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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社活動編
42/263

審問にて

 皆が声を上げたため怨恨の間が騒がしくなってしまった。

 それを制止するかのようにミストレスが話しかける。


「ヒトトセミコですか。昔から私達の邪魔ばかりをしていますが彼女も所詮は幕府の犬であり女狐。遊郭の件は私達にとって自然災害と同じものだと思うしかありません。京都島原以外の遊女は早急に海外へ移送し日本人牧場で飼うようにしてください」


「その手筈もすでに整えてんで。ロセアのセベリアに巨大日本人牧場を建造中や。もちろん、ロセアの国金やで」


「上出来です。では他に利用できそうな不幸はありませんか?」


 数人の者が挙手をし不幸ビジネスの提案を話す。


「お、おで……いつも腹が減ってたまらないんだな。このひもじい感覚はまるで地獄なんだな。んで、おでは飢餓を不幸ビジネスに利用できないかと気が付いたんだな」


 口を開いたのは墓盛坐空。

 悪魔教四天王の次に地位のあるセブンシンズの1人である。

 悪魔教内では暴食の墓盛と呼ばれており、その名の通り常に肉を貪り食う巨漢であった。


「ひもじい時なら何でも食べられそうやねぇ」


「なるほど、食料困難ざますか。確かに不幸ざます。これは良いスキームができそうざますねぇ」


「全国的に食料困難になれば貧しい奴らには虫と粟だけ食わせておけば良いんだよ。んで、俺達はそいつらが食うはずだった肉や米に有りつけるってわけだ。がははは」


「食欲は人の最も抗えない欲望の一つ。それを不幸にするとは考えましたね」


 網壁蝨が挙手をし話をする。


「しかし、ミストレス。ここ十数年は飢饉が起きていないのじゃ。かの東北地方でさえ春夏秋冬財閥が出没し貧しい農村に炊き出しを毎日のようにしているとか……」


「くそっ! また春夏秋冬財閥か!」


「俺達のビジネスをことごとく潰しやがって!」


 もちろん美心にはそこまでの考えなど無い。

 ただ有り余る財を人々の救済に使っているという感覚しか持っていなかった。

 そして、円卓を囲む者達により美心や春夏秋冬財閥への罵声や怒号が一向に収まらない。

 その中で堀の過激な発言がミストレスの耳に止まった。


「がはは、奴にも適当な冤罪をつけて極刑してしまうか。金でも解決できねぇほどの冤罪なら幕府も……」


「堀、今何と? ヒトトセミコを殺すおつもりですか?」


 機械音声のようなミストレスの声だが感情的な圧がかかっていることに83人全員が疑い沈黙する。

 尼僧もこのようなことは初めてであった。

 

(な、なに? この異様な圧は……ミストレスが怒っている? 堀の話に特におかしなことはなかった。春夏秋冬美心さえ死ねば私達の計画は確実に成功するはずなのに、そのことにミストレスは何故怒っていらっしゃる?)


「もう一度聞きます。堀、貴方如きがヒトトセミコを殺せるとでも?」


 尼僧はその言葉の裏にあるものを悟った。


(そうか、ミストレスはこの中で最も春夏秋冬美心との因縁が深い人物だと聞いたことがある。奴を手に掛けるのは悪魔教四天王で無ければセブンシンズでも無い。ミストレス本人の最大の欲望として存在しているものは春夏秋冬美心を自らの手で刈り取ることなのですね!)


 堀は今までの言葉を撤回するように言葉を放った。


「い、いいえ! まさか……」


 ピクッ


 83人全員が目を疑うように堀の顔を見つめる。


「くくく、これまた理威狩だねぇ」


「いいえ? 今、いいえと言いましたか?」


「へっ……はっ! し、しまった! いいえ、違うんです! こ、これは……」


「また、いいえと! ゆ、許さないのです!」


「堀、貴様は終わりじゃよ。悪魔教内でのいいえは賛同の意を示す言葉。今、春夏秋冬美心を手に掛けるかとミストレスが聞かれたことに対し、貴様はいいえ(悪魔教内で賛同の意を示す言葉)と言い放った。ミストレスの言葉はサタン様の言葉と同義! 貴様はサタン様に反旗を翻したのじゃ!」


「ち、ちが……お、おぶっ! ミストレス、ゆ……許して……くだ……ばぎゃ!」


 ボンッ!


 堀が不思議な力に押し潰され全身の穴という穴から血が吹き出し床に倒れる。

 82名全員がその異様な死に様を見て感激していた。


(今のは陰陽術ではない。な、何の力だ? ミストレス、やはりこの御方はサタン様そのものだとでも言うのか!?)


