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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
美心(青年期)編Ⅰ
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乙女ゲームにて

 俺が友達を作らなければならないのは理由がある。

 明日は学級内の仲間達が親睦を深めるため嵐山で課外活動があるためだ。

 今日こそ何としても友達を作らなければ5限目にある班決めで俺はえらい目に合うことになる。

 そうなると中学4年もまた友達ときゃっきゃうふふが出来ず俺は暗黒の1年を過ごすことになってしまう。

 昼休み、多くの生徒が弁当を食べ終え何処かへ行ってしまう。

 教室内には俺と数人の生徒だけか……。

 そろそろ奴らが来るはずだ。

 騒がしくなる前に弁当を食べきって俺も何処かへ行こう。

 そう思い、弁当を口の中にかきこむ俺。

 すると俺に声をかける2人の生徒が教室に入る。

 

「やぁ、美心さん。お昼も相変わらず美しいね」


「おい、俺の美心に手を出すなよ?」


 今日はやけに早いな。

 くそっ、これで詰んだか……いや、まだだ!


「きゃ―――、勧修寺様よ!」


「いつも端整された御姿……尊いですわ」


 前の席に座り俺に声をかける男子は勧修寺輝彰かしゅうじ てるあき、見た目は金髪のイケメン男子だ。

 他の女子が黄色い声を上げるのも頷けるほどの格好良さは男だった俺も認めよう。

 だが、この男子が女子から人気が高い理由はもう一つある。

 それは彼の家柄にある。

 何を隠そう勧修寺家と言えば公家。

 公家の多くは陰陽術の使い手でこの男子、学年1位の成績を誇り一般教科も俺に次ぐ学年2位だ。


「美心さんの作る弁当は本当に凝っているなぁ。僕は料理のできる女性が好みなんだ」


「は、はぁ……そうですか」


 俺は勧修寺の後ろにいる女性達を見る。


「勧修寺様、またあの平民に声をかけていらっしゃるわ」


「あんな貧乏人の何処が良いんでしょう?」


「うん? どうしたんだい美心さん。お箸が止まっているよ」


 誰にでも身分の差など気にせず爽やかに声をかけることは良いが、それは俺にとって公開処刑に近いってことを知ってくれぇ。

 去年は勧修寺と同じ学級で声をかけられ続けたが一定の距離を取りうまく避けていた。

 今年は無事に学級そのものも別になり、ようやく離れることが出来たというのに休み時間毎にここへ来られると流石に鬱陶しい。

 あんたのせいで去年は女子に距離を置かれ友達ができずにいたんだっての!

 

「美心は卵焼きに砂糖を入れない派か……」


 こらっ、俺の弁当から勝手に卵焼きを取るんじゃねぇ!

 俺の隣の席に座った黒髪ロングで若干ゴリマッチョな男子は保科厳龍斎景義ほしなげんりゅうさいかげよし

 信濃国の武家出身で剣術に秀でている。


「保科くんも居るわ。いつ見ても逞しい御姿をしているわね」


「私、あのような殿方に守って頂きたいですわ」


 女子達の声が聞こえる。

 勧修寺も保科も女子人気の高い2人が揃って俺に声をかける。

 地獄だ……。


「ははは、すまねぇ。美味そうだからつい……な」


「また、あの平民女に……勧修寺様といい保科様といい泥臭いメスの何処が良いんだか?」


 違う、違うんだ!

 俺はこの2人に何の興味もない!

 くそぅ、またこの流れか!

 俺は平民でこいつらは公家と武家。

 その身分差がありながら平民出身の俺に声をかけることがどうやら上流階級のお嬢様方はお気に召さないらしい。

 それも一部の派閥は特に俺への当たりが強く俺は影で虐められていた。

 堀田のように声をかけてくれる女子もいるにはいるが少数派だ。

 実際に西園寺に口を挟まれ有耶無耶にされたし……。


「おい、そこの女! さっきから陰口を叩いていねぇではっきりと……」


 保科がその場で立ち上がり黒板近くからこちらを見ている女子達に声をかける。

 だーかーらー、そういうのが俺にとって一番迷惑なの理解しろっての!

 この脳筋がっ!


 ギュッ


 保科の袖を掴み上目遣いで懇願する。


「保科くん、やめて。私は何も気にしていないから……」


「美心……ふっ、お前は相変わらず優しいな」


 違うわい!

 女子達に嫌われるのを避けるためにしてるんだっての!

 俺の前世が男だったということもあり、こいつらの考えることは手に取るように分かる。

 俺も中学から高校の時は下半身にあるゴルディオンクラッシャーが脳に直接叫び続けていた。

 女子だ……兎に角、女子に声をかけまくれと。

 そして、ファイナルフュージョン承認をしてくれた女子にはヘル&ヘブンを決めろと!

 彼らのゴルディオンも自身の脳に叫び続けているのはもはや確実。

 そう、勧修寺も保科も可哀想に今は下半身の純朴な下僕なのだろう。


 だが、俺にそのつもりはさらさら無い。

 魔王を倒すまで勇者の俺が恋愛などしてられるか!

 なんか乙女ゲー主人公のような展開を気に入ってたりもするが、俺は誰ともくっつく気はない。

 そもそも俺は乙女ゲーをしたことないんだよな。

 それを題材にしたざまぁ系ラノベは前世で大量に読んで何となく理解している程度だ。

 主人公の女生徒は平民、そしてそんなことなど気にせず口説き落とそうとするイケメンの攻略キャラ達。

 だが、それを邪魔する悪役令嬢とその派閥。

 ……うん、中学部からの俺の状況は正にそれだ。

 しかも、その状況が年を負う毎に加速していっている。

 実際に今は近くに居ないが俺をものにするため声をかける男子があと3人居る。

 この状況が続けば高学部では攻略キャラが何人になっているのやら。

 

「そうだ、美心さん。明日の嵐山なんだが自由時間、どうかな? 2人で見て周らないかい?」


 ふっっっっっざけんな!

 そんなの誰から見ても『私達付き合っているんですの、おほほ。ざまぁ! 平民の女に負けてやがんの』と言っているようなものだろうが!

 俺は女子の友達ときゃっきゃうふふしたいだけなんだ!


「おい、だったら俺も! 美心、俺と……行こうぜ!」


 1人で地獄へでも行ってろ!

 ああ、もう鬱陶しい。

 弁当を食べ終えた俺は席から立ち井戸のある水場へ向かう。

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