一生に一度のあいつ
「一生に一度のお願い!」
目の前のこいつは両手を合わせながら頼み込んできた。なんとも安い一生に一度のお願い。
「…春馬、今日はどんな一生に一度のお願いだ?」
「颯太ぁ…!!!宿題うつさせてほしい…!!」
「またか…?いい加減自分でやってこいよ」
「いっやぁ…おっしゃる通りでございます…」
「しょうがない、今日はいいけど次はないからな」
「颯太!!!!やっぱ持つべきものは友だな!!!」
…いい加減なやつ。
「一生に一度のお願い!!」
「今日はなんだ?」
「教科書貸してください!!」
「はー…次はないからな」
…こんないい加減な毎日でも俺は好きだ。だって…
「なー颯太」
星空の綺麗な日だった。
黄昏時にアイスバーを口に頬張りながら聞いてきたっけ。
「なんだよ」
「俺ばっかりいつも一生に一度のお願い使ってるじゃん?」
「自覚あったのか」
「そりゃあるよ…ごめんて、颯太はお願いなんて滅多にしないじゃん、なんかお願いないの?」
「一生に一度だけ使えるから一生に一度の願いっていうんだよ、お前みたいにそう何度も使えるか」
「まあまあ、一つぐらいはあるでしょ?」
「…強いていうなら……やっぱりなんでもない」
「強いて言うならなんだよぉ!!」
「春馬が一生のお願いしてこないこと」
「うぐっ」
確かにそう言ったよ。でも、俺の本当の願いは…
校長が放った言葉に頭がガンッと殴られたような衝撃が走った。
____そんな…
______あいつが…?
"それ"は突然だった。突然慌てだした教師が朝礼を中止し、緊急で全生徒が体育館に集められたのだ。
__あいつは、まだ、学校に来ていなかった。
いや、来れなかった、んだろう。
顔を伏せた校長が放った言葉はあまりに
残酷でその身を裂かれているようだった。
理解ができなかった。
___否、理解したくなかったんだ。
___あいつが、死んだ、なんて。
教師が言うには、交通事故だったらしい。
曰く、轢かれそうになっていた少女を助けたらしい。
あいつらしい最期だと思った。
誰かをかばって死ぬなんて立派なこと。
__あいつの、お葬式。
皮肉なぐらいまでの晴天が広がっていた。
___すぐに一生のお願いを使ってくるような、あいつの。
___忘れ物ばっかりでいい加減な、あいつの。
___わざわざ俺の願いなんかを聞いてきた晴馬の。
参列者は泣いていたり、お互いに慰め合っていた。
俺は泣けない。
頭は動揺するばかりであの日から涙を流すことができなかった。
考えようとすればするほど頭が真っ白になる。
参列者の多くはあいつを“可哀そう”といった。
…あいつの死は、可哀想、なんかじゃないのに。
俺、本当は言いたかったんだ、願い。
関係を壊したくなくて、今が続くと思って言えなかった、願い。
__俺の一生に一度の願い。
「俺、あいつのこと好きだったんだ、」
声に出してみたらもう駄目だった。
せき上げるようにたくさんの感情が流れてくる。
とどまることを知らない涙で視界がにじむ。
本当はわかってる。
あいつはもう、帰ってこない。
もう、会えないって。
でも、こんな終わりだけは嫌だった。
伝えればよかった、好きって。
臆病にならずに、素直に告げれば。
__今更後悔してももう遅いのに。
永久に叶うことのない俺の初恋は最も残酷な方法で散ってしまったんだ。
読んでいてあまりい気分のいい内容でしたが、読んでいただきありがとうございますm(__)m
今回、BLという初の試みで至らない点も多くあったと思いますが、広い心で読んでいただけたら幸いです。