「くくく、素晴らしい。ミストレス、実に理威狩だったねぇ」


「あーあ、1人死んでもうた。これやったら83-1異端審問会になってまうやん」


「B、普通に82で良いざましょ。それより、あの力……」


「こ、こほん。うっかり殺してしまいました。今回はここまでにします」


「これにて第99回日本悪魔教異端審問会を閉廷するのじゃ」


 突如、死人が出たことで会は終了し殆どの者が離席していく。

 尼僧も自室へ戻ろうかと席を立ったところで銀兵衛に呼び止められ再び席に着く。

 円卓に残ったのは四天王と銀兵衛のみ。

 円卓の中心にあるバフォメットのホログラムも消えておらずミストレスも居ることは尼僧も理解していた。


「さて、尼僧。聞きたいことがあります。ジャッピング・フォレストが何者かに襲撃されたようですね」


 ミストレスが初めて声をかけてくれたことに対し感激しつつも、尼僧は起きたことをすべて話す。


「いいえ(悪魔教内で賛同の意を示す言葉)。春夏秋冬美心が後継者を集めた組織を秘密裏に結成していたようです。奴らは自らを星々の庭園(スターガーデン)と名乗っていました」


「またヒトトセミコですか。それは不幸でしたね。それで証拠隠滅の方は?」


「家具一斉大放出ならうちが買い取ったんで」


「その点は問題ありません。賢者の石の材料になる家畜共は薬漬けにしているため再投与までの期間が長引くと死ぬようにしてあります。牧場も自爆装置を3日おきに更新しなければ起動するようになっております。今頃、家畜は瓦礫の下敷きになり全滅。すべての家具は粉々になり跡形も残っていないかと……」


「ほぅ……聞いていたことと違いますね」


「銀兵衛、報告をするざます」


「報告って……ま、まさか!」


 尼僧は一瞬にして悟った。

 これはPが仕込んだ尼僧自身への公開処刑であると。

 四天王は互いに協力することもあるが、その実は腹の探り合いである。

 一つでも似たような団体が消えてくれれば自分の利益に繋がることを常に意識していた。

 

「くくく、俺の弟子であるネオにずっと牧場を見張らせていたのだがね。ガキ共は誰一人として死んではおらぬよ。それどころか星々の庭園のガキ共によって戦闘訓練までされている。あの場所は証拠も証人も全て残った状態で春夏秋冬美心の手に渡ってしまったも同然だろうねぇ」


 尼僧は驚愕した。

 

(あ……有り得ない。あの阿片は私が開発した新型。私以外に家畜共を生かし続けることなど……はっ!)


 尼僧はベガが異様な速度で阿片の誘惑から脱出できたことを思い出した。

 

(ま、まさか……あの柿色の瞳のガキが何らかの術を使って? いや、だが陰陽術は日本以外では発動しない。賢者の石も持っていない奴に何ができた? 考えろ、考えるんだ!)


「あと、もう一つ……自爆装置は完璧なまでに解体されていたようざますね」


 キッ!


 尼僧はものすごい形相で金鶴を睨む。

 

「さて、尼僧。貴女はこれで二度、私達に手を焼かせたことになります。一度目は西南戦争時の孤児出荷の際でしたね?」


「い……いいえ(悪魔教内で賛同の意を示す言葉)」


「あの時の間抜けさは儂も目を疑ったものじゃ。桃色の派手な商船に孤児を乗せて海外に送り出そうとは……」


 尼僧は後悔よりも怒りが先に湧いてきていた。

 

(こ、こいつらぁ! 私がどれだけ悪魔教に多額の出費をしたと思っている! 私はただ不幸な女の子を有効利用してあげているだけにすぎないのに! この守銭奴共が!)


 巨大なブーメラン発言であることは最早言うまでもない。

 そして、ミストレスが尼僧に勅命を言い渡す。


「今回の後始末は尼僧自らが行うこと。1人では難しいのは明白でしょうから特別に協力者を1名付けることを許可します。すべての証拠を隠滅すればセベリアに建造中の巨大日本人牧場の管理人に就けることは保証しましょう」


「へぇ、ええやん」


「失敗すれば四天王の座も失うことを忘れずに頑張るのじゃ」


「失業しないだけ良かったざますねぇ、おっほほほ」


「なんと……寛大な……お心遣いに感謝いたします」


 尼僧は腸が煮えくり返りながらもミストレスの前であるため冷静に対処し、その場を去っていった。

 去り際に銀兵衛が声をかける。


「協力者はジャッピング・フォレスト前で待機中の俺の大事な弟子だ。決して失わせるようなことはしないでくれよ、くくく」


 尼僧は自室へ戻り支度を済ませると豪華客船から下船し、使いの者が運転する蒸気自動車に乗り再び日本人牧場へと向かっていった。

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