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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
美心(青年期)編Ⅰ
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悪役令嬢にて

「あっ、美心さん!」


「おい待てよ!」


 2人を振り切り廊下を小走りする。

 ふぅ、毎度毎度勘弁して欲しいぜ。


「うふふ、それは良きこと」


「でさぁ、壬生浪士組の隊士様が―――」


「パリピっていこ―――……」


 すれ違う女子の行列……げっ、こいつらってまさか?

 向こうから廊下であるにも構わず美麗な駕籠に乗り、数多の女生徒を引き連れやってくる人物。

 何というタイミングの悪さだ。

 俺は下を向きながら廊下の端を歩き進む。


「あらぁ、これはこれは……どうしてこの高貴な学園に毎度毎度、小汚い芋女が混ざっていらっしゃるのでしょう?」


 やっぱり、貴様か!

 誰が芋女だ。

 失礼なやつだな、まったく!


「あはは、芋女だってぇ」


「めっちゃ屁こいてそ」


「ぷぅ―――ってしてみ? ほらほら」


「やだぁ、くさぁい」


「きゃははは」


 如何にも悪役令嬢キャラとその一味のようなセリフを放つこの女子達は中御門舞香なかみかどまいかとその家臣の娘だ。

 公家の中で勧修寺など足元にも及ばない超が10個付くほどの名門で俺の学園生活内で1番の天敵だ。

 小1の頃から顔を合わせる毎に変わらぬムーブを俺にかましてくるのはもうお約束である。

 俺はいつも通り中御門に軽く会釈をしたあと目を合わせず中御門の横を通り過ぎる。


「私を無視? いつもぼっちのくせして生意気ね」


 ツルッ


 突如、俺の足元がスケートリンクのようになる。

 これは氷属性の陰陽術!?

 やべっ、体勢を崩してしまった。

 

 トン


「おっと大丈夫かい? 昔から変わらずお転婆だね、美心くん」


「よ……慶喜様……」


 軽く視線を合わせる2人。

 美心は頬を赤くしている。


 足元が滑り体勢を崩した俺を助けたのは高学部3年の二橋慶喜ふたつばし よしのぶ

 一瞬のことで分からなかったが風の陰陽術で遠くに居たのにも構わず事の顛末を見て瞬間移動したのだろう。

 この世界での江戸幕府15代将軍候補の1人であり、御三卿の二橋家養子である。

 それでもって陰陽術や一般教科すべてにおいて学園1位を取る超インテリ。

 この学園の生徒会長を務めるまたまた攻略キャラのような設定が付いた超イケメンの眼鏡男子生徒だ。

 おそらく、俺が乙女ゲープレイをこの学園でするつもりになっていたなら、一番の高難易度を誇る攻略キャラになるだろう。

 勧修寺と保科を除く3人のうちの1人がこの二橋先輩なのだが……俺は幕府に御恩がある。

 そのため、ほぼ確実に15代将軍に即位するこの人には頭が上がらない。

 しかも、相手は高難易度キャラ!

 少しぐらいのフラグなら大したダメージを与えられないことも分かっている。

 だからこそ、助けてもらった時にわざわざ乙女ゲー主人公のように頬を赤く染め慶喜を見つめてやったのだ。

 少しでも難易度を下げるため効率良く動くのは基本中の基本だ。

 もちろん、慶喜を堕とすつもりはない。

 御恩と恋愛とは別のことだ。

 今の俺に恋愛などありえねぇ!

 まずは勇者の役目を果たすのが先決だ!


「あ……ありがとう……ございます」


「ちっ……行きますわよ」


「きゃはは」


 二橋先輩は中御門の顔を見て何も言わない。

 中御門も幕府の将軍候補とはさすがに張り合えないのか、モブの女生徒を大勢引き連れこの場を去っていった。

 あの典型的な悪役ムーブはいつ見ても飽きない。

 意地悪をされるのは迷惑極まりなのだが……。


「先輩、どうして中学部に?」


「ああ、そろそろ生徒会選挙が始まるからね。中学部4年の現会長と打ち合わせがあるんだ」


「なるほど……」


「そうだ、美心くん。以前も話したが僕は君を中学部生徒会長に推薦したいと思っている。どうだろう、考えておいてくれるかい?」


 生徒会長か……はぁ、んなもんやってられるか!

