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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
85/263

講堂にて

 4月8日23時、吉原スラム。

 周囲に身を潜める星々の庭園(スターガーデン)の隊員3名の姿があった。


「あの色街がこのような廃墟と化したのが悪魔の仕業だとは……」


 彼女の名前はスピカ。

 シリウスやリゲルと並ぶ星々の庭園結成当時からの古参メンバーであり、戦闘能力に関してもシリウスと決して引けを取らないほどの腕前の持ち主である。


「スピカぁ、そっちは準備おっけぇ? うちの方はいつでも大丈夫だしぃ」


 式神式無線で連絡を行うスピカ。

 通信の相手はデネボラ。

 彼女も星々の庭園古参メンバーの1人である。


「ああ、住人に扮し適当な空き家で待機している。こちらはいつでも動ける」


「じゃぁ、ちゃちゃっと済ませちゃいますかぁ?」


「悪魔教は某達の情報をすでに手に入れている可能性もある。十分に警戒するよう……」


「分かってますってぇ。うちだってジャップストーンの材料になんてなりたくないしぃ」


「ジャップストーン……マスターからお聞きした外人でも陰陽術が使えるようになるという赤い結晶か」


 時は1か月前まで戻る。

 美心が日本全国に散らばる星々の庭園隊員を京都春夏秋冬邸講堂に再集結させた時のこと……。


「我が愛する娘達よ……再びこの場で相見えたことに我は感動すら覚える」


「うっうっうっ……マスター! 私達も同じ気持ちです!」


「マスター!」


 美心の隣に立つ比奈乃が言葉を発する。


「この5年間で約半数の隊員は結婚や就職で隊を離れていったわ。それは何故か!? それは5年間も悪魔を見つけられずに何も結果を残せていなかったためよ! でも、それも今日で終わる。星々の庭園全隊員に告げるわ。星々の庭園は再び正義の名の下に世に羽ばたく日がきた!」


 ザワザワザワ


「「うぉぉぉ!」」


「アリエス様―――!」


「マスター万歳! アリエス様万歳! 星々の庭園万歳!」


「んと……どういうことなん?」


「なんだっていい! 俺達の時代がまたやってきたってことだ!」


 歓声に沸き立つ全隊員。

 中には嬉しさのあまり泣き出す者さえいるほどであった。

 

(ふふ、流石だな。比奈乃の言葉だけで全員の目に光が戻った。これも生徒会長の仕事を淡々とこなす血のなせる技なのだろう)


 比奈乃の表情が緩み笑みがこぼれ出る。


(んはぁ……久しぶりのこの感じ! そうよ、これよ、これ! やっぱりごっこ遊びはリアリティを重視しなきゃね。巴ちゃんと静ちゃんも来れば良いのに変に恥ずかしがって断られたんだよなぁ)


 その笑みを疑問に思った隊員の1人が挙手をし話を始める。


「アリエス様、もしや悪魔の居場所が?」


「ええ、判明したわ」


 ザワザワザワ


 多くの隊員が動揺を隠せず困惑する。


「皆の者、静粛に!」


「悪魔の件についてはヴァルゴから、それと悪魔に関する研究内容についてカペラから話がある。皆、心して聞くように!」


「皆さん、覚えていますか? スコーピオン……いいえ、シリウスとリゲル・ベガ・プロキオン達4人のことを」


 講堂が静寂に包まれるも目はしっかりとレグルスを見つめ、中には頷く者さえいた。


「ありがとうございますわ。皆さんも4人のことを覚えていてくれて……さて、数週間前、マスターの下に一通の封書が届きましたの。それもエゲレスから……宛名はシリウスでしたわ」


「なっ!?」


「え、えげれす?」


 ザワザワザワ……


「皆が驚くのも当然ですわ。妾も驚きました。ですが。重要なのはここからでしてよ……」


 レグルスが全隊員の前で話す驚愕の新事実に星々の庭園隊員の多くは歓喜に震え時に恐怖し感情を揺さぶられた内容であった。


「あ……悪魔教……そんなものがこの日本に?」


「少女を家畜として牧場で飼うなんて許せないにゃ!」


「おのれ外国人! 私達はアンタ達なんかに支配されたりしない! 絶対に負けないんだからぁ!」


「「そーだそーだ!」」


 レグルスが話すのはシリウスが書いた手紙の内容。

 その話にのめり込み隊員の多くはエゲレスや尼僧に激しい憎悪を抱くことになった。

 そして悪魔との戦いの話を切り出すレグルス。

 スピカはそれを聞いた時、今までにないほどの黒い感情を持ってしまったことを実感する。


(シリウスが……リゲル達と共に……悪魔1体と悪魔教の幹部を1人倒しただと!? 某は何も結果を残せていないのに! どうして、どうしてアイツは某よりに2歩先を行ってしまうんだ!)


 2人が美心によって救出されたのは同じ場所同じ時間。

 シリウスとスピカは赤子の時から同じ村出身であり訓練生時代、2人は共に良いライバル関係だった。

 だが、共に同じ過去を持つ2人はプライベートでは互いにあまり話すことがなく、友好関係は決して良好とは言えぬものであった。

 そして、シリウスがリゲル達と忽然と姿を消したあの日……スピカは美心に強請りに強請って1人で3年もの長い時間をかけて全国を渡り歩きシリウスを探した。

 だが、海外に居る者を日本国内で見つけられるはずもない。

 スピカは美心に勧められる見合いをすべて断り、特訓に特訓を重ね自分を限界まで鍛えた。

 いつかシリウスと再開した時にどちらが上か白黒はっきりさせるために……。


「マスター、某もエゲレスに!」


「スピカ、まだレグルスの話が終わっていないわよ」


「マスター!」


「スピカ! いい加減に……」


 美心の口が開く。


「スピカ、お前はシリウスと同じ村出身だったな? あの子の成果が納得できないか?」


「ぐっ! そ……それは……」


 スピカは言葉に詰まる。

 続けて美心が話す。


「ここで情報を得ることでお前にも成すべきことが見えてくるはずだ。今は聞け、良いな?」


「は……はっ!」


 レグルスの話が終わり、続けてカペラが話す。

 その内容は賢者の石についてであった。


「……であるが故に……でありんす」


 製造方法だけでなく使用方法でも日本が危険に晒されるかもしれない状況であることに恐怖し震え泣き出す者もいた恐ろしい新事実。

 皆の表情がそれに疲れ果てたことを確認したレグルスは、アリエスに話を持ちかけ今日の集会はここで終わることになる。


 ザワザワザワ


 皆が久しぶりの寄宿舎へ戻っていく。

 その中でまだ講堂に残るスピカ。

 彼女の瞳は赤く燃えていた。


(賢者の石……別名、ジャップストーン。そんなものを使って帝国主義の奴らは……許せない!)


 プライドも高いが情にも厚いスピカはジャップストーンを知って、自分が成すべきことを見出す。

 

(某が日本悪魔教を潰す! だから、エゲレスにある悪魔教は任せたぞシリウス!)


「ふふっ、熱いな……やはり熱血娘はスピカが適任か」


「お婆ちゃん、何笑ってるの?」


「明日、スピカと数名の隊員を連れて墓参りに行くつもりだが比奈乃はどうする?」


「私は学校だし無理かなぁ。でも、どうして急にお墓参りなの?」


「戦争前の挨拶ってところだな。浅草土産を買ってきてやる」


「やった――人形焼を1538個ね! 学校のみんなに渡すつもり」


 そして、話はここから始まる。

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