰めてもらわないと割りに合いません」
彼は頭を撫でていた左手をゆっくりと私の肩に下ろして、私の右手を掴んで彼の顔に私の右手をあてた。
「凪さん、クティスを撫でたように撫でてください。あぁ、凪さんの手はなんて小さくて柔らかいのでしょう」
彼は私の右手に顔を埋めると私の手に頬ずりしはじめた。
なんだろうね。イケメンが私の手に頬ずりしてるよ。
それよりも、眠い。めっちゃくちゃ眠い。でも、彼に抱きしめられてるから逃げれない。あーーーーーーーーー。頭がボーッとしてきた。
このまま行くと立ったまま眠れそう。
「凪さん、あぁあ、とっても甘く優しい匂いがします。それに柔らかくて、とても温かい。凪さん、貴方は私の運命の人。私には、今までに5人の妻がいました。5人目の妻が221年前に他界し、妻がいなくなってからは、1人で寂しくって、1人でご飯を食べても虚しいだけ、ベッドで眠ったら寂しさで、寝つけず、本当に辛い日々が続きました。約100年間は妻との思い出や仕事で寂しさを紛らわせていました。ですが、1人は寂しい。毎日、寒いのです。やっと、です。ずっと、探し求めていた温かさをやっと、私は見つけることができたのです。凪さん、私の妻になってください。貴方を一生大切にします。私は貴方のためならなんだっていたします。だから、私の妻になってください!」
彼はずっと私に何か話しかけていた。
でも、彼が何を話しているのか頭に入らなかった。
温かい。眠い。
私は立ったまま眠ってしまった。
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