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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社活動編
37/263

悪手にて

 ベガが一気に間を詰めて尼僧に拳を向かる。


(こ、このガキ! その動きは春夏秋冬流、秋の型、素風!? そこから繋がる連撃は……)


「紅葉狩り!」


 ベガの小さい身体から繰り出される右手は容赦なく尼僧の心臓を狙う。


(さっきのガキの蹴りもとても子どもから繰り出されるとは思えない威力だった。これは……避けるのも間に合わない! くそがっ、使うしか無い!)


 バチィィィ!


「ほえ?」


 目に見えぬ壁により攻撃を防がれるベガ。

 その様子を見ていたシリウスとリゲルは驚きを隠せなかった。


「今のは……」


「陰陽術……よね? どうして!? 海外では使えないはず!」


「僕の予想が外れていたとでも言うのか……しかし現状、僕達は確かに使えない」


 リゲルは何度か試してみるが陰陽術は発動しない。

 

「ははは! 試作機とは言え良いじゃない。さぁ、クソガキ! 手足の2~3本は失っても恨むな……えっ!?」


 どういう原理で陰陽術を発動させているのか戸惑っているシリウスやリゲルと違いベガは一度殺すと決めた相手がたとえ有利になろうと関係無かった。

 尼僧が話している最中でもお構いなしに攻めていく。


 バチィィィ!


「ぐぅぅぅぅ、このクソガキャァァァァ! 焔壁エンヘキ!」


 ベガの四方から火柱が吹き上がる。


「わわっ! これじゃ動けない……どうしよう」


「あれは第6境地陰陽術の焔壁!?」


「尼僧は僧正の領域者か! まずいぞ、ベガに加勢しよう」


「でも、そうなると計画が……」


「ベガが殺されてしまえば計画どころではないだろ! それに次の手は考えてある!」


「そ、そうなの? だったら仕掛けるわ。援護をお願いリゲル!」


 ヒュッ……バチッ!


 大木の上から尼僧めがけてパチンコで小石を放つリゲル。

 だが尼僧を覆っている見えない壁により弾かれてしまう。


「ひひ、さっきのガキ共か? あのチビを流石に見捨てずにはおけないようだな」


「はぁぁぁぁ!」


 尼僧の背後からシリウスがニーキックを尼僧の後頭部めがけて繰り出す。


 ドゴッ!


 だが陰陽術により防がれてしまう。


「くっ……やはり陰陽術には陰陽術しか」


「シリウス、それにリゲルも!? なんで来たの!?」


「計画を変更する。けれど、その前に尼僧を止めるわよ!」


「う、うん」


 炎の壁に囲まれ身動きが取れなかったベガだが常人の何倍もあるジャンプであっさりと脱出する。


(焔壁を飛び越しただとっ! いや、春夏秋冬美心の後継者なら十分考えられるか。けれどね……ふふふ、陰陽術を素手で突破することなど不可能! まだ私にも十分勝機はある!)


 尼僧は不気味な笑みを浮かべる。


「それじゃ、わちが先に行くよぉ!」


「ちょっと待って。尼僧……確か名は夢子さんだったわね? ここは何!」


 以前とは違い逃げる広さも十分にある現場で更に尼僧と対峙している状況をシリウスは逃さなかった。


(シリウス……そうか、奴から情報を得られるだけ得るつもりだね。だったら僕も)


 突然の話に尼僧は若干驚きを隠せなかったが、すぐに冷静さを取り戻しシリウスを睨みつける。


(ガキが……私の本名まで知っているとは。いや、春夏秋冬美心の関係者なら知っていて当然か。だが、ここは何ですって? 白々しい嘘を……しかし、時間稼ぎは私にも必要だ。コレは連続して使用するほど消耗する。こいつらを瀕死の状態に追い込むには陰陽術は必須。3分ほど適当に話を合わせ、その後は一気に掃除してくれる)


「ここ? 貴女達も既に知っているのでしょう?」


「ジャップファーム……日本人牧場は本当なのね?」


「うふふふ、家畜扱いされてる同族が可哀想? そういえば春夏秋冬美心はまだ生きているのかしら? 生きていれば今年で還暦を迎えるはずだけれど……」


 3人を煽りつつ尼僧もシリウス達から情報を得ようと試みる。


「こいつ! 穢れた口でマスターの名を!」


「ベガ、落ち着きなさい。ええ、今でも日本の平和のために忙しくしていらっしゃるわ。夢子さんはマスターと面識でもあるのかしら?」


「ふふふふ、そうね。できれば一生会いたくない相手だったけれど不運にも見つかってしまったわ。でも、私は生きて今も欲望のままに生きている! ははははは、これもサタン様のお導きなのよ!」


