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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
93/263

漁村にて

「なんでや、ミストレス直々の特務なんやで」


「こちらのお願いを聞いてくれないからデース。温泉……一緒に行ってくれマスカー?」 


(そう出たかいな。ほんまに難儀なやっちゃで)


 ずんは舞香を見ていたいが彼女の言葉に渋々了承する。

 すると、ピヨリィは子どもみたいに喜び裸でずんの私室を走り回っていた。


「う……ううん……こ、ここは……」


「舞香様、目が覚めたみたいやな」


「ずん……」


「オゥ、瞳がブルーなんですネー。ミーと同じデース」


「こちらの方は?」


 ずんは返答に困った。

 舞香が変態であることを誰にも知られたくないという一心で、信者から距離を取らせていたのはずん自身であるためだ。

 相手は天真爛漫なピヨリィ。

 舞香がミストレスこと面河厚美であることを知られては一大事である。


「舞香様、また出かけるんやろ。うちらはちょっとここを離すわ」


「は、はぁ……」


 ずんはすぐに入浴セットを持ち、ピヨリィの手を掴み部屋の外に出る。


「ほら、行くで」

 

「オゥ、あの方とも入りたいデース」


「うちだけでええやろ。それと一緒に温泉入るっちゅう約束果たすねん。そっちもミストレスの特務受けてや」


「ハァイ、勿論デース」


 硫黄島の港に停泊した豪華客船から降り蒸気自動車を走らせるピヨリィ。

 久しぶりの陸地ということで外に出る者は多く、島は悪魔教徒達で賑わっていた。

 ある者達は信者を増やすための活動を、またある者達は男狩りを、またまたある者達はジャップストーンの素材になりそうな子どもを攫うため動き出した。

 もはや海賊行為に等しいその停泊で島の住人から男性は駆逐され、女性は信徒か奴隷同然のねぇよ男性になるしか道は取り残されていなかった。

 その海賊行為を屋根裏から覗いている1人の女の子。


(にゃにゃにゃんにゃの!? あいつら、島民に酷いことしてるにゃ。もしかして、海賊かにゃ? 早くムジカと合流しなきゃ危険にゃ)


 彼女の名前はカノープス。

 星々の庭園(スターガーデン)のメンバーの1人であり、故郷は薩摩藩の一部である種子島。

 この硫黄島には悪魔教調査のため仲間と共にやって来ていた。

 屋根裏から辺りを確認するカノープス。


「きゃははは、男共は生かして逃がすなぁ!」


「女だけの素晴らしい世界のために!」


「Yカスは滅亡しちゃえってんのよ!」


 凶悪な武器を装備し男性に襲いかかる悪魔教信者達。

 視線を別の方へ向けると幼女が悪魔教信者に攫われそうになっている。


「ほぅら、お嬢ちゃん達はこちらだよぉ」


 母親らしき人物が必死に幼女を取り返そうと悪魔教信者に掴みかかる。


「みさえを、みさえを離してください!」


「ええぃ! 我らの邪魔をするとは貴様、ねぇよ男性だな!」


「えっ?」


「貴女にはもう人権がねぇよと言う意味だよ。そして、女であることも許されない。だから、ねぇよ男性なんだよ」


「いいペットが見つかりましたねぇ、くひひ。誰がご主人さまか躾を施して差し上げましょう」


「ねぇよ男性が! 豚が服なんか着てんじゃねぇよ!」


「い……いやぁぁぁ!」


 髪を掴まれ着物を剥ぎ取られる女性。

 鉄の首輪を付けさせられ悪魔教信者から集団リンチを受けてしまう。


(こ、怖いにゃ。海賊なんて初めてだにゃ……怖くて、ここから動けないにゃ。でも、行くしかないにゃ!)


 覚悟を決め陰陽幻術で猫の姿に化けるカノープス。

 彼女の特技は猫の姿に化けることができることだ。

 星々の庭園内でも潜入捜査において秀でている。


「にゃにゃーん」


「なんだ、物音がすると思えば野良猫か」


 悪魔教信者達の横を何事も無いかのように通り過ぎるカノープス。

 

(やったにゃ。にゃろ(カノープスの一人称)は良くてもムジカは幻術が使えにゃいにゃ。早く探さにゃいと……)


 悪魔教信者達が闊歩する漁村内を探し回るカノープス。

 だが、ムジカの姿はどこにも無かった。


(おかしいにゃ。あまり遠くへは行かない約束にゃのに居ないにゃんて……もしかして、海賊に捕まったのかにゃ? だとすると……)


 港に停泊している一隻の船だとは思えないほどの巨大な風貌を見て、息を呑むカノープス。


(海賊船の中しかいにゃいよね? こ、こここ、怖いにゃぁ……)


 ブロロロ……


 一台の蒸気自動車が港から出てくるのを目にするカノープス。


 ゾクッ


(にゃ……今の悪寒はあの女性からだにゃ……)


「あっ、ちょっと止めてや」


「ハァイ」


 カノープスの近くで停車する車。

 ずんが降りカノープスの近くへやって来る。


(にゃにゃにゃ!? まさか、幻術が効かない相手かにゃ!? 急いで逃げにゃいと……)


「あ、こら。逃げんなや」


(にゃ!?)


 ヒョイ


「この野良猫、めっちゃ可愛いやん。もらっとこ」


「ホントですネー。連れてくデース」


 十分逃げ出せるほどの距離があったにも関わらず、いとも簡単に捕まるカノープス。

 彼女は震えた。

 自分を可愛く撫でるこの女性から感じる何かで悪寒が収まらない。


「ぷるぷる震えてかわええなぁ、お前」


「にゃ、にゃあ」


(幻術で猫に見えてるらしいけど困ったにゃ……バレたら絶対に殺されるにゃ。ここは落ち着くのが先決にゃ)


 カノープスは深呼吸で心を落ち着かせ冷静に今後のことを考える。

 ムジカが船の中に捕まっているのだとすれば、今の状況は見方によっては潜入しやすい。

 このまま猫を演じ続けられる自信は十分にある。

 

(にゃろは主に救助されるまで猫の家族に紛れて育ったにゃ。今なんてあの頃に比べれば大したことないにゃ。ムジカ、少しの辛抱にゃ)

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