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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
美心(青年期)編Ⅰ
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蜆御門の変にて(其の捌)

 明晴の詠唱が長く、美心と沖田のバトルが始まって5分が経過した。


「オォォォ!」


 沖田の肥大化した右腕が変化し巨大な刃に変わる。

 呪物に取り憑かれると人の肉体は徐々に人外の存在へと変化していくのだ。

 普通の人であれば、その禍々しい見た目に慄き逃げ出すところであろう。

 だが、美心は違った。

 ゾンビだろうがゴブリンだろうが、前世で数々のロールプレイングゲームを遊び、最新機種でよりリアルに描かれた異形のモンスターを毎日見ていたことで耐性が付いている

 

(うっひょぉぉぉ、腕がでっかい刃物に変化しやがった。ホラゲーのラスボスにありがちな人が人外の存在に変わっていく有様を生で見ることになるとはな。だが、今は貴様の相手をしているところではない! 俺の対角線上に明晴がいる場所に移動し、この呪物がその間を通ったときに俺の最大陰陽術を打ち込む! くーくくく、これこそ敵を狙ったつもりが味方を撃ってしまうありがちな展開! 明晴も俺が狙っているなどとは思っていまい! その油断が命取りになるんだ!)


「オォォォ女剣士ィィィ!」


 ギュン

 

 沖田の変化した右腕が伸び美心の身体を串刺しにしようと襲いかかる。


(マ!? ホラゲーあるあるな攻撃じゃねぇか! くそっ、今の姿勢からじゃ避けきれねぇ。受け止めるしか……)


 ガシッ


 その右腕を全身で受け止める美心。


 ギュルルル


 伸びた腕が急速に元に戻り美心もそのまま沖田の近くに引き寄せられる。


「美心っちぃぃぃ! こ、この呪物めぇぇぇ!」


 カッ!


 明晴の立つ位置からでは美心が串刺しになったように見えた。

 美心が殺られたと誤解した彼は怒りでまだ不完全ながら陰陽術を放つ。

 それはまるでレーザーのような光の柱だった。

 

「!!!」


 美心は驚愕する。

 明晴が詠唱を完成させたならば一度、沖田から距離を取るように絶対に指示をするはずであると。

 だが、実際には美心自身が沖田の至近距離にいるのにも関わらず放った。


(め、明晴……貴様、俺と同じ事を考えていやがったなぁぁぁ! くっそぉぉぉ、俺を亡き者にして完全な勇者として君臨するつもりかぁぁぁ!)


「ふ、ふざけるなぁぁぁ!」


 美心は再び大きく誤解する。

 今が絶好のチャンスとばかりに明晴が自分に向かって陰陽術を放ったと勘違いしたのである。

 そして、自分が殺られる前に明晴を殺ろうと美心自身も近くにいる沖田を巻き込み明晴へ向かって陰陽術を放つ。

 放った陰陽術は彼女の得意な陰属性の術。


「ウ……ウガァァァ!」


 陽と陰、両属性の攻撃に挟まれ苦しみ藻掻く悪魔化した沖田。

 

 ピキッ


 能面に亀裂が入る。

 正反対の属性が互いに侵食し合い無効化されてしまう。

 その狭間にいる沖田の肉体には何のダメージも受けない。

 だが、呪物にとっては違った。

 両属性が混ざる時に発生する陰陽のエネルギーが膨大な負荷として呪物に牙を向いていた。

 その状況を知った明晴は驚きを隠せなかった。


(美心っち、良かった……何の怪我もなかったみたい。それにしても、あっしが陽属性の陰陽術『光明』を放つと分かって、咄嗟に陰属性陰陽術『暗黒』で呪物に取り憑かれた人にダメージが入らないよう中和するなんて……凄い! 凄いよ、美心っち!)

 

 明晴の中で美心のしゅきぴ度が激増した。

 

 ピキピキピキッ……パリィィィン!


 般若の能面が砕け散り沖田の素顔が晒される。


「えっ? こ、この人は……神撰組の沖田怜士!?」

 

 美心は陰陽術を放つことを止め、気を失っている沖田を受け止める。

 

「まさか、彼ほどの大物が呪物に寄生されるとはね……この戦いで仲間を大勢失ったことによる心の傷を漬け込まれたってところかな」


(やっべぇ、まさか俺のせいじゃないよな? そもそも、先に斬り掛かってきたのコイツラだし……)


「戦争は……もう嫌だよ。お兄ちゃん……どうして、沖田様が……こんな目に」


「そうだね。日本を世界最強にしても内側で壊し合いをしていたら意味がないよね」


 美心は本当のことを言わず、女の涙で明晴を誤魔化す。

 計画が失敗した以上、明晴を消すのは次の機会。

 心の中で嫉妬の炎を燃やしながらも明晴の前で良い子ちゃんを演技する美心。


「美心っち、ここで少し待ってて。帝の様子を見てくるから」


「うん……気をつけてね、お兄ちゃん」


 その後、明晴は帝が無事だったことを確かめ二人の元へ戻ってくる。

 そして、沖田を抱えた明晴と共に神撰組駐屯地へ向かう。

 対応したのは1人のモブ隊士。


「沖田殿はもう大丈夫です。安静にしている必要はありますが……明晴殿が助けて下さったのでしょうか?」


「いいえ、この子ですよ。本来なら学校内で待機だったのですが……」


「その子は……隊長から聞き及んでおります。なんでも美心殿は明晴殿の愛弟子だとか? 美心殿も今回の長州藩の行動に怒り心頭だったのでしょう。分かります、幕府に歯向かう不届き者、確かに許せませんよね。はっはっは」


(誰も激おこなんてしていないんだよなぁ。そもそも、俺は政治的な内容に手出しなんてしたくないし……)


 因みに美心は自作のボディースーツを幻術で着物に見せているため、隊士からジャップ・ザ・リッパーそのものだとは気付かれていない。


「幼い頃に少し指南をしただけですよ。後は彼女の努力の賜物です。では、私はこの子を学校へ送り届けるのでこれで」


 駐屯地を後にし学校へ戻る美心と明晴。

 門の前では十字架に掲げられた舞香と、それを制止させるため叫ぶずんの姿があった。


(また、あの2人……何やってんだ?)


「あはは、なかなか愉快な生徒も多いよね。天才と変態は紙一重とも言うし……」


「それを言うなら天才と馬鹿だよ、お兄ちゃん」


 2人に気付いたずんが近づいてくる。


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