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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
88/263

吉原にて(後編)

 スピカは驚きを隠せなかった。

 新人とばかり思い戦力にならないと初めから見捨てていたマルフィクが実は美心だったことに……。

 いや、実際にはスピカ自身はまだマルフィクが美心だとは確信を持てていない。

 フードから覗く赤い瞳が美心と似ているだけなのかも知れない。

 

「ねぇってば、スピカ。マスターが居るの?」


「いや……すまん。早計だったのかもしれん。だが……」


 スピカ自身、指一本動かすことが出来ないこの重力の中で素早く動けるマルフィクは、単に陰陽術を無効化することに長けているだけなのかもしれない。

 そもそも美心がマルフィクに扮して何か意図があるのかスピカは考えに考えた。


(ま、まさか! マスターは某が心配で? 某が酷い目に遭わないか心配で他人になりすましサポートし某を後ろから見守る……。ヒーラーのデネボラを付けたのもそれなら納得ができる!)


 スピカは感動し自然と涙が溢れ出てくる。


「ちょっ、急にどしたん!? スピカ……」


「ああっ、なんということだ。某は今でもお義母様の寵愛を受けているのですね?」


「???」


 当然のことながら、それはスピカの妄想にすぎない。

 実際には面白そうな展開があるかもと美心は2人を騙しマルフィクとして変装しスピカの側に居たに過ぎない。

 そう、すべては自身の愉悦のため……。

 美心にとっては老後の楽しみの1つでしかなかった。


「この大型蒸気自動車には……むしゃむしゃ……突撃させないんだな! むしゃむしゃ……おでの威信にかけても……むしゃむしゃ……ここだけは絶対に……むしゃむしゃ」


 墓盛は両手に持ったポップコーンを頬張りながら美心に話しかける。

 美心は憤った。

 敵が目の前にいるのに食べることを優先するその余裕の態度に。

 何よりバトルへと至る前の良い展開を台無しにしかねない墓盛の暴食に怒りがフツフツと湧き上がる。


 パァン


「あっ、おでの!」


 美心は陰陽術で墓盛が手に持つポップコーンを燃やし灰へと変える。


「貴様ぁ、せっかくの展開をなに台無しにしてんだ! 暴食の墓盛だっけ? 自己紹介はしっかりしてくれたのによぉ……その後にどうしてポップコーンが出てくるんだ! 違うだろ!? ここは初撃に……」


「お、おでのポップコーンがぁぁぁ!」


 大粒の涙を零しながら泣きわめく墓盛。


「人の話を聞けぇぇぇ!」


「早く……早く食べ物を口に入れなきゃ……お、おでは……」


 美心の言葉など無視し慌てふためく墓盛。

 この期に及んで食い意地を張るその態度に激高する美心。

 

「そ、そうだ……自動車の中におかわり用のお菓子があったんだな。は、早く取りに行くんだな……」


 カッ

 ズガァァァン!


 重い腰を上げ急いで大型蒸気自動車の中に入ろうとする墓盛。

 だが、扉を開いた次の瞬間、美心の陰陽術が放たれる。

 そして、大型蒸気自動車は跡形もなく蒸発し消滅する。


「お……おでの……おでのお菓子がぁぁぁ!」


「いつまで食い意地を張るつもりだぁ!」


「お、お前……おでを怒らせたんだな。ゆ、許さないんだな」


 相手が美心だと気付いていない墓盛は美心を睨みつける。

 

 クイックイッ


 美心は余裕の表情で墓守を挑発し片手で手招きをする。


「ふ、ふんがぁぁぁ! おでを馬鹿にしやがって! ゆ、許さないんだな!」


 巨大な贅肉の塊と化して美心に突進していく。

 だが……。


 キンッ

 ブシュワァァァ


「ぎゃぁぁぁ! お、おでの足がぁぁぁ!」


「マスターに手出しはさせん!」


「本当にマルフィクがマスターだった! え、え、え……じゃあ、マルフィクは?」


「動けるようになったか、2人共」


「「はい!」」


 大型蒸気自動車を破壊したことによりスピカとデネボラにかけられていた重力陰陽術は解けていた。

 

「じゃ、そいつのとどめは任せた。スピカ、殺れるな?」


「はっ!」


 相手との力の差があまりにも離れていたことで美心は戦う気を失いスピカの訓練に使うことを思い付いた。

 あいては食べることだけしか脳のない雑魚。

 スピカでも十分だろうと判断したのである。


「暴食の悪魔! 貴様らの蛮行……実に許しがたし! 某が天誅を下してくれる!」


「お、おぅ、おぅ、おぅ……やつが……やつが……きちまうんだな」


 墓盛の様子がおかしい。

 身体が小刻みに震え何かに怯えているようだった。


「な、なんだ……」


 1時間前……蒸気機関式超巨大豪華客船にある一室にて。

 

「あら、B。ああた、まだ事務仕事を終えていなかったざますか? そんなのは適当に書いて提出しておけば良いざましょ」


「なんや、金鶴かいな。うちは今、忙しいんや」


「いやね、墓盛を今回出撃させた意図を聞きたくてお邪魔したざますよ」


「なにか問題でもあるん?」


「おほほほ、問題というか……墓盛は会う度に何かを食べているところしか記憶にないざまして……」


「あー、単に心配しとるだけかいな。大丈夫や。墓盛、そのものはセブンシンズの中で最弱でもヤツはちゃうでぇ」


「ヤツ? 墓盛以外に誰か向かわせたざます?」


「いんや、墓盛とモブ共だけやで」


「では、あいつとは?」


「ふふふ、墓盛の中にな……おるんや。ミストレスが寄生させよった呪物が」


 金鶴は驚きと興奮を隠しつつ納得した表情を装い話す。


「なるほど……それは是非使ってみる必要があるざぁすね」


「ジャップストーンだけでは真の計画は頓挫するやろし、ミストレスが考えたんや。瀕死の呪物を無理矢理、普通の日本人の口に押し込め寄生させるとどうなるかってなぁ」


「おほほ、なんて酷いことを……でも、最高ざますね」


「うふふふ……」


「おほほほ……」


 不気味な笑い声はその後、小一時間ほど続いた。

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