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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
美心(青年期)編Ⅰ
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逝田屋にて(其の肆)

 因みに陰陽術の『幻』は第3境地の陰陽術で比較的、難易度は低い。

 そのため学園の多くの者は小学部で習得しており使用できる。

 だが、自身の姿を化かすほどの技量は舞香以外にはおらず、身に纏う服装を正装に変えたり単なる髪留めを化かしアクセサリーとして着飾ったりとその程度の陰陽術であった。

 もちろん、美心も服装を変えることは自在に可能だが攻撃陰陽術で無いものに関心は殆ど無く、自ら好んで使う機会は今のところない状態であった。


 ザッザッザッザッ


「おい、壬生狼だぞ。頭を下げろ」


「キャ―――、井上様!」


「原田様よ! あ、斎藤様も!」


「原田様―――、目線ありがとうございます!」


 神撰組の隊士達が列を作り町中を巡回している。

 それを目撃した舞香は思った。


(あの方々達は……狼と呼ばれている者達ですね? ……そうだ、あの有名な神撰組に接近すれば……今の汚い磨呂を斬り付けてくれるかもしれないです!)


「きゃっふぅぅぅん!」


「わわっ、舞香様!? 引っ張らんといてや!」


 その状況を後ろから見る3人。


「あら、あの子って……」


「ずんちゃんだ。犬の散歩中みたい。中御門さんは……居ないみたい。ほっ」


「あはは、逆に引っ張られているみたいですけれど……」


 交差点でずんを目撃する美心達3人。

 だが、彩葉と合流することを優先すべくずんのことは放って先に進む。

 彩葉が後を追う麿麿と小高が入ったのは旅亭逝田屋。

 その入口で中を覗こうか迷う彩葉に声をかける芽映。


「い―――ろは」


「えっ! 芽映……だけなく光恵と平民……こほん。美心も……ど、どうしたの?」


 光恵が頭を下げ声をかける。


「ごめんなさい、たまたま見かけたので後を付けて来たのです」


「なっ!? 今すぐ何処かへ行って! 貴女達には関係……」


「関係あるよ」


 絶妙なタイミングで声を放つ美心。

 そう、彼女は狙っていた。

 前世で見たことのありそうな恋愛モノのワンシーンを再現するためにセリフを吐いた。


「えっ?」


「だって、私達友人でしょ? 友人の困っていることに手を貸さないなんて、そんなの本当の友達じゃない!」


 芽映も声をはさみ彩葉に語りかける。


「そ、そうよ! 彩葉、告白なんて……そんな美味し……じゃなかった。そんな大切なことを私達に何の相談もしないで……」


(なっ! 芽映、勝手に俺のセリフに割って入らないでくれ。今からあの名台詞を言いたいところなんだから……ああっ、無理だ。会話の主権をこのままでは奪われてしまう! ええぃ、ままよ!)


「私達……ズッ友だって……誓ったじゃない!」


 美心が彩葉に抱きつき半泣きで呟く。


「芽……映……美心……ありがとう。ありがとう! ズッ友って言った記憶無いけれど……ありがとう!」


 2人の言葉に感激し涙を溢す彩葉。

 だが、光恵は冷静にその状況を見ていた。


(わざわざ告白するのに友達の許可っているのかな? ……別におかしいこと何も無い気がするのは自分だけ?)


 疑問に思いながらも4人は逝田屋の前で話をする。

 その中ですでに彩葉と麿麿は恋仲となっていたことを知るが美心の誘導により、彩葉からも好きという気持ちを伝える内容で計画を進めることとなった。


「美心、その……今回の事は貴女の提案だって……今まで冷たくしていたのにありがとう」


「芽映ちゃんと光恵ちゃんの大切な友達だもの。助けるのは当然だよ、えへへ」


「彩葉も美心ちゃんも顔を赤くしちゃってぇ……可愛い―――!」


 もちろん美心は演技である。

 心の中では……。


(くくく、彩葉……ゲッチュぅぅぅ! これで俺の百合イベントも更に加速することだろう。後は野郎への告白を成功……うん、待てよ?)

 

 美心は気付いてしまった。

 男子女子関係なしに恋人が居ると話す機会が格段に減少すると。

 話す機会が減れば百合イベントに遭遇する機会も自ずと現象してしまう。

 美心は悩んだ、悩み抜いた、だが悩みというのはすでに結論が決まっている場合が多い。


(こ、これは……破局だ! 何が何でも破局させなければ……絶対に男への告白を成功させてなるものかぁぁぁ!)


 友人以上に大切なものは自身の欲望である美心であった。

 だが、自分が提案した以上ここで告白をやめさせるわけにはいかない。

 美心はどうしたものか悩みながらも芽映達とこの先のことを皆で話し合う。

 店に入った瞬間に麿麿と彩葉の目が合ったらそこでジ・エンド。

 どうして付けてきたのか疑われてしまうかもしれない。

 そのため、顔を知られていない美心と芽映が先行突入する。

 そして、彼らの席を確認した後、1人が店の外に出て再度打ち合わせをする計画を立てることになった。

 

(ま、告白までまだ先がありそうだしこのまま推し進めるか)


 ガララ


「おいでやすぅ、2名様で? 空いているところにどうぞ」


「うわぁ、なんかちょっと高そうなお店だよ。美心ちゃん」


「大丈夫だよ。それよりも先輩は……」


 キョロキョロと辺りを見渡す2人。

 高級旅亭に不似合いな行動を取ることで他の客の目線を集めていることも知らずに麿麿を探す。


(うん? あれは……美心っち!? どうしてこんなところに!?)


 そう、神撰組では無い明晴は顔を知られていないため権藤に相談し、先に逝田屋内で長州藩士を待つことにしていた。

 ついでに遅い昼食の蕎麦御膳を注文し食べている時に美心を発見するのであった。


「美心っち、ご友人とお出かけかい?」


「へっ……」


 美心に声をかける明晴。

 もちろん美心にとっても完全に予想外の出来事だった。

 乙女ゲーム主人公をやることを諦めたとはいえ、隠し攻略キャラとして設定していた明晴が目の前に居ることで大きく混乱してしまった。


「誰? 美心っちのお知り合い?」


「お……お兄ちゃん……、そう! 私のお兄ちゃんなの!」


「え―――、めっちゃイケメンじゃん! お兄さんが居るのなら教えてくれたって良かったのにぃ」


 美心の咄嗟の虚言を信じる芽映。

 彼女だって年頃の娘である。

 背の高い凛とした姿の男性が目の前に現れると心を動かされて当然だろう。

 麿麿を探すことなど頭から離れ明晴の席に座り3人で話を始めるのであった。


「まだ見つけられないのかな?」


「確かに遅いですね。でも、下手に動けないですし……」


 店の外でただ待つしか無かった彩葉と光恵だった。

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