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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
美心(青年期)編Ⅰ
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ブービートラップにて

 舞香の側付きである幼女が竹林の奥から戻ってくる。


「舞香様ぁ、竹槍を数本落下する仕掛けを設置してきたで。普通の人なら危険やけど、芋女なら余裕で避けられると思うねん」


「ふふっ、よくやりましたずん。これで芋女が怒ればこちらの勝ち……」


 ずん、去年から舞香の側付きとなった7歳ながらに主君に忠実な少女である。

 この子も平民出身であるが、舞香が気に入ったため父が莫大な財でずんの保護者から買い取ったという経緯がある。


「でも、舞香様。芋女なんか怒らせて何したいん?」


「それはもちろん最高の……こほん、いいえ。ずんは知らなくても良いことです」


 舞香の作った落とし穴に落ち葉を被せる同じ班の者達。

 皆が舞香の幼い頃から家臣の娘であり舞香と仲良くするよう育てられた経緯がある。


「ずん、こちらも手伝うですじゃ」


「はーい」


 カランカランカラン


 仕掛けていた罠の一つである鳴子が竹林に鳴り響く。


「こ、これは……」


「まだ自由時間が始まるには早すぎるですじゃ」


「でも何者かがこちらに来る以上仕方ありませんね。さぁさぁ、皆さん隠れて! 芋女が罠にかかったら大声で笑ってやりましょう」


「くすくす、舞香様りょうかーい」


「ぷぷっ、超ウケそう」


 暫く待つと何者かが整備された道路を歩いてくる。


「あ、あいつは……」


「なんや、芋女ちゃうやん」


 歩いているのは金髪の男。

 勧修寺輝彰であった。


(いててて……集合場所へ行く時にはこんなの無かったはずなのに一体誰が? それより美心さんを探さないと。せっかく、班の皆に話を合わせてもらい抜け出せたのだから美心さんと二人きりで有意義な時を過ごさないと……)


 輝彰は美心が1人で行動しているこの時こそ美心を堕とせる絶好のチャンスだと信じて疑わなかった。


(彼女は頭は良いが陰陽術はそこそこ。昼間とは言ってもあの美貌の持ち主だ。悪党に襲われないとも限らない。そこを僕が助ける! まぁ、そんな都合良くはいかないだろうけど、美心さんと二人きりになれるのは他の男子生徒達から大きく差を付けられるのは事実だ)


 ギリッ


 舞香にとって予想外の相手だった。

 家の大きさは違えど同じ公家。

 相手に傷でも付けてしまったことがバレたら、公家内で非難の的になるのは公家であれば考えるまでもなく常識であった。


「勧修寺ぃぃぃ……」


 今までに見たことのない悔しそうな表情で輝彰を睨みつける舞香。


「舞香様と同じ公家ですじゃ。もしや、我らを探しに?」

 

「奴に何かあったら私達に危険が及ぶかも知れませんね。あの近くに落とし穴は?」


 舞香と同班の1人が答える。


「ありません。しかし、ずん様と一緒に竹槍が飛び出す床罠を作りました」


「えっ……」


 舞香は顔から血の気が引く。

 美心なら自力でどうにでもできると思い設置を許可したが、もしも輝彰が竹槍に貫かれて怪我を追えば家から追い出される恐れもある。


「い、今すぐに撤去を……」


「うわぁぁぁぁ!」


 舞香が罠を撤去するよう指示した次の瞬間、竹林に響き渡る男の悲鳴。

 舞香はすぐに輝彰の方を見る。


「あ……あれ? 何かが飛び出てきたと思ったが……」


 輝彰は咄嗟の出来事で若干、混乱していた。

 罠が発動するトリガーを踏んでしまった場所から少し吹き飛ばされていることに気付く。


「だ、大丈夫? 勧修寺くん」


「美心さん!」


 輝彰は血の気が引く。

 何本もの竹槍が床から飛び出し美心の着物を突き破っている。

 だが、安心して欲しい。

 美心は日々の鍛錬によりすべての竹槍を見極めることが出来た。

 着物に傷は付けど、美心の身体には傷が一つも付いていない。

 だが、外から見れば竹槍に貫かれているように見えてしまうため、輝彰は血相を変えて美心のもとに近寄ろうとする。

 

「美心さん! 今、助けます!」


「そこから動いちゃ駄目! まだ罠があるの!」


「な、何だって!?」


 その場から目を凝らすように地面を見る輝彰。

 だが、素人目には分からないよう巧妙に隠されているため何処にあるのか輝彰には理解できなかった。


(この近くにあんな罠がまだ沢山あるだって!? 一体、誰がこんなことをしたんだ! はっ、待てよ? 教師は美心さんだけに中御門を探すように伝えた。他の者が手伝うと言ってもそれを許可せずに……人探しならば人手が多いのは誰にでも理解できることだ。もしかして、この罠はあの教師の仕業かっ! 美心さんが平民だから気に食わないんだ! なんて、なんて悪質な教師だ!)


 見事に誤解してしまう輝彰。

 だが、それと同時に美心の命を狙う者が実際に居たということに安堵している自分が居た。


(これは美心さんを助け二人一緒に集合場所へ戻り教師を告発すれば、美心さんも感謝の思いがそのうち愛に変わるかもしれない! うん、これはイケるイケるぞ!)


「美心さん、なんとしてでも助け……あれ?」


「ふぅ……何か言った? 勧修寺くん?」


 竹槍は木端微塵になり、その場に立つ美心。

 所々破れてしまった着物が恥ずかしいようで若干、頬を赤くしているその姿は実に色っぽく輝彰の脳天を直撃する。


(み、美心さん……はぁぁぁ、なんて破廉恥な格好なんだ! これは……これは男として我慢が……だが、破れた着物から除く素肌はまるで絹のように白く美しい。裸の美心さんを想像すると……その姿は正に菩薩! 美心さんは僕達、人間の男にはもったいない存在なのかもしれない! でも、君が欲しい! いや、駄目だ!)


 叡智に辿り着きつつある輝彰はその心から邪念を祓うよう小声で念仏を唱え始める。


(くそぅ、お気に入りの着物だったのに中御門の奴め。しかも、こんな下らない罠をそこら中に作るだけとは実に残念だ。強制イベントにする以上、もっとこう……あるだろ! バトルとかバトルとかバトルとかさ! なんでそれがないんだよ! しかも、護衛相手が出来てしまったじゃねぇか! アシュリーちゃんならまだしも野郎なんか護衛する気も起きんぞ。なんだ? ポリコレでも気にしてんのか? ポリコレで可愛い子ちゃんをイケメンにしますぅってか? 美少年はいくらでも使っていいけれど美少女は作ることすら許しませーんって、んなアホな思想なんぞ創作物の設定に入れるんじゃねぇっての! くそぅ、ここは江戸時代だろうがぁぁぁぁ!)


 美心は心中、激おこだった。

 激おこぷんぷん丸で自分でも何を心に思っているのか理解が追いついていないほどである。

 そして、図らずとも舞香の企みが成功していることに舞香本人も気付くはずもなくまだこの下らないショーは続く。

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