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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
美心(青年期)編Ⅰ
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蜆御門の変にて(其の壱)

 逝田屋事件から3日後、明晴や美心・芽映など泰山府君学園の生徒達、そして謎の男の存在などは伏せられ事件解決は神撰組の功績となった。

 京都大火という陰謀を未然に防いだことによって朝廷からも慰労金や報奨金が与えられた神撰組は英雄という太鼓判を押され、誰もが憧れる存在となった。

 

「きゃ―――権藤勇様よ!」


「あっちには土方裁剛様のお姿が!」


「あ、あの……サインください!」


「うむ、これでいいかな?」


「きゃ―――、私も!」


 京都市内の巡回だけで様々な場所から黄色い声が飛び交うようにもなり、神撰組はアイドル的活動にも少しずつ手を出すことになっていった。


「まったく……なぜ、俺がこんなことを」


「はは、そういうな勇。明晴殿が狼と呼ばれ忌み嫌われる存在ではなく、京都市内の皆から信頼され好かれる方が良いだろうと言っていただろう。それに市民からの通報内容で維新志士達の隠れ家もかなりの数を検挙できることができた」


「そういえば明晴殿は?」


「まだ氷漬けになったままだ。あの陰陽術の解除に多くの術師に解除を依頼したがまったく溶ける様子はなく……」


「くっ! 現場の状況から旅人と学園生徒の証言が最も有力視されているが長州藩士の中で生き残りは1人だけ……」


「ああ、奴らの持っていた名簿によると桂大八郎の姿だけが無かった……」


「初めから居なかったのか、途中で逃げ出したのか……明晴殿の証言が必要なのだがな」


 1人の隊士が権藤と土方の近くに走って近寄る。


「はぁはぁはぁ、隊長。明晴殿の解除の件で竹平容保殿たけだいら かたもりが壬生村に……」


「京都守護職の竹平殿が!? そうか、急いで戻らないとな」


「それと……副隊長には泰山府君学園に向かって頂きたいと」


「陰陽術学校へ? 私が?」


「はい、私はまだ永倉隊長にも伝えることがあるので、ここで失礼いたします!」


 2人に知らせを告げた隊士は急いでその場を離れていく。

 

「竹平殿が我らの屯所へ……土方、この意味が分かるか?」


「おそらく明晴殿の件だけでは無いと思う。長州藩の動向について何か掴んだのだろう」


「ああ、話を聞いた後皆にも知らせる。お前は学園だったな」


「ああ、行ってくるよ」


 2人はその場で別れ、それぞれ目的の場所へ行く。

 その頃、美心達は……。


(俺が……負けた。あれほど、転生前に特訓をしたというのに……くそっくそぉ)


「ぐすっ……」


 美心は傷が浅かったため外傷は特に問題がないが、内心では相当参っていた。

 突然の魔王(仮)との邂逅。

 そして、魔王が放つ攻撃は日本独自に発展した陰陽術ではない真の魔法(仮)。

 その魔法(仮)に悪戦苦闘しつつも倒され最後には逃げられてしまった。

 次はいつ会えるか分からない魔王(仮)。

 さらに今のままでは勝てないことも明白であることを思い知り涙を零す。


「み、美心ちゃん? どうしたん?」


「先日のことを思い出してしまったのですか? 確か、ふらっしゅばっくとかいう……」


「うん、うん……怖かったもんね。でも、大丈夫。無事に戻ってこれたんだから」


 芽映が優しく美心の涙を拭き取り優しくハグをする。


「彩葉もあれから寮に閉じ籠もってしまいました」


「そうなんだよね。返事はしてくれるけど外に出たくないの一点張りだし」


「そう言えば、美心さんのお兄さんは?」


「そうだ、美心ちゃん。お兄さんは? あれからずっと会えていないのだけれど……その……会えない……かな?」


 美心は首を縦に振る。


「神撰組の屯所に居るらしいけれど……その……今はまだ」


「もしかして怪我でもしたの?」


「うん、まぁ……実は私もあれからずっと会っていないの」


 氷河期のマンモスが発見された時のように氷漬けになっているとは言い難い美心は言葉を濁し芽映に伝える。

 だが、事件後に会えていないことは事実である。


(そうか! 美心ちゃんのお兄様はあの事件で今にも瀕死なほどの大怪我をしてしまったんだ! あの事件のことは口外しないよう注意されているし、私達にも本当のことは何も知らされていない。美心ちゃんもお手洗いに行っている間にお兄様が大怪我をしただなんて聞かされても納得がいくはずがない! だったら……)


 芽映は決心する。

 今日の放課後は神撰組屯所に凸しに行くべきだと。

 行動力のある芽映はすぐに計画を立て美心と光恵に伝える。


「ええっ? そんな……無理だって。今や壬生村は神撰組の聖地ですよ?」


「美心ちゃんはどう思う?」


 美心は氷漬けになった明晴を芽映に見せても良いか悩んだが、それより優先すべきことを思い付いたため賛成する。

 魔王(仮)のことや真の魔法(仮)のことを明晴に聞きたい。

 それと同時に今後、主人公ムーブをして美心の立場を危うくさせる明晴は即座に前線からリタイアさせるのが得策だと……。

 そう、心が参っていても性根が下衆な美心の思惑は変わらなかったのだ。


「私もお兄ちゃんに会いたい!」


(そして、出来れば明晴をおしまいに……くっくくく……これぞ本当のお兄ちゃんはおしまいってかぁ? くーくくく)


「ぷっぷぷぷ……」


 美心の笑みを見て2人は安堵する。


(良かった。お兄様に会えることがそんなに嬉しいんだ、美心ちゃん。そして、私もお兄様に……きゃ―――何を考えているのよ、私!)


(はぁ、この2人だけで行かせるとまた何かやらかしそうで怖いし、付いていくしかないか)


 光恵の心労は絶えなかった。

 そして、放課後……壬生へと赴く3人。

 その背後に2人の影。


「なぁ、舞香様。なんで芋女の後をつけるん?」


「しっ! 良いですか、ずん。今回は快楽のためではありません。あの男が言ったことを知るためです」


「あの男?」


 ずんは気を失っていたため謎の男のことを覚えてはいない。

 舞香はそんなずんの気など露知らず美心の後を追い神撰組屯所へと足を進ませる。

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