 俺はまだ陰陽術が完璧じゃない。

 勇者として俺はやることが多いのに自ら激務な生徒会になんて入っていられるか!


「まぁ、考えるだけなら……」


「うん、良い返事を待っている。では……」


 二橋先輩は忙しそうに足早で去っていった。

 さて、喉が渇いたし井戸で水でも飲んで教室へ戻るか。

 ……って、違ぁぁぁう!

 友達作り……堀田はどこだ!?

 もう昼休みも僅か……こうなりゃ勇気を出して堀田さんに懇願するしか無い!

 あのパリピなら『うん、良いよ~ヨロピコ~』と一つ返事で許可してくれるに違いない!

 俺は別の学級に堀田さんが居ないことを確認しつつ食堂へ向かう。

 

 近道をするため中庭を通ると木の下の芝生の上で呑気に居眠りをしている生徒がいる。

 

「くんかくんか……んっ、これは!」


 がばっ!


「ひえっ!」

 

 俺は無視をし食堂へ急いで向かおうとするが突然、その生徒が飛び起きる。

 俺も驚き足を止めてしまった。

 

「ふわぁぁぁ、この香り。やっぱり姐さんじゃないっすかぁ」


 だぁぁぁ、忘れていた!

 こいつの嗅覚は犬並み。

 見かけてしまった時点ですでに詰んでいた。


「姐さぁん……飯食ったばかりで眠いんすよぉ」


「はいはい、起こしちゃってごめんね……」


 俺は犬をあやすように頭をさすってやる。

 幸せそうに嬉しがるこいつの名は島津狩彬しまづ かりあきら

 自ずと知れた薩摩藩28代藩主の斉彬の息子であの篤姫とは姉弟関係に当たる。

 俺の4つ下の後輩なのだがこいつも名のある武家。

 俺が中学部2年の頃、狩彬は小学部3年だった。

 運動会で行われる学年混合陰陽術騎馬戦で圧倒的な俺のグループに負けた時から一目惚れしたらしく、それ以降俺を慕ってくる変わった奴だ。

 二橋先輩の真逆というか何というか……まぁ可愛いやつなので俺もたまに相手をしてあげている。

 なんて言ってもまだ小学部4年だしな。

 下半身に洗脳され始めるまではまだまだ初い奴だ。

 こいつの立ち位置は乙女ゲーに出てくる後輩の攻略キャラだと俺は設定している。

 後輩キャラの恐ろしいところはショタさとプレイヤーの母性をくすぐるところにある。

 俺も実際に母性をくすぐられ甘えさせてしまっているしな……後輩の攻略キャラって怖い!

 因みに中学部と小学部は校舎が隣接し間に中庭を挟んでいる。


「姐さんはまだご飯食べていないんすか? ここを通るってことは食堂っすよね?」


「そうだよ。少し人探しをしていて……」


「だったらオイラの得意分野っす!」


 そうだ、狩彬の嗅覚は犬並み。

 人探しならこいつを使えそうだ。

 

「じゃぁ、お願いしようかな?」


「誰を探しているっすか? その人のニオイが付いているものがあれば速攻で見つけてくるっす」


「堀田のニオイがついているもの……持っていないや。学級では隣の席の子なんだけど……」


「だったら姐さんのニオイが少し移っている可能性が高いっす。姐さんのニオイがする他人を見つければいいっすね! 任せるっす!」


 そんな事もできるのか?

 狩彬は……勇者の仲間候補として意外と使えるかも?

 ま、有能かどうかじっくり見定めさせてもらうとするか。


「くんかくんか……匂うっす。姐さんと別の女性の体臭が混じったニオイ……」


 その言い方、なんだか俺が臭いみたいで嫌だなぁ……。

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