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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社活動編
50/263

ボス戦にて2(前編)

 根音が倒される5分前。


「尼僧! 何やってやがんだ! 俺は先に逃げるぞ!」


 寺の中にまで響き渡る根音の声。

 

(逃げるだと!? 貴様は私達悪魔教四天王を守る守護士だろうが! まったく、これだから男は! キモいキモいキモいキモいキモい!)


 胸の奥から湧き上がる怒りを抑えながら自室に忍び込む尼僧。

 そこで見たものに目を疑った。


「無い!? 私が不幸な女性を保護し得た金で買った高級ブランドのありとあらゆるものが……無い!」


 尼僧は怒りが頂点に立ちながらも誰の仕業か考えた。

 もちろん、怒りで我を忘れている状態で過った考えなどあてにならないがそんなことなどにそうにはどうでもいいのである。


「ス、星々の庭園(スターガーデン)のガキどもめぇぇぇ! 私の私物を勝手に売りさばいたなぁぁぁ!」


 ブランド物に興味のないシリウス達が質屋で高く買い取って貰えるなど知りもしなかった。

 今はプロキオンとベガの自室として利用しているため、不要なものはすべて処分したのだ。


「私の呪物は……」


 だが、ブランド物よりもさらに大事なものを隠していた尼僧は箪笥の中を漁り始める。


「無い! 無い! 無い! 私の呪物が……無い! 見た目はうそふきの能面にしか見えないのに……まさか、アレも売ったというのか? 普通の人間には古い能面にしか見えない。興味のあるエゲレス人なら買いはするかもしれないが……くそっ! どこまでも腹の立つメスガキ共だ!」


「おぅふ!」


 真夜中の牧場に根音の気持ち悪い悲鳴が響き渡る。

 尼僧は直感で理解した。

 使えない守護士の根音が星々の庭園によって殺られたのだと。

 

(あのYカスが倒された以上、奴らの次の行動は私を見つけ出し殺すことだろう。薬漬けの家畜共はおそらく星々の庭園のチビガキが治療したのは想像に難くない。問題は自爆装置だ。クローゼットのあった部分に修理した後が……こんな場所の隠し部屋も簡単に発見されてしまうとは……星々の庭園、やはり油断ならない相手だ)


 音を立てないように床の板を取り外し地下に降りる尼僧。

 だが、深夜のため真っ暗で何も見えない。

 

 ジャリジャリジャリ……


(なんだ、この臭いは? それに床に砂利でも撒いたのか。明かりがなければ見えないか……くそっ、面倒な!)

 

 コツン


 引き返そうとしたとき足元に何かが触れる。

 暗闇の中、手に取るとそれは高級ブランドのネックレスであった。


「あ、あ、ああ! これはピャネルの……私のコレクションの中でも1,2を争うほど高価なネックレス。どうして、こんな場所に? だが、これを売れば事業の再始動も夢では無い。あは、あははは……やはりサタン様は私の味方をしてくれている!」


 一度、地下室から離れ明かりを探す尼僧。

 食堂には家畜として育てた子ども達が集まっている。

 

(ここに避難しているのか? ここまでの練度など教えてはいない。年齢がほぼ同じ星々の庭園のガキ共が訓練したと報告を受けたがまさかこれほどまでに……)


 ゾクッ!


 尼僧の全身に鳥肌が立つ。

 背後をゆっくり振り向くとそこに居たのは瑠流だった。


「マム?」


「あ、あら久しぶりですね。えっと……六華ちゃんだっけ?」


「瑠流」


「あー、そうでしたね。瑠流ちゃん、ええ。もちろん、覚えていますよ」


 尼僧は目の前に立つ瑠流が何を考えているのか分からなかった。

 星々の庭園の訓練を受けたからには戦闘能力も上達しているのは自明の理。

 賢者の石も呪物も持たぬ尼僧にとっては驚異そのものだった。


「えへ……えへへ、マムだマムだマムだ」


 満円の笑みを溢す瑠流。

 尼僧は一つの仮定を得る。


(ほぼ似た年齢の星々の庭園のガキ共に従う家畜も居れば、私をいつまでも慕う家畜も居ておかしくはない? そうだ、相手はどちらもガキ。そうとなれば信じさせれば瑠流は私の手駒として操れるのでは無いか? ……ぷひっぷひひ、そうだ! 瑠流に自爆させ食堂内の家畜もろとも証拠隠滅を図れば良いのではないか?)


