校門前にて
舞香を受け止めた明晴の耳元で彼女は小声で話しかける。
「貴女だったのですね。ももちょ」
「えっ……どうしてその名を?」
明晴から離れ美心と明晴、2人を見つめる。
(この2人……ところどころ服が破けているだけでなく、身体に傷までも負っている。うまく隠しているようですけれど、磨呂の目を誤魔化すことは出来ないのです)
舞香は異常なほど世間知らずである。
そのため、京の街の者が学校の中に大勢やってくることさえなぜだか知らずにいる。
毎年、行われる文化祭のように学校を開放しているとしか認識をしていなかった。
そして、ここから彼女の勘違いが始まっていく。
(……この2人、外から戻ってきていました。まさか、この2人付き合っている? それだけなら特に磨呂には関係ないのです。ですが……)
舞香は恐る恐る美心に聞く。
「痛しの君……ではなくて芋女。貴女、学園から出て何をしていたのですか? 着物がそんなに痛むまで……」
「えっ……そ、それは……」
美心は学校を抜け出して戦に参加していたなど言えるはずがない。
舞香からの意外な質問にすぐに返答ができない美心は明晴と目を合わす。
だが、その行動は失敗だった。
舞香は頬を赤らめ明晴を見つめているように美心の姿が映る。
(転生者が転生者に恋……特に問題は無い! 特に問題は無い! けれど……どうして磨呂の心はこんなにざわざわするのです? 磨呂はただ至高の一撃を痛しの君から頂きたいだけなのに!)
「はっ!」
舞香は気付いた。
美心が明晴とそのような仲であるということは、舞香自身のことを気にかけることなど皆無であると。
今まで殴ってほしい一心で嫌がらせをしていたのがすべて水泡に帰す重大なことであると気付く。
(い、いけないのですぅ! それだけは何としても! せっかく、痛しの君との関係が構築できたばかりですのに磨呂のことをまったく気にもかけなくなるなんて酷すぎるのですぅ! あ、でも完全に無視されると考えると……んんっ! ちょっと快感かも?)
根から変態の舞香は放っておき美心が目を合わせる明晴はそれが何とかしてほしいとのサインであると気付く。
舞香が耳元で囁いた内容が頭から離れず困惑していたが、大好きな美心の助け舟になろうと必死に誤魔化す。
「えっ……あー……こほん。美心っちと私は外で困っている人が居ないか見回りに行っていたんだよ。舞……香……さんだっけ? 美心っちは何も危険なことはしてないよ。うん、嘘は言っていないよ。ホントのことだよ」
明晴は嘘を付くのが下手であった。
舞香はさらに追求する。
「外に出ていたことはここに戻ってきたことから理解できます。けれど、2人のその傷はなんですか? 痛いこと(Mプレイ)をせずして、そのような傷は付くはずがありませんのですぅ!」
美心と明晴は困惑する。
まさか、身体に負った傷まで見抜かれるなど予想外であったためである。
なんとか反論しようと先に口を出したのは明晴。
「あはは、舞香さん。美心っちに危険は無かったよ。私の傷は道中で暴漢に襲われかけた美心っちを助けたときにできたものなんだ」
「そ、そう! 本当に怖かったよ。助けてくれてありがとう、お兄ちゃん!」
明晴の言葉に乗り何とか舞香の疑念を晴らそうとする2人。
「嘘です。その話では芋女についた胸の刀傷は何なのですか?」
舞香には女神の力で必死に隠している傷も容易く見抜くことができている。
そして、その追求により2人は何も言えなくなってしまった。
(く、くそう。舞香め、なんでそんなに傷のことに執着してくるんだ? きっと、俺がこっそり学園外に出たことをバラし俺を退学させるつもりなんだ。なんという悪役ムーブ! それこそ俺の認めた悪役令嬢だぜ! だが、どうする? この追求を逃れなければ俺は学園を退学させられる!)
美心は舞香がしっかりと設定したキャラ付け通りに動いてくれることに感心しながらも、この場をどうやって逃げるか必死に考える。
絶対に逃れられる方法はすでに思い付いているが、それは今後の学園生活に大きく影響を与える諸刃の剣であるためなかなか出せずにいた。
その方法とは……。




