路上ライブ、再び
広場を行き交う人々の視線が一斉に俺らに集まる。
様々な眼差しが向けられ、少しだけ心臓が高鳴る。
やっぱ慣れねえな……この感覚。
——でも、悪くはない。
「アタシたち、KKって書いてKingsKeyって言いまーす! 名前と顔だけでも覚えていってくださーい!」
立ち止まっているプレイヤーは十人ちょっと……前と同じくらいか。
違うのは目の前に演奏を待ち侘びている観客がいることか。
「やる曲はオリジナルのインストでーす! じゃ、いっきまーす!」
軽い感じで言うが、視線を落とした時にはもう既に、コトの瞳は真剣そのものとなっていた。
二つ木霊するような綺麗なハーモニクスを鳴らす。
一瞬の静寂が場を包み——刹那、刀が鞘から引き抜かれる。
エッジの利いたサウンドから繰り出されるのは、軽快でアタック感たっぷりのスラップだ。
パーカッシブなリフが、自然とこれからの期待感を高まらせる。
ふと近くを通りかかったプレイヤーがコトを見て、ギョッと目を丸くし、引き摺り込まれるように足を止めた。
まさかこんなえげつねえ演奏しているのが少女のアバター(まあ、実際に女子高生なんだけど)がしてると微塵にも思わなかったのだろう。
——そうだ、こいつを見ろ。
そんで、その両目にその姿をしかと焼き付けろ。
思いながら、俺はフレーズが一巡する直前にハイハット三拍、四拍目をクラッシュによるカウントを刻み、次の小節からビートを刻んでいく。
もう一度繰り返されるフレーズに添えるのは、片手での16ビート。
テンポを維持したまま、ゆったりとしたグルーヴを生み出す。
一本のギターによって生まれたエネルギーを、静かに増幅させる。
フレーズが変わり、パワーコードとゴーストノートの刻みを組み合わせた疾走感溢れるリフに切り替わるのに合わせ、バスの四つ打ちとハイハットのみのビートでエネルギーの増幅具合を加速させていく。
一小節進むごとに奔流する音のエネルギーはどんどん大きくなっていき、フレーズラストの一小節に入った瞬間——魂を込めたスネアのシングルストロークで溜まりに溜まったそれを一気に解放する。
パーカッシブでありながら疾走感のあるスラップギターが嵐のように乱れ、負けじと俺は跳ねる16ビートで対抗する。
僅か八小節の決闘——互いの手数と手数が剣戟のようにぶつかり合う。
音と音の剣閃は、激しく荒れ狂う嵐となって周囲を飲み込んでいく。
……でも、嵐はあっという間に過ぎ去るもの。
八小節の後、戦いの終わりを告げるように、最初のリフに立ち返る。
俺も片手の16ビートに戻し、けど単調にならないよう裏拍にスネアを入れたシェイクを織り交ぜる。
そして、七小節目。
最後の二拍をスネア四つで曲を締めると、暫しの間を置いてから、拍手が巻き起こった。
コトは笑顔を浮かべ、軽く手を振って応える。
それからすぐに次の曲に入る。
弦を叩きつけて奏でるのは、低音がゴリゴリに利いた重厚なサウンド。
前回の路上ライブで一発目に演奏した曲だ。
——得物が刀からチェーンソーへと変わる。
イントロが鳴った瞬間、ファンの女性プレイヤー二人は、待ち侘びていたと言わんばかりに歓喜の表情を見せた。
周りを見渡せば、他にもファン二人と似たような顔つきのプレイヤーがいることに気が付く。
その容貌には少し見覚えがある。
確か、前の路上ライブの時にもいたような気がする。
しかし、それ以外のプレイヤー……カナデを含めた初見であろうプレイヤー達は、コトの放つ音に呆然としていた。
さっきもそうだったが、コトのキャラと演奏する音楽のギャップに度肝を抜かれているようだった。
差し詰めポップス辺りを弾くんだと思ってたんだろうな。
違えよ、コトが弾くのはゴリゴリのロックだ。
——でもお前ら、これで驚くにはまだ早えぞ。
ハイハットとバスドラのビートで曲のギアを少し上げる。
てめえら、目をかっぽじってよく見てろよ。
心の中で呟きながら、ブレイクを入れ——温めたギアを全開にする。
うねるグルーヴ、荒々しいメロディライン。
さっきの曲が技を研鑽させる決闘だとすれば、これは力と力の生存競争だ。
身体の奥底から際限なく沸き立つ激情を全てビートに注ぎ込む。
だけど、ミリのズレも起こさぬよう、明鏡止水の如く理性とテンポは一定に保ち続ける。
心は熱く、頭は冷静に。
楽曲の土台を支えるドラマーとして、そこだけは崩すわけにはかない。
——俺が崩れれば、あいつが輝けなくなってしまうから。
気づけば、演奏を見て立ち止まった人たちの視線は、皆んなコトに釘付けになっていた。
そう、これでいい。
全員、もっとこいつを見ろ。
酔いしれろ、熱狂しろ——夢中になれ。
——それが俺の望みだ。




