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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
美心(青年期)編Ⅰ
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蜆御門の変にて(其の参)

 元治元年7月19日、京都守護職竹平容保の要請で集結した様々な藩の藩士達。

 その中でも数が多い会津藩士と薩摩藩士が中心に構成された幕府方が京都御所を守るように囲い、残りの藩士達は京都市内に散らばり戦闘を繰り広げていた。


「オラァ!」


「甘いわ!」


 ドゴォォォン!


 ある場所では陰陽術バトルを。


「せいやぁ!」


「うぉぉぉ!」


 ガキィィィン!


 また、ある場所では一騎打ちによる真剣勝負を。


「てぇぇぇい!」


「撃て! 撃て! 撃ちまくれぇぇぇ!」


 市内にも関わらず激戦を繰り広げる場所もあった。

 だが、一般市民に危害を加える行為を正義の断罪者は黙ってはいない。


 ヒュッ……


「なんだ?」


「風か……ぐはぁぁぁ!」


 ドサッ……


「ひぃ! 永四郎! 永四郎ぉぉぉ!」


 一瞬で肉片に成り代わる者達が数十人。


「ヒャッハー! 弱ぇぇぇ!」


 京都市内の至る所で繰り広げられる長州藩士と幕府方の戦闘の間に介入し、見た目で何となく長州藩士だと思う者を次々と斬り捨てていくジャップ・ザ・リッパーに扮した美心。


「今、黒い風が通ったような……気のせいか?」


「どうでも良いが邪魔者が片付いて助かった。よし、俺たちも御所へ向かうぞ!」


 相変わらず美心は重大な間違いを犯していた。

 見た目は皆が同じ侍の格好をしているため素人には区別がつかないことが悪手へと繋がる。

 今しがた加勢した者達は長州藩士だったのだ。

 当然、美心はそのことを知らない。


(いやぁ、やっぱバトルはこうでなくちゃ。俺TUEEE主人公が圧倒的パワーで敵を斬り捨てていく無双イベント。この前みたいな負けイベントもよくよく考えると良い設定になるかもしれない。魔王(仮)に敗北してしまい落ち込む勇者。だが、自分の住む街で魔王(仮)は暗躍し続け、ついに人間同士の内乱になり勇者は再び立ち上がる! んほぉぉ、これだ! この展開は燃える!)


 美心はニヤつきながら次々と魔王(仮)に洗脳された長州藩士を斬っていく。


「うがぁぁぁ!!」


「ヒャッハー! 魔王(仮)、待ってろよぉぉぉ!」


 幕府方と長州藩士の戦闘に介入し、どちらか片方を皆殺しにしていく美心。


「う、うわぁぁぁ!」


「なんなんだこいつは!」


「アッハハハハ、邪魔だ……どけぇ!」


 美心の向かう先も当然、京都御所である。

 御所に近付くほど戦闘も過激さを増していた。

 陰陽術の存在するこの異世界ではわざわざ門を破り御所内に侵入するなどの考えはない。

 門がなかろうと壁であれば術で破壊し突入すれば良いからである。

 そのため、御所を囲むように守る会津藩士や薩摩藩士と長州藩士は正面衝突することになり御所付近はまさに激戦区と化していた。


「でりゃぁぁぁ!」


「遅い!」


 ザンッ!

 ザシュッ!

 

(うーん、爽快爽快! 悪を斬るのはやっぱ勇者の仕事だよねぇ。でも、そろそろ中ボスクラスは欲しいところだな。何処かに居ないかな? 中ボスっぽいやつ)


「貴様ぁぁぁ! よくも我が友をぉぉぉ!」


「うーん、こいつは雑魚」


 ザンッ!


「チェストォォォ!」


「こいつも雑魚」


 ドスッ

 バシュッ!

 ザンッ!

 ブシュゥゥゥ!


 両陣営の藩士が美心に襲いかかっていく。

 適当に長州藩士らしき者だけを斬った結果、美心は両者から敵だと認定されてしまうのだった。

 当然、そのようなことは気付きもしない美心は襲い来る者が皆、長州藩士だと信じて疑わない。

 それどころか彼女は若干、苛つきを覚えていた。


(中ボスクラスが居ない……だとっ!?)


 そう、ここに集うのは腕に覚えのある侍が多いがそれも並の人間より若干、秀でているに過ぎない。

 転生前からありとあらゆる格闘術や戦闘技術を取り入れ、独自の鍛え方をした美心にはそのような侍達も並の侍と何ら変わりがなかった。


 ザッザッザッ!


 京都御所が見えてきたところで浅葱色の羽織を着た侍達と出会う。


「くっ、戦況が……明晴殿が仰っていたものよりかなり泥沼化している」


「隊長、あいつです! 敵味方問わず相手を一撃で惨殺する……まるで死神みたいな……」


 神撰組の隊士が5人、美心の前に立ちはだかる。


「松本さん……死神ではありません。単にこの人は剣術がこの中の誰よりも秀でているだけですよ」


(神撰組の隊士? どうして、俺に刃を向けているんだ? ま、まさか……明晴ぇぇぇ! 貴様、遂に強硬手段に出やがったのかぁぁぁ!!!)


 美心は大きく勘違いをする。

 彼女の頭の中では明晴が美心から主人公の座を奪うため神撰組に命令したのだと思ったのだ。


(くそっ、俺だっていい加減に明晴を片付けてしまいたい思いは少なからずある。けれど……そもそも不死者ってなんだよ。チート過ぎるにも程があるだろ!)


「ボクは1番隊隊長、沖田怜士。戦場を荒らす悪しき者、神撰組の掟に乗っ取り……斬ります!」


 美心は悩んだ。

 いくら、明晴に命令されているとしてもいずれ自分も入隊する(予定)神撰組の隊士達を殺すわけにはいかない。

 さらに相手は1番隊隊長……。

 超が付くほど有名な沖田である。

 前世では女体化までされ可愛いイラストにより人気はさらに鰻登りの相手。

 例え異世界でも超ネームドキャラを相手にどうすべきか美心は悩みに悩んだ。


(逃げるか……いや、だが……それはジャップ・ザ・リッパーの名折れ。しかし、相手にすることもできない……)


「行きますよ、皆さん!」


 神撰組の戦い方は多数対少数。

 例え相手が一人でも多数で周囲を囲み確実に仕留める。


(くそっ、悩んでいるうちに囲まれた。どうする……屋根の上に飛び移るにしてもその瞬間を逃すはずはない。なんたって神撰組だぞ。今までの無双プレイは終わりでここからは高難易度イベントってか……はは、これじゃまるで望んでいた中ボス戦みたいじゃないか)

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