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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
美心(青年期)編Ⅰ
71/263

逝田屋にて(其の陸)

 結界発動から数分後。

 会合を始める長州藩士達。

 だが……。


「ぐ……ぐぁ!」


「なんだ……ちか……らが……」


「干田麿麿……貴様……何をし……た……」


 長州藩士の大半が陰陽力欠乏症となり動きを停止してしまう。

 訳が分からない小高は麿麿に尋ねる。


「お、おい……干田、これは一体?」


「ふふふ、脆弱な奴らだな。威勢が良いだけで陰陽力はさっぱりだとは心底がっかりしたぞ」


「陰陽力? 俺も陰陽術に長けてはいないが……」


「この陰陽結界術には少し難点があってな。中に居る陰陽力を吸収し防御力を高めるんだ。当然、力のある奴ら以外はこうなってしまう欠点があるが……」


「そんなことをしたら会合が……」


「小高、前にも言っただろ。間引きに必要な脆弱な人間こそ、こいつらだ。それに1階の客の中でも間引かれるべき人間は止まっただろう、ふふふ」


 ザンッ

 ドシャァ!


 停止した1人の志士を唐竹割りで真っ二つにする麿麿。


「おい! 何を……」


「停止しただけでは意味がない。斬って間引かないとな」


「お、お前ぇ……」


 ザッザッザンッ! 


 不敵な笑みを溢し同士を惨殺していく麿麿が恐ろしく感じた小高。

 だが、ここで下手に逆らうことは自身の命の危険があると感じ何もすることは出来なかった。

 数時間後、2階での生き残りはまだ陰陽力欠乏症にかかっていない麿麿と小高、それと客室に居た数人の旅人だけであった。

 麿麿と小高で旅人達を一箇所に集め皆の前で話す麿麿。

 

「さて、何が起こっているかは優秀な果実である君達なら分かるだろう。いいや、分かってくれるね?」


「ひ、ひぃぃぃ!」


「どうかお助けを!」


 命乞いをする旅人達。

 麿麿はその姿を見て大きくため息をつく。


「醜い……醜悪だ。自身が間引きされない優生だと理解できないとは……」


「お、おい! 干田!」


 ザンッ!


 旅人の1人を手に掛ける麿麿。


「いやぁぁぁ!」


「うわぁぁぁ!」 


 その悲鳴は1階にまで響き渡る。

 

「悲鳴?」


「みんなはここに居て。私が見てくっから」


 明晴は結界解除の手を止め立ち上がる。


「光恵っち、暫くの間1人でお願いできる?」


「任せてください」


「美心のお兄さん、私も行きます。2階に居るの、想い人が」


 彩葉の真剣な眼差しに説得しても時間の無駄だと悟った明晴は首を縦に振る。


「決して、私より前に出ないよう約束してね。美心っち、1階は安全だと思うけど警戒よろしく」


 美心は明晴の主人公ムーブに嫉妬心を再燃焼させる。


(や、野郎! 2階で絶対ボス級の誰かとバトるつもりだ! こんなところでのんびり座って居られねぇ! 俺も……)


「美心ちゃん、怖くない? 絶対、欠乏症になんかならないでね」


 芽映が隣にピタッとくっつき容易く動き出せなかった美心だが、こういった場合の最終手段がある。


「芽映ちゃん、私……お……おしっこが……もう……」


「あ、だったら私も一緒に行く」


 美心は即座に言い放つ。


「駄目だよ。2人とも離れるとここに光恵ちゃん1人になっちゃう。結界解除中で手が離せない光恵ちゃんがもしもの時があったとき守れるのは芽映ちゃんだけなんだから……」


「美心さん……」


 光恵はその心遣いに感謝した。

 そして、友達思いの芽映も感動し美心に話しかける。


「美心ちゃん……うん、そうだね! 美心ちゃんが戻ってきてからにする!」


 ニチャア


 それはこの状況をうまく利用した言葉だった。

 お手洗いに行きたい、そう……このセリフはある意味最強!

 生理現象という何者も抗えない行為で自身を無条件に優位へ立たせ、側に居る相手に気を遣わせることができる便利な言葉である。

 そして、美心はお手洗いに行くふりをしてこっそりと2階へ上がる。

 何やら人の話し声が聞こえる大広間の襖から覗き込むと、そこには信じられない光景が広がっていた。


「くくく……貴様こそ脆弱だな」


「き、貴様……何者……だ……」


 ガクッ


「いやぁぁぁぁ! 干田様、干田様、干田様ぁぁぁ!」


 泣き崩れる彩葉の近くにあるのは小高の亡骸と今にも息絶えそうな麿麿。

 他にも30人近く居た長州藩士達は全滅していた。


(な、なんだ……誰なんだあいつは!?)