 尼僧から狂気を感じる3人。

 続けてリゲルが尼僧に話しかける。


「ここにどうやって日本から捨て子を集めた! 日本は幕府の名の下に異国船を見つけ次第、誰でも打ち払って良いことになっている!」


 尼僧は大木の上から問いかけるリゲルと目を合わせ言い放つ。


「ふふふ、異国船誰でも打ち払い令に今でもすべての藩が従っているとでも?」


 尼僧のその言葉にシリウスとリゲルは驚きを隠せなかった。


「従っていない藩が存在するとでも言うのか……」


「有り得ない! 日本を売るような行為をする藩があるなんて……」


 尼僧は不気味な笑みを浮かべながら話を続ける。


「明治10年2月……ふふふ、徐々に廃れていく武士制度に異論を唱える者達が幕府に喧嘩を売ったことがあってね」


 勉強を幼い頃から欠かさないシリウスとリゲルは瞬時に理解した。 


「まさか、西……南……戦争! 近年、最大の呪物事変の裏に売国奴が!?」


「薩摩藩は西南戦争のあと幕府直轄領に指定されたはず!?」


「そうだ、島津家はもう……」


「うふふふ、いつから島津家だと言っていた? ここ、エゲレスと強い繋がりを築いていたのは尼僧である私。あの頃は最高に稼がせていただいたわ。戦争で居場所を失うガキどもを助けるという名目で幕府から俸祿チューチュー仕放題。そして、裏ではエゲレスのとある研究のためにガキどもを高値で売りつける。あっははは、欲望のままに生きることの素晴らしさ! 悪魔教の教えに従っただけ……なのに……あのアマが……それをぉぉぉ!」


 過去の出来事を思い出し突如キレる尼僧。

 それほどまでに美心を憎んでいることを2人は伺い知れた。

 その話についていけないベガだが一つだけ尼僧の言葉で引っかかったことがあり声を上げる。


「こ、ここってエゲレスなの!?」


「何を言っているのよ、ベガ。ここはギハナ高地よ」


「でも、さっき尼僧がエゲレスって」


「た、確かに! 尼僧、ここはエゲレスなのか!」


 自分達が目指した場所では無かったことを、現在地が間違っていたことを遂にシリウス達は知ることになってしまう。


「何を今更言っている? ここはエゲレス」


「そ、そんな……僕達は……」


「わち達、まだ辿り着いていな……」


「ふふふ、特別に教えて差し上げるわ。ここはモンドン郊外のジャッピング・フォレスト。エゲレス陸軍の特別管……」


「嘘だっっっ!」


 何が何でも信じたくないシリウスは発狂してしまう。

 それを千載一遇のチャンスだと捉えた尼僧は広範囲に陰陽術を放つ。


(今だっ!)


「泰山鴻毛!」


 ズンッ!


 強烈な重力が3人を襲い、その場に倒れてしまう。

 後は動けない3人が逃げられないように全身を簀巻きにし迎えの者が来るまで拘束をしておくだけである。


「く、くそっ! 油断した!」


「動けないよぉ」


「ふふふ……うひっうひひひひ! 今日はボーナスデーね! 大金がこれでまた入るわ! あはははは、久しぶりに高級レストランでも行こうかしら! 家畜どもは薬でイカせておけば数時間ほど放っていられるし!」


 尼僧は勝ちを確信し油断していた。

 だが、それが最大の失敗である。


 ゴキッ!


 聞き覚えのある音がする。

 それも尼僧自身の身体の一部からである。


「ふっ、今更やってきたのかい?」


「ぶぇぇぇん、助かったぁぁぁぁ」


 尼僧は何が起きたのか理解が追いつかない。

 見覚えのある身体である背中がよく見えている。

 それも鏡で見たことのある背中だ。

 何やら違和感を感じる尼僧が気付く。


(……自分の背中が肉眼で見えるはずが無い! これは……これは一体……)


 ドサッ


 身体が徐々に動かなくなりその場に倒れ込む尼僧。

 

「ありがとう、助かったわ」


 陰陽術で身動きを封じたはずのシリウスが何者かに起こされる。

 3人と同じ黒いボディースーツを身に纏っていた。

 必死で視界を上に向ける。

 

「首の骨を折ってやったでござる。お主はもう動けぬよ……南無三」


 尼僧は驚愕した。

 まだ星々の庭園の隊員が居たことなど完全に想定外であったのだ。


「そ、そんな……馬鹿なっ!」


「周囲に何も無い草原の真ん中で暴れていたら誰だって気付くでござる」


 子ども達も異変に気付いたようで部屋の電気が次々と点灯していく。

 

「さて、洗いざらい話してもらおうか。悪魔は何処にいる? 先程言っていた研究とは何のことだ?」


 リゲルが尼僧に問い詰める。

 指一本動かない尼僧は命乞いをするしかなかった。

 意識さえあれば家畜である子ども達を使って動けるようになる算段を既につけていたのである。


「は、話すから……命だけは……命だけはぁ……ううぇぇ……」


 あまりの見苦しさに言葉を失くす4人。

 リゲルが再び質問をする。

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