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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
美心(青年期)編Ⅰ
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食い違いにて

 瀕死状態の輝彰を横に美心と舞香は沈黙を続ける。

 美心はどうやって天界でのことを謝罪しようか考えており、舞香は自分の目的を話した(つもり)で互いにどう会話を切り出すか迷っていた。

 そして……先に口を開いたのは舞香。


「あ、あの……今まで芋女とか平民とか馬鹿にしてすみません! 痛しの君を苛つかせることで殴って貰えると思ったので……。でも、違うのですね。そこの勧修寺輝彰を見れば一目瞭然。痛しの君は人目に付かないところで求めもしない人々を相手にいつもイかせていた……。ああっ、なんて……なんて素晴らしい痛しの御方なのでしょう!」


(……俺が人目に付かないところでヤりまくり? そもそも痛しって何? ……意味が分からない)


 徐々に冷静さを取り戻していく美心。

 すると、ある疑問が生まれてくる。

 そもそも陰キャの美心は人の話をすぐに信じるほどお人好しではないのである。


(……冷静になってよく考えると眼の前の人物は本当に女神なのか? そもそも、俺は本当に女神を殴ったのだろうか? いや、神に手を挙げるなんて俺は絶対にしない! 魔王と相対する俺は神に選ばれた存在なのだから。その神を殴るなんてなぁ……ははっ、中御門の突拍子も無い話に誘導され、そう思わされていたのだろう。まったく、ここまで会話のできるだとは思わなかった)


 今までの話を信じないことにしてしまった美心である。

 それもそのはず、美心は転生を果たす前の10分ほどは怒りと絶望と下らない人間に転生させられてしまうという焦りで混乱し記憶に全く残っていない。

 つまり、舞香が勇気を出して告白をしたことなど全く意味がなかったのである。


(……中御門が俺に嫌がらせをするためのフラグを建てようとしているんじゃ? 今度の嫌がらせは悪役令嬢が考えた卑怯千万な頭脳戦ってところか。くくく、その手には乗るか)


 そして、舞香の目を見る美心。

 舞香の出方を伺うために観察する必要があると思った美心は真剣な表情で舞香をじっと見つめる。

 だが、相手が同じ思考を持っているとは限らない。


(痛しの君が真剣な眼差しで磨呂と目を合わせてくれた! これは……磨呂を殴ってくれるというサイン!? ああっ、ついに……ついにこの時が来たのですね?)


 舞香は頬を赤く染めながら目を閉じる。

 その行動を美心はこう捉えた。


(はっはぁぁぁん、なるほど……俺からキスをしてもらい、その瞬間を何処かで見ているずんや最上に盗撮させ、それを学校中にばら撒くと……なんて野郎だ! こういう展開は大抵、盗撮する役目を悪役令嬢がするはずだが……ずんは幼いし最上はクソが付くほどの真面目野郎。なるほど、理に適って自分が最も演技をするのが上手だからだろう。だが、その行動を見透かした俺が一枚上手だ。これに対する反撃は……こうだ!)


「ご、ごめんなさい! 無理です!」


 突如、土下座をして謝る美心。

 そう、美心の頭の中ではこうして断ることで盗撮されても、ただ平民が貴族に屈しているこの時代にはよくある光景にしか映らないと思っている。


 ニチャア

 

 頭を垂れ舞香に見えないよう薄気味悪い笑みをする美心。


(くくく、完璧だ。中御門、これで学校中に写真をばら撒けまい! ばら撒いたところで何処にでもある光景としか生徒達は思わないだろう)


 だが、SМプレイを断られた舞香は……。


「えっ……」


 驚きを隠せなかった。

 と同時に襲ってきたのは奇妙な感覚。


(な……何? この気持ち? 心待ちにしていたものがやっと届くと思った瞬間にまた何処かに行ってしまった虚無感………………痛い……心が物凄く痛いはずなのに……ああんっ、気持ち良いっ! こ、こんなことって……心の痛みって……痛しの君から断れるだけでこんなに気持ち良くなるなんてぇぇぇぇぇ!)


「あへっあへっあへっあへっ……」


 アヘ顔になり昇天する舞香。

 すでにドMの境地さえ超えている元女神様は堕ちるところまで堕ちていた。

 奇妙な喘ぎ声が気になり美心は頭を上げ舞香を再び見つめる。


(なっ……!! 笑って……いる……だとっ!? ま、まさか……中御門の計画通りに俺が行動してしまった!? はっ!!)


 視線を感じた美心は中庭から大社の方を見る。

 柱の影にチラリと見えるのはずんの姿。

 もちろん、最上と一緒に待っている中、一向に集まらない舞香と美心・輝彰を心配して探しに来ただけである。


(ずん!? やっぱり盗撮していやがったか! 第1境地陰陽術『写』なのは分かっているんだ……って、あれ?)


 ずんの視線が美心や舞香に向いていないことに気付く美心。

 ずんの視線を辿るとそこにあるのは顔が青白くなり今にも息絶えそうな輝彰の姿だった。


(ああああああっっっ!!! 最大のピンチじゃねぇか――――!)


 美心は思った。

 これで学園編は終了を迎え、次回からは追放系主人公を演じなければならないと。

 盾の勇者でも無い普通の女勇者が幕府からも日本からも追放され世界を周る物語になると。

 だが、最短でも1年後には成り上がり幕府に対しざまぁムーブができると心の何処かで期待している美心はこれから訪れる自分の運命を快く受け入れた。


(ま、こうなったら仕方がない。まさか、輝彰が俺の着替えを覗き、うっかりビンタしてしまったが挙げ句、最後にこうなることまで予測していたとはな……ふっ、さすが悪役令嬢の頭脳。俺の……完敗だ)


 美心が初めて負けを認めた瞬間であった。


「それにしても磨呂より先にイッた勧修寺は気に入りませんね。『蘇』」


 パァァァァ


 輝彰の身体に緑光が纏う。

 そして……。


「げほっげほっげほっ……あれ? ここは……三途の川を見た気が?」


「勧修寺くん!?」


 元女神の舞香にとって人の生死など無いに等しい。

 第11境地陰陽術「蘇」、現在の日本で使用できる者は舞香と明晴しかいないほどの回復系最強陰陽術で輝彰は死の淵から蘇ったのである。


「美心……さん? あれ、僕は?」


「覚えていないの?」


「ええっと……何をしに来ていたんだっけ? そうだ、そろそろ出発だから美心さんを迎えに来ただけだった。中御門も行くぞ」


「ずん、そんなところで隠れていないで行きますよ」


「えへっ、やっぱり舞香様はうちのこと見えてたんや?」 


 舞香は先程のプレイで満足し、ずんを連れて先に行ってしまった。

 美心も輝彰が記憶を失っていることを良いことに何も喋らず乙女ゲー主人公ムーブを演じ続け嵯峨野へ向け出発した。

 道中、何も起こることはなくオリエンテーションは無事終了する。


(ちょっ……俺の望んだユリユリ展開は!?)

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