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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
美心(青年期)編Ⅰ
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妄想にて

「い、今更だけど美心さん。僕も中御門を探すよ。だから、一緒に」


「くしゅん……あ、ごめんなさい」


「その……着物が所々破れて冷えるのかい? 僕の羽織をかけてあげるよ」


 美心がくしゃみをしたことで輝彰はすぐさま自身が着ていた羽織を美心の肩にかける。


「あり……がとう……勧修寺くん」


 美心にとってこの程度の定番イベントなど想定の範囲内だった。

 特に照れるまでも無いのだが勧修寺を堕とすため少し気恥ずかしそうに返事をする。


(ふぅ、僕の羽織を着てくれたおかげで見えそうで見えない場所が完全に隠れてくれて良かった。あのままでは僕の理性が決壊してしまうところだった)


 輝彰は安堵する。

 だが、脳裏に焼き付いてしまった美心の素肌が忘れられない。

 再び、小声で念仏を唱える輝彰を美心は変に思いながらも次の行動に移す。


「勧修寺くん、この辺りに中御門さんが居ると思うの。ううん、居るのは確実」


「どうしてこんな場所に? 確実と言うからには手がかりがあるんだよね、美心さん」


「この辺りに広がる妙な足跡、ほらそこにも。数人の女性に1人の女児が混じっているでしょ」


 美心が指をさす地面に女性が好んで履く重ね草履の跡が見られる。 

 その中に1つサイズが明らかに小さい子ども用の草履の跡があった。


「確かに……新しい足跡だね。重ね草履は高級品。この辺りに村などないし、この数は明らかに学園の生徒だと言えるか」


「そこに一緒にある子ども用の草履跡。とある子どもを日常的に連れ歩く者と言えば……」


「従者としてずんちゃんを雇っている中御門舞香だね。なるほど……それにこの罠」


 輝彰も美心の言った意味が理解できた。

 だが、彼女を制止させるのは至難の業。

 下手に触れでもしたら、それだけで勧修寺家はセクハラ一家だと周囲に貶められてしまう。


(はぁぁ……美心さん、すまない。同じ公家として悪戯好きの中御門を止めるのは僕の役目だと思うが言葉で止められる相手ではないから諦めてくれ。なんて言えるはずがない! そんなの格好が悪すぎる! どうすれば、どうすればいい?)


「勧修寺くんは戻っていて。中御門さんの目的は私だから。私が土下座してでも中御門さんを連れてくる。それが先生に言われた奉公になるのだから……」


 幕府の御恩に応えるべき動こうとする美心に武士道を見出した輝彰は潔く引き下がることを決意する。

 例え女性であっても武士道を持つ者を何者であろうと諫めることは許されない。

 公家として生まれた輝彰だが侍の心意気はしっかりと弁えているつもりだった。


「分かった、美心さん。僕はここで見守ることにするよ」


「ありがとう」


 そう言って美心は再び竹林の奥へ足を進める。


(ふぅ、勧修寺を護衛せずに済んで良かったぁ。んな面倒なことしてられるかっての。しかし、舞香の奴め。俺だから良いもののこんな直撃したら死にそうな罠に一般生徒がかかったらどう責任を取るつもりなんだ? まさか、知らぬ存ぜぬで通すつもりなのだろうか? そんなの悪代官がしそうな……はっ!!)


 美心の脳天に一瞬の稲光がほとばしる。

 またとんでもない妄想に頭を膨らませたのは明白であった。


(そ、そうか! どうして今まで気が付かなかったんだ! 中御門舞香は悪役令嬢などではなく悪そのものを演じている!? 悪にとって悪戯は娯楽であり他人の不幸は蜜の味! 俺の馬鹿が! 悪は他人の不幸で自分の心を満たす正に非人道的人間! 前世で言うところのネットに蔓延る誹謗中傷を愉悦とするネットヲタク! なんてこった! 俺は、俺は、俺は……そんな女郎蜘蛛野郎に愉悦を与えてしまっていたのか!)


 着物を傷つけられた怒りがまだ収まらない美心は相手をぶちのめすことを無意識に正当化させようとしているだけである。

 もちろん、舞香の真の狙いになど誰一人として気付きはしていない。

 そして、事は突如として起こった。


「わぁぁぁ!」


 突如、竹林に響き渡る子どもの悲鳴。

 美心や輝彰にとっては聞き覚えのある声だった。


「あの声はずんちゃん!?」


 輝彰は声のした方向へ走って向かう。

 一方、美心は……。


(どういうことだ? ずんが悲鳴をあげるなんて……ま、まさか!)


 美心は怒りで身が震えることを自覚する。


「舞香ぁぁぁ! 俺を罠に嵌めて感じたい愉悦をずんの虐待で満たしてやがるのか!? 児童虐待など悪の所業にも程があるだろうがぁぁぁ!」


 他人への心配もここまで行くと病気である。

 行く手を塞ぐ竹林を風の陰陽術で吹き飛ばし先に見えるは熊に襲われそうになっているずん。

 近くに舞香やその家臣の姿もあるが何もしていない。


「野郎! ずんが熊に食べられるところを見て愉悦を感じる気か! まさに悪! いや、悪魔だ! ……悪魔?」


 ずんを救出するためにダッシュしていた足を止め頭の中で勝手に妄想が広がる。


(悪魔はアヘリカ大陸を支配しているはず? 日本には居ないから俺は卒業後、仲間達と共にアヘリカへ渡る予定なのだが……もしかして!!)


 思考回路がおかしい美心は突飛な想像をしてしまった。

 だが、この状況ではそれ以外に真実は見つけられないのもまた事実である。

 美心の脳内で真実と化した妄想とは……。


(中御門舞香……奴こそアヘリカを支配する悪魔のスパイ! 人間に扮した悪魔!)


 ドンッ!


「悪魔をぶっ殺せりゅぅぅぅ! ひゃっほぉぉぉぉい!」


 これまでにない力が湧き上がる美心。

 興奮で我を忘れているため脳のリミッターが外れてしまったのである。


「ひ、ひぃぃぃ! 舞香様ぁぁぁ!」


「だ、誰かずんをずんを……」


「舞香様、野生の動物は動く者を獲物として狙う習性がある故、動いてはいけませんですじゃ。ずんもそこを動くなですじゃぞ」


「で、でもぉ……」


「ガァァァァ!」


 熊がずんに襲いかかる。

 次の瞬間……。


 パァン……

 ブシュゥゥゥ


 熊の首が吹き飛び鮮血が周囲に飛び散る。

 一瞬の出来事で周囲に居る者全員が目を疑った。


「芋……女?」


「芋女がやったの?」


「芋女が熊を一撃で?」


 舞香の家臣達は身の危険が去ったことを自覚し安堵する。

 美心に礼を告げようと家臣達が美心に近付く。


「芋……女……その、あんがと」


「美心……その今まですまなんだ」


「お姉ちゃん、ほんまおおきに―――」


「ほれ、舞香様。今回ばかりは命を救ってもらったのですじゃ。公家として礼も尽くさなければ……舞香様?」


 互いに睨み合う美心と舞香。

 次回、遂にバトル回か!?

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