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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社活動編
40/263

豪華客船にて

 尼僧が牧場を去ってから数週間後……。

 レヴァプール港近郊に停泊している蒸気機関式超大型豪華客船。

 世界最強と謳われたエゲレス海軍の軍艦がまるで蟻に思えるほどの巨体な鉄の塊が海上にあり、尼僧はその中の医務室に居た。


「はい、これで完治したざます。まったく、賢者の石を5つも使わせてくれちゃって……この代金はかなり高く付くざますわよ、C」


 目を覚ます尼僧。

 日本人少女の血液を主成分とするその石により治療陰陽術をかけてもらい、シリウス達にやられた首の骨や傷が跡形もなく消えていた。

 

「はいはい、分かってますからキモいその顔を近付けないで下さい。それにしても貴方がエゲレスに来ていたと言うのは本当だったのですね、P」


 恩義がまったく感じられない話し方で相手に礼を伝える尼僧。


(P……日本悪魔教の四天王第参番席の1人、金鶴カズノスケ。銀兵衛から聞いていたが私が男に助け出され男に治療されるなんて……クソックソッ! それもこれも春夏秋冬美心のせいだ! 絶対に許さない!)


 Pと呼ばれるその男の名は金鶴カズノスケ。

 派手なドレスを身に纏い全身に華美なアクセサリーを付け女装をしている。


「おほほほほ、ああたがエゲレス政府内の悪魔教信者と仲良くしていただいているおかげでこの国の資本家からお金を吸い上げることができたざます」


「銀兵衛から聞きました。アヘン中毒者の矯正事業を始めたようですね」


「おほほほ、矯正すると言っても悪環境下で強制的に働かせることだけざます」


 尼僧が笑顔で質問をする。


「でも、壊れた人間を売っているだけなのですよね? それでは売る人間が居なくなれば事業が成り立たない……何か良い案でもあったのですか?」


「おほほほほ、そこは交渉次第でうまくいったざます。労働者の給料はあてくし側が支払うため、この事業を続けるための補助金を……とだけ申したざます」


 それだけの説明で尼僧は金鶴の考えていることを理解し笑顔で答える。


「なるほど……アヘン戦争の被害者を矯正する目的で始めた事業。本来ならば賃金を支払うのは当然の義務だけれど、私達の手元に来た時点でその人間は利用されるだけ……ぶふっ、Pの考えが読めました」


 2人は不気味な笑みを浮かべながら会話を続ける。


「お給料など1文足りとも渡すはずが無いざます。薬の魅惑から自らの意思だけで抜け出せるまではあてくしが預かっておくと当の本人達には伝えているざます」


「ぷっ、それは基本中の基本ですね」

 

「頑張って矯正なされて社会復帰されることだけが我々の痛手となるざます。もちろん、生きている間は中毒症状が改善しないよう食事にお薬を混入させる手筈も完璧。これであてくしは何もせずともエゲレスから手元に補助金が入ってくる。なんて……なんて最高なスキームざますか!? さすが、あてくし!」


 計画が単純なのは言うまでも無いが自分の行いに酔いしれる金鶴。


 ピピピ……

 ピピピ……


 医務室の無線機に連絡が入ったため金鶴が無線の内容を聞く。


「そろそろざますか……ええ、Cの治療も済んだざます。では、1時間後に……」


 金鶴がその内容を尼僧に伝える。


「あの御方が来訪されたざます。1時間後に怨恨の間にて緊急定例会議を始めるため、ああたも四天王第四番席である限り出席するざますわよ」


 尼僧は一瞬驚くと共に何かに納得したようですぐに冷静さを取り戻す。


(あの御方が参られた!? なるほど、この船がエゲレスに来ていることにもそれならば納得がいくか。しかし、何故?)


 尼僧が金鶴に問いかける。


「あの御方がここに? まさか、エゲレス政府と……」


「あてくしも聞いていないざますが会議で話すようざます。では、あてくしはそれまで軽く一杯飲んでくるざます。ああたは?」


「私はリハビリついでに船内でも散歩させてもらいます」


「そう、ノースフィールドが会いたがっているざましたわよ。プールへ足を運んでみることをおすすめするざます。では、また後ほど……」


 そう言って金鶴は医務室から出ていく。

 尼僧もベッドから起き上がり自身の足でゆっくりと立ち歩く。


(生きてさえいれば治療陰陽術で完治することは分かっていたが、首の骨を折られ全身が麻痺していたことが嘘のよう。クソッ、ジャップの……しかも男の力を借りることになるなんて……クソックソックソッ!)


 尼僧はその場で地団駄を踏み、あらゆるモノを蹴飛ばす。

 攻撃的な性格のため誰か居ればその者に当たり、誰も居なければ物に当たるというのが彼女が心を落ち着かせる方法だった。

 医務室内にある物がひとしきりボロボロになったところで尼僧は廊下に出て船頭へ足を進める。


(確かプールがあったのは船の先頭だったはず。特に話すことなど無いが媚を売っておく必要はあるし行くか)


 この豪華客船は全長が900メートル、幅が200メートルという現代の空母を遥かに超える有り得ないほどの巨大建造物だ。

 それを成し得たのはこの異世界の日本だけに存在する陰陽術とエゲレスが開発した蒸気機関が融合した産物のおかげである。

 廊下を歩き進めるとカジノエリアに入った。

 葉巻の煙がもうもうとしており視界が悪い。

 ただでさえ視力が極端に悪い尼僧にとってそこは最悪な場所だった。


(あーキモいキモいキモい! ディーラーのバニーガールが男共のいやらしい視線を浴びながら働かされている! 早く助けて私の施設に入れてあげ私の金になってもらわねければ!)


 不機嫌な表情でカジノエリアを進む尼僧。

 そこに話しかけてきた1人の男性。


「C! 久しぶりじゃねぇか!」


 白いスーツを身に纏いダンディな雰囲気を醸し出す男を睨みつける尼僧。

 

「あら、堀さん。町奉行の貴方もここに来ていたのですね」


「がはは、お前からの案をもとに半年前に行った俺達が爆買いしました会も大成功したぜ。女性に酷いことをした男共を公開処刑することで悪魔教入信者も随分増えたしな! オバサンばかりだけど……がーははは!」


 爆買い……何を買ったのかはご想像にお任せする。

 尼僧と堀は船側へ出て会話を続ける。

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