「瑠流、長い間留守にしてしまってごめんなさいね。さ、こちらへいらっしゃい」


「マム――」


 瑠流が尼僧に抱きつく。

 

「そう、いい子ね。寂しい思いをさせてしまいましたね……ん?」


 ポタッポタッ……


 腹部から何やら温かい物が流れ落ちる尼僧。

 そして、次の瞬間。


 ザンッ!


 腹部に指したナイフを横に薙ぎ払う瑠流。

 尼僧はその場に倒れ込んでしまった。


「あは、あはははは……やったぁぁぁ! ワカらせてやったのぉぉぉ! 瑠流が一番に尼僧をワカらせたのぉぉぉ!」


 瑠流は異常な笑みを浮かべながら叫び始める。

 それに気付いたリゲルや食堂に避難していた子どもは瑠流のもとへ歩み寄った。

 

「悪魔と深い繋がりがある尼僧だます?」


「ああ、奴が悪魔と深い繋がりがある尼僧だ!」


「悪魔と深い繋がりがある尼僧!」


「すみませぇぇん、悪魔と深い繋がりがある尼僧を発見してしまいましたぁぁ!?」


「ワカらせたい……」


「うん、あたしもワカらせてやりたい……」


 子ども達が懐からナイフを取り出す。

 それを見た尼僧は恐怖に包まれ必死に立ち上がろうとする。


「リゲル様、次は私が尼僧をワカらせます!」


「あたしが先だよ!」


「あっちんがワカらせるもん!」


 子ども達の間で何なら揉め事が始まりリゲルはそれを必死に抑えようとしていた。

 その隙を逃さず尼僧は残る力を振り絞り立ち上がると近くにおいてあった燭台を持ち地下室まで必死に逃げる。


(くそっくそっくそっ! あいつらイカれてやがる! 何が私をワカらせるだ!? 私が居た頃より危険な殺人鬼に育て上げてしまっているじゃないの! あんな奴らが悪魔教に楯突いたら危険だ! 私も死は避けられない以上、牧場もろともガキを道連れに散ってやる! ひゃははは、春夏秋冬美心ざまぁみろ!)


 先程は暗闇で何も見えなかった地下室が燭台の明かりで照らされる。


「えっ……」


 その光景を見た瞬間、尼僧の決意は音を立てて崩れ去る。

 

「どうして、ここに私のコレクションが……」


 地下室にあったのは寺のありとあらゆる場所に置いていたブランド物だった。

 もちろん、尼僧の部屋に置いていたものもそこにあった。

 何故、ここにあるのかというとブランド物であろうとなかろうとバッグや服ということに代わりはないため、シリウス達が地下室を収納場所として利用していたためだ。

 実際にボディースーツの機能がすでに停止した現状で彼女たちは尼僧のブランド物のドレスをサイズ変えをし着用していた。

 

(ああ、やはり死にたくない。不幸な女を利用して私が楽して金儲けする現状を捨てたくなんて無い! 私はもっと大勢の不幸な女の子を出して、それをもとに金儲けをしたいだけなのに! なのに、どうして私が死ななければならない!? それもこれもすべて春夏秋冬美心のせいだ! キモいキモいキモいキモいキモい……あのキモいババアがぁぁぁ!)


「追い詰めたぞ、悪魔と深い繋がりがある尼僧!」


「ここまでよ! 悪魔と深い繋がりがある尼僧!」


「あの時みたいにまた首の骨を折ってやるでござるよ、悪魔と深い繋がりがある尼僧!」


「わち、何もしていないのにリゲルやシリウスから疑われのもおばちゃんのせいだからね! 悪魔と深い繋がりがある尼僧!」


「悪魔、悪魔、悪魔、悪魔と五月蝿いわぁぁぁ、ガキ共ぉぉぉ! んな存在、居るはずねぇだろうがぁぁぁ!」


 悪魔を信じて当然の悪魔教信徒が悪魔を全否定した瞬間であった。

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