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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
美心(青年期)編Ⅰ
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学園にて

「さぁ、何とか言ってくださいな? それとも、やはり磨呂には言えないこと(Mプレイ)で出来た傷なのですか?」


 美心は他に良い方法がなかった。

 仕方なく得意の演技をして言い訳を取り始める。


 ギュッ


 明晴の腕を全身で掴み顔を赤らめて舞香に言う。


「わ、私が先生に付き合ってもらったの! 中御門様、こんな恥ずかしいこと最後まで言わせないでください!」


 舞香は案外、落ち着いて美心の言葉に耳を傾けられた。


(やはりこの2人は恋仲! でもでも……痛しの君から磨呂に至高の一撃を頂くまで諦めることなどできないです! それにはどうしたら? この2人を別れさせる? 磨呂にはその方法が思い付かないですぅ! はぅぅ、早く早く顔面に渾身の一撃を頂きたいのにぃぃぃ)


 舞香は脳内で如何にして美心から殴ってもらえるか思考を巡らせてしまう。

 そして、美心が明晴と付き合っているということなど耳にしたことが無い明晴自身は驚きを隠せなかった。 


「へっ? あっしと美心っちが……付き合ってる!? ええええ! 美心っち、あっしにとって美心っちは大切な娘的な……」


「お兄ちゃんは黙ってて!」


「は、はい……」


 舞香は最後の抵抗ばりに言葉を放つ。


「じゃ、じゃぁ……その胸の刀傷は……」


「互いにやり合うんだから、これくらいの傷付いていてもおかしくないと思いますが……」


 美心の脳内で考えている『付き合う』は恋仲になるという意味ではない。

 明晴を師匠として学園外で本物の日本刀を使って訓練をしてもらっているという意味での『付き合う』だったのだ。

 明らかな言葉不足によって舞香は絶望の淵に叩き落される。


(そ、そんな……痛しの君が……磨呂が慈悲を与えた者に痛め付けられ悦びを知るなんて……)


「なぁ、舞香様。うち、お腹空いたわ。はよ、食堂へ行って夕飯にしようや」


「そう……です……ね……」


 ずんに引っ張られ元気なく歩き去って行く舞香。

 その胸の内にはふつふつと湧き上がる感情があった。


(ももちょ……ニックネームが特徴的だったので実名は忘れてしまいましたが、磨呂が幾億幾千の者を輪廻転生させてきた中で唯一、慈悲をかけて特別にこの世界の歴史上の人物へと転生させたことはよく覚えています。本人もきっと幸せだったことでしょう。ですが、まさか陰陽術の深淵とやらを発見し自身を不老不死にするなど想定外のこと。不老不死など人の世にあってはならないものだったため、フレイお兄様から人界へ降り消すよう何度も戒められたこともありますが、慈悲をかけ磨呂が転生させた相手……特別にそれも見逃しました。ですが、今回ばかりは看過出来ません! 磨呂の…磨呂の痛しの君をよりにもよって奪うなど! これは神に対する反逆行為です! もう慈悲は無いと思いなさい、ももちょぉぉぉ!)


 舞香はこの世で初めて激おこぷんぷん丸になった。

 怒りによって食事の味も感じられないほどの醜い感情。

 舞香はすぐにでもこの感情をどうにか消したいと心から願った。

 だが、校門前での告白を思い出す度に思い出し明晴への憎しみは日に日に増すばかりであった。


「あ、美心ちゃん。今日もお兄さんの家から登校?」


「兄妹仲良くて羨ましいですね」


「あはは、確かに格好良いもんね。美心が他の男に靡かないのも頷けるわ」


 校門前のことはおしゃべりなずんによって大きく内容を捻じ曲げられ学園全体へと伝わってしまった。

 それが美心の想定した学園生活に支障をきたすパターンだと分かっていながらも、あの場では他に方法が無かったため半ば諦めていた。

 美心の学園生活に影響を与える支障とは乙女ゲーム主人公の立ち位置が危うくなるといった単なる自己中心的な思いから来るものだった。


(畜生、ずんのやつ……好き勝手に広めやがって。ま、おかげでモブ男どもから声をかけられることは少なくなったけどな。こいつらを除いて)


「美心さん、今日の放課後は空いているかい? たまには僕とお茶でも……」


「美心、俺が剣術の稽古を付けてやっからよぉ。放課後は俺と付き合えって」


「お、俺は別に美心が誰と仲良くしてようと関係ねぇけどよ……」


「オイラは昨日、姐さんに飯を食べさせてもらったっす。あの玉子焼きまた食べたいっすよ」


「はいはい、あんなのいつでも作ってあげるから」


 攻略キャラである4人は相変わらず美心に学園イベントを与える飽きさせない存在として適当にあしらわれていた。

 そして、時は流れ慶応元年2月2日……。

 長州にて……。


「はぁはぁはぁ……やった! 長州は俺たち悪魔派が獲ったどぉぉぉ!」


「うぉぉぉ! サタン様万歳! バフォメット様万歳!」


「くくく、低杉珍作ひくすぎ ちんさく。どうやら邪魔者を完全に長州から追い払ったようだな」


「ああ、それもこれもアンタの力添えがあったからだ! ありがとな!」


「なぁに、礼には及ばんよ。……で、貴様の自慢の鬼兵衛隊きべえたいは?」


「アンタとの約束を果たすため京に向かってすぐに出立した。数週間もあれば中御門舞香とその側付きを長州に連れてくるはずだ」


「くくく、それなら良い。貴様らに渡したジャップストーンはまだ試作品だが日本国内で使用すると、日本人なら誰でも明王の領域まで陰陽術を高められる。失敗することは無いと信じているぞ」


 徐々に狂い始める日本の歴史。

 美心はまだこの後の悲劇を知ることもなく学園生活を楽しんでいた。

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