 明晴が立ち阻み阻止している前に立つその男はこの江戸時代にはあり得ない黒のフォーマルスーツを着用しサングラスをかけていた。


「くっ、どういう事? 陰陽術が……効かない」


「くくく、我が理威狩の前にそのような奇っ怪な術など無意味!」


「り……理威狩?」


 怯える数人の旅人達は皆、勢いよく階段を駆け下り1階へ逃げていく。


「ほう? やはり貴様でも知らないか、安倍明晴」


「!!! 私の名を!?」


(あの男、明晴の事を知っている? 一体、何者なんだ? それにあの格好……この時代ではまだあそこまで現代的な形に整ったスーツは存在しないはず? どっちにしろ、やっぱりバトル展開になっているじゃねぇか! 俺に殺らせろってんだ、明晴!)


 美心は襖から覗いているだけでは我慢ができなくなってきた。


「さてと……任務は終わったが、ここいらで少々息抜きをさせてもらおう」


 謎の男が衿を整えネクタイを締め直す。

 そして、一歩下がったところで今まで美心に見えていなかった者が見えた。

 

「くぅんくぅん」


(あれはずん!? それと飼い犬? 中御門家の犬か?)


 ずんは意識を失っているようで舞香がペロペロと顔を舐めている。


(なんだか分からりませんがこの男に私達は攫われたようですね。ふふっ、なんて屈強そうな肉体! ああっ、絶対に磨呂は甚振られるのですね!? どんな痛め方をされるのでしょう? きゅぅぅぅ、興奮して全身が……ああっ、良い! 今の状況も最高に良い! ずんには悪いですがこの状況をもっと楽しませてもらいましょう!)


 元女神様は頭のネジがぶっとんでいた。

 まさに面の皮が極厚である。


「ミストレス、いや面河厚美よ。そこを動くなよ?」


「きゅぅん! きゅぅん!」


 舞香は興奮して嬉ションを数滴漏らす。


「なんだか分からないけど……今だ! 氷牢!」


 男の視線が犬に移った瞬間を逃さず明晴は陰陽術を放つ。


「凍結させ俺の動きを封じるつもりかぁ! 無駄無駄無駄無駄ぁ! 理威狩……泰法寒禁斎、火聖律《たいほかんきんざい、ひせいりつ》! 星刀暴鋭、聖律《せいとうぼうえい、せいりつ》!」


 パキパキパキパキ……


 氷の粒が明晴に直撃し氷漬けになっていく。


「なっ!?」


「お兄さん!?」


(明晴の陰陽術を跳ね返しただとぉぉぉ!?)


「くくく、弱し! 阿倍明晴!」


 直立不動の男の姿に美心は感動した。

 

(き、き、き、きた―――! すんげぇボス級クラスの大ボスじゃねぇか! 今すぐにでも殺り合いたい! だが、彩葉が居ると後々面倒そうだし……はっ、そうだ!)


 美心は咄嗟に思い出す。

 男のネクタイが風でなびく様子が一瞬、赤いマフラーに見えたことで懐かしのヒーローを思い描く。


(そうだ、仮面ライダー! くくく、変身してりゃ姿も誰だか分からないはず。だが、この布面積では顔まで隠すものは作りにくいな? いや……俺なら思い描けるはずだ。この展開に相応しい姿を!)


「変……身! とうっ!」


 陰陽幻術を使い着物の形を変える。

 そして、彩葉の前に立ち彼女を守るように男の顔を睨みつける美心。

 

「誰?」


「我は悪を斬る者……ジャップ・ザ・リッパー」


「ほう? 斬り裂きジャップ……か」


 美心が着物の形を変えたのは漆黒のボディースーツに顔が見えないほど深く被れるフード。

 美心の計算通り、彩葉は誰だか認識できていない。

 

「準備運動程度にしかならなかった相手だ。良いだろう、斬り裂きジャップ……特別に相手をしてやる」


「俺を甘く見るなよ?」


「くくく、貴様こそ俺の理威狩を舐めないことだ」


 シ―――ン


 互いに出方を伺うため微動だにしない。

 ただ、夜の静寂だけが辺りを包んだ。

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