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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
美心(青年期)編Ⅰ
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逝田屋にて(其の壱)

 元治元年6月5日早朝……京都四条、とある古本屋の前で明晴が神撰組と共に突入しようとしていた。

 神撰組局長、権藤勇が明晴に尋ねる。


「明晴様、ここですかい? 俺達の情報網ではここに尊皇攘夷派は居ないはずですが……」


「いいや、ここに違いないよ。京都大火を計画している情報を持っている者が居るはずだから捕まえて吐かせてくれる?」


「まぁ、明晴様のご命令なら……」


 明晴は決意の固い表情をし古本屋を見る。


(あっしが必死に探したのに池田屋という名前の料亭がこの世界の京都には無かった。それってつまり歴史が変わっている証拠でもある。このまま、あっしは手を出さず歴史が変わって日本が世界最強の国になるまで静観したかったけど……美心っちの居る京都を焼き払う京都大火だけは絶対に防がなければならないんだよね。これで修正力が働いてしまうのは目に見えているけれど……はぁぁぁ)


「局長! 突入準備完了しました!」


 権藤勇は明晴の目を見て頷く。


「よし、突入!」


 ダァァァン


「壬生狼!? どうしてここに!?」


「全員、ひっ捕らえろ!」


 明晴は店の外で待ち中の様子を伺う。


(本来なら神撰組だけでここに居る者を捕らえ京都大火の情報を得るはずなのに、この世界の神撰組は捜査能力が低いのが玉に瑕だなぁ。何故かイケメンばかりで国中の女子達からアイドル扱いまでされているし……。でも、暴力団みたいな組織と思われるよりかは良いかな)


「あ、そうだ! 貴重な本を傷付けないようにね!」


「畜生がぁぁぁ!」


 店の中に居た者達も当然ながら抵抗するが呆気なくお縄に付く者達。


「ひぃぃぃ!」


「しまった!」


 1人隠れていた男が店の外に飛び出し明晴めがけ陰陽術の炎を放つ。

 だが、明晴に当たる直前に火は消えてしまった。


「炎をかき消しただとっ! この狼共め、天皇こそ日本の頂点に立つ御方だ!」


「はいはい、そういう政治的な会話は平和に。暴れながらすんのは単なる気狂いだかんね」


 トンッ


 明晴が触れるだけで男は気を失いその場に倒れる。


「ふぅ、危ない危ない」


「明晴様、さすがですな」


「お世辞は良いから早いところ計画を聞かないとね」


「はっ、お任せください」


 そして、様々な手段を取り店の者から情報を集める明晴達。

 男の1人は拷問に耐えきれなくなり遂に口を開く。


「こ……今夜……ゴホッゴホッ!」


「なんだ? 早く続きを言え!」


「い……逝田屋いけだやで……集会が……」


「池田屋!?」


 明晴は驚きを隠せなかった。

 池田屋という料亭を必死に探し回ったが京の街中に存在しなかったのは事実。

 だが、男の口から告げられるのはい・け・だ・や。

 漢字が違っていることに気付かない明晴はそのまま拷問を続けるよう権藤に指示をし吐かせるが何度聞いてもいけだやだった。


「嘘をつくな!」

 

「本当のこと言ってるだろぉ! どうして……どうして信じてくれないんだよぉ!」


 他に捕らえた者も次々に口を割り答えるのは逝田屋。

 流石に拷問続きで神撰組の隊士達も同情の念が湧いてきた。

 そこで副局長の土方裁剛が口を挟む。


「明晴様、ちょっと良いですか? その料亭の場所は地図を見せるから印を入れろ」


 両手を縛っているため男の口に筆を咥えさせ地図に印を付けさせる。


「ここです」


「へっ?」


 その地図に書いていた料亭の名前は逝田屋。


「これは……いけだやですね」


「ああ、いけだやだな」


「俺も読めるぜ。逝田屋って書いてるぞ」


「だからそう言っているだろう!!!」


 神撰組の皆が明晴の方を向く。

 暫くの間、沈黙が続き……。


「てへっ!」


 満面の笑みで誤魔化す明晴をよそに権藤は隊士達に呼びかける。


「これで場所は分かった! 今夜、逝田屋に少数精鋭で出撃する! 沖田、永倉、藤堂付いて参れ!」


「はっ!」


「残りの者は土方を筆頭に志士達に気取られぬよう京都巡回を命ずる」


「はっ!」


 

 正午、学園……。

 オリエンテーションから約一ヶ月半、美心が望むような特別なイベントは起こること無く、彼女はいつも通り退屈な一般教養の授業で居眠りをしていた。


(うぅぅ、物凄く眠い……今日は一般教養の日だったから昨晩、陰陽術の練習をしていたけど、いつになったら明晴のような術が使えるようになるのだろう? それに中御門の回復陰陽術……あんなの見たことが無い。大抵の医者でさえ使えるのは第3境地回復陰陽術「癒」までだ。その上位のものを俺は見たことが無かった。それをいとも簡単に使えるなんて……公家には陰陽術に秀でた者が多く輩出されると聞くがあいつもその中の一人なんだろうな。くぅ、生まれ持った血筋でこんなに差が出るなんてこんなの差別だ、差別!)


 なんてことを考えながら授業が過ぎていく。


 キーンコーンカーンコーン……


 午前の授業がすべて終了し昼休みが始まった。


「美心ちゃん、ごはん一緒に食べよ」


「うん、芽映ちゃん!」


 美心がクラス内で初めて出来た友人の堀田芽映。


「これもいつの間にか普通になってしまったよね」


 そして、友達の友達ということで実質美心の友達枠に入った大久保光恵の3人で仲良く囲み弁当を食べ始める。


「あとは西園寺さんも来てくれると良いんだけどねぇ……」


 西園寺彩葉、もとは芽映と仲良くしていたが美心が仲間内に加わってから距離を取るようになっていた。

 友達よりも身分差を優先してしまう者も居るのは仕方がないことだ。

 

「最近、お昼になるとすぐ食堂に行っちゃうよね?」


「まさか彼氏でも出来たのかな?」


「めちゃ有り得そう」


 美心は感激しながら弁当を頬張る。


(これだよ、これ! 恋愛話も必須の女子の集まり! はぁぁぁ、一般教養の日は休憩時間だけが癒やしだぁ……)


 美心はまだ今夜の事件など知りもせずユリユリな乙女の花園に満足していた。

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