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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社活動編
36/263

草原にて

 身体を小さくしガクガク震えるベガ。

 今すぐにでも側に駆けつけてやりたいが眼の前を塞ぐ鉄格子が邪魔である。


「くっ、こんな時に刀でもあれば……」


「無いものを言ったって意味が無い。ベガ、僕達の事が分からないのか!」


 リゲルがベガに声をかけるが泣き喚くだけで返事はない。

 

(どうしよう? このままずっとここに居るわけにもいかないし……鍵を探したほうが早そうね)


 シリウスがリゲルの肩を叩く。


「リゲル、鍵を探すわよ」


 ベガに話しかけるのを止めシリウスの方を向くリゲル。


「鍵か。分かっ……!」


 シリウスの方を向いた瞬間、リゲルの表情が変わる。


「リゲル?」


 リゲルはシリウスの背後を指し示す。

 その方向を向くシリウス。


「なっ!」


「おやおや、地下がやけに騒がしいと思って来てみれば、またネズミが入り込んでいたようですね? スターガーデンの者でしょうか? 春夏秋冬美心が直接乗り込んで来るかと思っていましたが、再び子どもを送ってくるなんて……ふふっ!」


 シリウスとリゲルはすぐに戦闘態勢に移る。


(なんてことだ。こんな狭い廊下で悪魔の眷属と鉢合わせしてしまうとは)


(迂闊だったわ。でも、こうなった以上はやるしか無い!)


 ベガを発見した時からその他のことに気を配る余裕が無かった2人は互いの目を見て尼僧に襲いかかる。


「悪魔の眷属といえど相手は人間!」


「ええ、リゲル! 援護をお願い!」


 リゲルは森の枝で作ったY字型パチンコで小石を尼僧に向かって放つ。

 視力が極端に悪く、また周囲も暗いため尼僧にはリゲルの動きが読めなかった。


 バシッ!


 尼僧の額に小石が直撃し姿勢を崩す。


「今だ!」


「はぁぁぁぁ!」


 ドゴッ!


 シリウスが尼僧に向かって突撃し飛び蹴りを食らわす。

 そして、間を置かず連撃でキックの猛襲。

 

(このガキ、なんてしなやかで美しい動き……それにこの威力! 牢に閉じ込めているガキと同じ春夏秋冬美心に訓練された者か!)


 尼僧は素早い動きをするシリウスの攻撃をすべて防ぎ切ることは出来ず膝をついてしまう


「ガ……ガハッ! くそったれ、ガキの分際で!」


「リゲル、今のうちに!」


「ああ!」


 倒れた尼僧の横を走り1階へ戻っていく2人。

 十分に倒せるほどの力量を持ちながらも悪魔の眷属という設定を信じ込んでいるため追い打ちはせず、その場から逃走することを優先した。

 尼僧は素早い2人を捕まえることなど当然出来ず、さらにはかなりのダメージを負わせられたことに対し激昂する。


「私が……子ども相手に……何も出来なかった!? くそがぁぁぁ、舐めやがってぇぇぇ! ぐっ!」


 蹴りの威力が想像以上に高く受けた場所が赤く腫れている。


(それにしてもあの体術……春夏秋冬流に違いない。春の型、桜吹雪……それを使えるのは春夏秋冬美心だけだったはず……奴も年だ。あのブロンド髪の子どもはもしかして奴の後継者か? だとしたら春夏秋冬美心はもしかしてまだ日本にいる?)


 ニチャァ


 不敵な笑みを浮かべ何かが閃いた尼僧。

 足を引きずりながらベガに近付く。


「うわぁぁぁん! 来ないでぇぇぇ!」


 ベガには尼僧も幻覚症状でモンスターに見えてしまっている。


(たったの数ミリでここまで症状の出るガキは珍しいな。ふふふ、だが春夏秋冬美心の手先の者なら慈悲などかけぬ)


 プスッ


 尼僧は怯えて震えるベガの足を掴み問答無用で注射を打ち例の薬を投入する。


「うわぁぁ……すぅすぅ」


「さてと……奪われないように手錠で私と繋いでおくか」


 ベガを担ぎ上げ地下から出る尼僧。

 その様子を天井裏から見ているシリウスとリゲル。


「ふふ、思った通り。ベガを牢から出したようだね」


「さっきまで騒いでいたのに今は眠っているわ。まさか……」


「ああ、何らかの薬を入れられたのだろう。さっきの自白剤では無いと思うが……」


 カタッ


(物音? いや、さっきの2人ね。ふふふ、丁度良い)


