潜入調査にて(其の参)
ムジカが漁村でカノープスを待ち続け、すでに半日が経った。
一向にカノープスが現れる様子もないことに不安を覚えないムジカ。
「わぁ、干物があったの! 焼いて食べるの!」
ムジカはカノープスを信じて疑わなかった。
それは以前からチームを組み、共に行動していたからこその信頼の証でもある。
だが、それが必ずしも両者にあるとは限らない。
「カノちゃんがここで待ち合わせって言ったの。ムジカはカノちゃんの言う事をしっかり聞く良い子なの」
今まで上手く任務を継続してこれたのは、優秀なカノープスがムジカに簡単で的確な指示を出してきたおかげである。
「いいかにゃ? ムジカは村人に悪魔教のことを聞くだけでいいにゃ。おそらく、大抵の人は知らにゃいと思うから、変な反応を見せた人だけ覚えておくにゃ」
「うん、分かったの! 早速、聞いて回るの!」
今回の任務でも当初は硫黄島の漁村で悪魔教に関する情報を収集することが目的であった。
倉庫を集合場所に決め、2人は別々に漁村内で活動していく。
カノープスは得意な幻術を生かし村の権力者の屋敷内を捜索、対してムジカは村民から直接、情報を聞いて回った。
その直後に襲撃が起こり今に至る。
美味しそうに干物を食すムジカ。
人っ子一人いない今の状況下でも何も不審に思わない彼女は呑気そのものである。
(悪魔教を知っていそうな感じの人は1人しか見つからなかったの。でも、その人も海賊に攫われてしまったの。どうすればいいか、カノちゃんが戻ってきてから相談するの)
そして、さらに半日が経過する。
停泊していた豪華客船が大きく汽笛を上げる。
「海賊がやっと去ってくれるみたいなの。それにしてもカノちゃんがいつまで経っても来ないの。ぺしゃんこになって風で何処まで飛ばされたのか心配になってきちゃったの」
若干の不安を覚え始めるムジカ。
だが、優秀なカノープスが海賊如きに囚われることなど、決して無いことだけは信じて疑わなかった。
汽笛が再び鳴り豪華客船が出港してしまう。
海賊船だと勘違いしているムジカはただその船を見つめている。
「海賊船が小さくなっていくの……あれれ?」
港から遠く離れたところで甲板が爆発したことを目撃するムジカ。
さらに何度か爆発を繰り返す。
その爆発音と飛び出る火花や爆風に見覚えを感じた彼女はやっと気付く。
「あの爆発はカノちゃんが使っている小型爆弾の爆発と同じなの! もしかしてカノちゃん……」
ムジカは確信する。
そして、思い立つと同時にすでに身体が動いていた。
「カノちゃんはあの海賊船にいるの! きっと風で飛ばされて海賊船の甲板に落っこちたからなの! そして、元のサイズに戻ったとき海賊に見つかり必死に逃げているの! カノちゃんを助けないと危ないの!」
港に向かったムジカは近くにあった筏に乗り全力で豪華客船に向け漕ぎ始める。
体力自慢の彼女は疲れを覚えることなく豪華客船の近くまで進む。
だが、船から発生する大波により接舷ができずにいた。
ザザーンザザーン
「くぅ、波のせいでまったく近寄れないの! それに近くに寄ってわかったけれど、乗り込むところがかなり高い場所にあるの。困ったの」
ドカァァァン
「見つけたぞ! 脱走者はジャップストーンに必要な素材のガキだ!」
直上の甲板で銃声と爆発音が鳴り響く。
ムジカは思った。
ここからなら大声で叫べばカノープスに気付いてもらえるのではないだろうかと。
「カノちゃぁぁぁん! ムジカはここなの―――!」
「誰か海上にいる!」
「あれは……少女!? まさか、島の生き残りか!」
「今すぐに回収しましょう! ガキが1人増えることで四天王からの褒美も多くなる!」
その反面、海賊たちにも見つかる恐れなど気付く由もなく大声で叫ぶムジカ。
当然ながら真っ先に気付いたのは悪魔教信徒であった。
甲板から筏に乗るムジカに向け銃を発砲する悪魔教信徒たち。
(どうして見つかったの!? 海賊の索敵能力は凄いなの!)
必死に筏を漕ぎ銃撃を避けるムジカ。
未だに彼女は海賊に何故見つかったか分からず再び大声で叫ぶ。
「カノちゃぁぁぁん! ここにムジカが居るの―――!」
だが、次から次へと甲板から顔を見せるのは悪魔教信徒ばかり。
それも当然である。
その頃のカノープスはというと……。
(にゃにゃ、ここはカジノという場所だにゃ)
ムジカを探し未だに船内をくまなく探している最中であった。
道中で逃げ出したという子どもの1人を発見したが、優先すべき人物はムジカのため手に持っていた小型爆弾を数発ほど子どもに手渡し、何処かに隠れているように促す。
(カジノってみんなでカードゲームをする場所かにゃ? にゃにゃ? うさぎの耳を付けた変な格好の女性が居るにゃ)
カノープスはバニーガールを見て、ふと叡智の書に書いてあった物語を思い出す。
(もしかして……あれが獣人というものかにゃ!? す、す、す、凄いにゃ! 主がお嫁さんにしたい相手ランキング1位の獣人は本当に居たんだにゃ! 主の元へ連れて帰ると……にゃは、にゃははは、主ぃ、そんなに大量のお魚食べられにゃいにゃぁぁぁ)
美心に今まで以上に褒められる妄想を抱くカノープス。
一瞬、ムジカを探すという目的が忘れかけるほどバニーガールを見入ってしまったが、すぐに我を取り戻し捜索を再開する。




