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誘いは唐突に

 それは、四月下旬の放課後。

 部活の休憩中のことだった。


「ねえねえ京雅(きょうが)、ワールドツアーをやろう!」


 突然、同じ部活仲間の石原琴音がぶっ飛んだことを言い出した。


「……は?」

「だからワールドツアーだよ。ワールドツアー!」

「いや、言ってる意味が分かんねえよ。つーかどこで、どうやってやんだよ?」

「それはね……ジャジャーン! これで行います!」


 言って、琴音が操作していたARフォンの画面を俺に向ける。


「……ん、何これ」


 画面に映し出されていたのは、とあるゲームの公式サイトだった。


『Origin Re:Verse Online』——今、巷で大人気のフルダイブ型VRMMORPGだ。

 略してORO(オロ)とかオリヴァって呼ばれたりしてる。


 サービスが開始したのは、もう半年近くも前のことだが、現在もぶっちぎりの売り上げと同時接続数を維持し続けているらしい。


「オリヴァか。……って、なんでオリヴァ?」

「今日の大型アップデートで音楽士ってジョブが追加されるんだって。それで音楽士専用で使える武器が幾つかあるんだけど、実際に楽器としても使えるらしいんだよ!」

「へえ、面白そうじゃん。……で、これとワールドツアーに何の関係が?」

「ゲーム内の全部の街を路上ライブしながら回ろうってこと。題して、ワールドツアーin『Origin Re:Verse Online』!!」

「あー……そういうこと」


 大体、話の流れは読めた。


 キラキラと目を輝かせる琴音を横目に、俺は小さくため息を吐く。


「——つまり、俺もオリヴァを始めろってことか」

「ピンポーン! ご明察! ね、京雅。一緒にやってくれるよね? ね?」

「……お前、俺がやらねえって言っても、絶対食い下がって話聞かねえだろ」

「うん!」


 即答かよ。


 もう一度ため息を吐く。


 こうなった時の琴音は、とにかく頑固だ。

 意地でも俺が頷くまで、しつこくやろうと誘い続けるだろう。


「仕方ねえ……分かったよ。けど、あれってどこに行っても品切れ続出じゃなかったか? そもそも買えなきゃ元も子もねえだろ」

「あ、そこに関しては心配しなくてもいいよ。もう二つ手に入れてあるから」

「……マジ?」

「うん、マジもマジ。そういうことだから、帰りに家に寄って行ってよ」

「りょーかい。んじゃまあ、そろそろ練習再開すんぞ」

「はーい」


 琴音はARフォンを机の上に置き、スタンドに立てかけていたギターを手に取る。

 俺もそれを横目に椅子に座り直し、スネアのスナッピーを上げるのだった。

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