 天井裏に気配を感じ取る尼僧。

 だが、気付かぬふりをして自室へ戻る。


「あの尼僧、もしかして眠るつもりなのか?」


「私達がまだ生きているのは知っているはず。でも油断していてくれるのなら構わないわ。眠った後にベガを連れて小屋に戻りましょう」


 ベガと尼僧の手首が手錠で繋がれていることを2人は気付いていなかった。

 そして、自室へ戻った尼僧は箪笥から何かを探している。

 

「あれは……赤い宝石?」


「箪笥にしまっているところを考えると大切なものなのでしょう。けれど、どうしてこんな時間に?」


 赤い宝石を懐にしまうと次に無線機の置かれている棚へ向かい何処かへと連絡している。


「ええ……次の出荷は明日で……突然ですが……はい、はい……ええ……了承しております。それと家畜の出荷先はドゥエス氏の元へ……ええ、はい、はい……では」


 ニチャァ


 不敵な笑みを浮かべる尼僧。


(ふふふ、今頃2人は相当焦っているでしょう。そこの天井裏から盗み聞きしているのは分かっている。さて、どう出るかしら?)


 何処へかけたのかは分からない状態であったが尼僧の話した内容で最悪の展開を理解するシリウスとリゲル。


「出荷……だって!?」


「確実にベガでしょうね。それも明日……」


「どうする? ベガの言っていた通り選ばれたようだが……」


 シリウスは目を閉じ考える。


(明日、迎いの者が来ればその後を追い悪魔の拠点が分かる。問題はベガを如何にして救出するか……よね? 警備が厳重な場所なら助け出すまで時間が必要だし……)


 悩んでいるシリウスにリゲルが声をかける。


「シリウス、ベガを信じよう。僕達には情報が必要だ。悪魔の拠点さえ突き止めさえすれば後は……」


 その言葉にシリウスは答える。


「拠点さえ突き止めれば……ね。計画はこうよ。おそらく明日の何処かで瘴気を吐き出す車が迎えに来るでしょう。その車にベガを乗せ連れていく場所が判断できれば車から救い出す。必ずその拠点へ入れては駄目よ。そうなると助け出すのは困難になるからね」


「拠点の目星さえ突き止めればそれでいい。ああ、それで決まりだ」


 尼僧は無線機をしまい自室を出る。


「どこへ行くつもりだ?」


 2人は天井裏をゆっくりと移動し後を付ける。

 尼僧は本堂を通り過ぎ外へ出ていった。

 そして、牧場のほぼ中心部辺りに来たところで足を止め叫ぶ。


「さぁ、この子が明日出荷されることは聞いていたのでしょう!? 今、助けなければこの子は連れて行かれ……そして確実に死ぬ! それが嫌なら出てきなさい!」


 2人は呆気に取られ少しの間、思考を停止する。

 リゲルの予想で悪魔のもとに送られた子どもは喰われると理解している2人である。

 他の子ども達を同じ目に遭わせないようベガが身代わりになっている時点でその提案は意味を成さない。


「は? あの尼僧……今、なんて言ったんだ?」


「私も理解できなかったわ。そもそも今は救出する必要が無いし……」


 静寂が辺りを包み込む。

 何処か焦っている感じの尼僧は続けて叫ぶ。


「出て来ないつもり!? この子を見捨てるのか!」


 2人は何も答えず静寂だけが訪れる。

 

(どういうこと? さっきはこの子を助けるため地下に侵入したのでは……)


「う――ん、むにゃむにゃ。マスターのためならわちは命をかけれるの……」


 ベガの突然の寝言に尼僧は驚愕する。


(そ、そういうことだったのか! 先程訪れたのは捕らえられたこの子に自害しろと伝えるため! いいえ、春夏秋冬美心を神として崇めているガキ共だ。何も成さず死ぬなど有り得ない……だとすれば……まさか自爆して私を巻き込むつもりか!)


「う――ん……あ……あれ、ここは……」


「ひっ!」


 ベガが目を覚ます。

 想定した以上に早く目が覚めたことにより尼僧は慌てふためき手錠を外しベガを放り投げる。


 ドンッ


「あいたっ……あ、あれ? あ、尼僧! やばっ、見つかっちゃった!」


 同時に意識をはっきりと取り戻したベガも慌てふためく。

 

「ベガを投げ飛ばしたぞ?」


「ベガ……よかった。今度は意識がはっきりしているようね」


 2人は安堵しつつ現状を静観する。

 

(く、くそっ! 幻覚を見るほど中毒症状を冒していたのに……どうして!?)


 ベガの特性であった才能がここで開花したのである。

 それは本人も美心も知らