表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
98/263

潜入調査にて(其の伍)

「ちぃ! 筏如き早く撃ち落としてしまえ!」


「それではあの少女を回収できません! 貴重なジャップストーンの素材をむざむざ海に放り出すなど数億銭の損益です!」


「メスガキなど何処にでも湧く! 攫えるところから攫えば良いんだよ! 邪魔な存在はすぐに消す方が良いに決まっているだろうが!」


 カノープスは悪魔教信徒の視線の先を見る。


「カノちゃぁぁぁん! ムジカはここだよ―――!」


 大声で叫ぶムジカの姿に驚き同時に呆れ果てる。

 

(ムジカにゃ!? どうして筏にゃんかに乗っているにゃ? それにそんなに大声を出して見つけてくださいと言っているようなものだにゃ! あ、でもお馬鹿さんなムジカにゃら仕方がにゃいか?)


 現状をすぐには理解できないカノープスだが、今すべきことだけはすぐに立てることができた。

 ムジカを助ける、それがこの船に乗り込んだ理由であり最優先すべき事項である。

 だが、ここで1つ問題があった。

 カノープスは星々の庭園内で潜入調査に最も秀でた隊員であるが、戦闘能力に関しては他の隊員より劣る。


(今更気付いたけれど、いつの間にか出港していたにゃんて……これは非常にまずい状況にゃ。あの数の悪魔教信徒を相手にどう立ち回りムジカを助けるか、そこが問題だにゃ)


「大砲はどうしたぁ!?」


「用意はできていますが……」


「さっさと撃て!」


「できません! あの少女の血液にはかなりの価値があります!」


「貴様ぁ、あたいはあのメスガキを殺したいんだよ!」


「私はお金の方が大事です! だから、できません! 殺すことに変わりないなら血を搾り取って殺すことの方が良いに決まっています!」


 自身の欲望に忠実な悪魔教信徒達はお互い譲ろうとしなかった。

 さらにどちらもムジカを殺すということだけは変える気が無いことに、この教団の異常さを感じ慄くカノープス。


(あんな頭のおかしい連中の相手なんてどうすれば良いにゃ?)


「あ、カノちゃん! ムジカはここだよ―――!」


 甲板の物陰から顔を覗かせる猫を見つけたムジカはカノープスに向かって大声で叫ぶ。


「ん? 他に仲間もいたのか! 探せぇぇぇ!」


 当然ながら真っ先に気付くのは悪魔教信徒であった。

 カノープスは驚愕した。

 まさか、ここまで頭の悪い子だとは予想もしていなかったためである。


(にゃぁぁぁ、ムジカのお馬鹿さん! にゃろが見つかってしまうにゃ! ええい、こうにゃったら!)


 バシャァァァン


 海上に飛び降りるカノープス。

 小柄な身体でムジカの乗る筏に向かう。

 だが、船から発生する波のせいで押し流され中々思うように進まない。

 さらに悪魔教信徒に発見されムジカとともに甲板から銃撃され、そちらにも注意を払う必要があった。


「にゃぁにゃぁにゃぁ……も、もう限界だ……にゃ」


「動きが止まった! 撃ち殺してやる!」


「お止めください! あの少女は2人とも大切な金のなる果実!」


「カノちゃん!」


 バァン


 身を挺してカノープスを守るムジカ。

 カノープスの近くまでやってきた筏の上で倒れてしまう。


「ムジカ!」


 カノープスはすぐ筏の上に乗りムジカを仰向けにする。

 撃たれた箇所は確実に胸の辺り……カノープスは最悪の想定も入れ銃創を見る。

 だが、何処にも銃創らしきものはなかった。


(もしかして外れたのにゃ? でも、それにゃムジカが倒れた説明が付かないにゃ)


 グゥゥゥ


 聞き覚えのある腹の音。

 カノープスからでは無い。

 ましてや甲板の上に居る悪魔教信徒達から聞こえるはずも無い。


「全力で筏を漕ぎ続けてたらお腹ペコペコになっちゃったのぉ。もう、動けないのぉ」


「ムジカ……このお馬鹿さん! 心配しちゃったにゃ! にゃろの心配を返せだにゃ!」


 言葉とは裏腹にムジカの空気の読めない一言は今のカノープスにとって最大の癒やしとなっていた。

 冷静さを取り戻した彼女は今の状況を素早く分析。

 これからの取るべき行動を即座に導き出す。


(にゃろの大好きな物語、叡智の書第9部第3章第11節『オバン3世』に書いてあったにゃ。この状況で取るべき行動はこれしかにゃいにゃ!)


 ポイッ


 カノープスは懐に忍ばせていた小型爆弾を甲板に向け投げる。


「ガキが! 諦めの悪いことを!」


「あれは爆弾!? 撃ち落として!」


 海中に飛び込んだ時に火薬が湿ってしまったため当然ながら爆発しない。

 だが、悪魔教信徒はそのようなことなど知らず甲板に乗り上げる前に撃ち落とそうと試みる。

 すべてカノープスの想定通り事が運ぶ。

 

「今にゃ! ムジカ、最後の一踏ん張りだにゃ」


「分かったの! あのうっすら見える島まで逃げるの!」


 カノープスは悪魔教信徒達に決め台詞を吐き捨てていく。


「あばよ―――かっつぁん! だにゃ」


 ありえないほどの速さで豪華客船から離れていく筏。

 甲板にいる悪魔教信徒の多くは激昂する。


「あ、あのメスガキィィィ! 誰が母だ! 馬鹿にしやがってぇぇぇ!」


「私の儲けが……あ、ああ……数億の金のなる実がぁぁぁ」


「許せん! 今すぐ追撃部隊を編成し、あのメスガキ2匹を確実に狩るぞ!」


 甲板を離れ船倉にある蒸気機関式小型艇を3隻、海上に設置する悪魔教信徒達。

 そして、いざ出発というその時であった。


「ああた達、何勝手なことをしているざますか?」


「こ、これはP様! 今からこの船に侵入していたメスガキを追うところでして……」


「ほぅ? あてくし達の命令が無いまま勝手に動くと?」


「そ、それは……」


「お、お金のためだなんて言えない」


「ただメスガキを殺したいなんてP様には……」


 悪魔教信徒達は口籠り何も言えなかった。

 それを察してかPことパープルである金鶴和之助は信徒達に向かって話す。


「その欲望の強さ、素晴らしいざます! あてくしは感動したざます。良いでしょう! 侵入者は抹殺が悪魔教の規則ざます。追撃することをあてくしが許可するざます」


「あ、有難き幸せ!」


「ああ、大金が再び私の下に!」


 小型艇で筏が向かった島へ向かう悪魔教信徒達。

 それを見守り不敵な笑みを浮かべるパープルの思惑とは……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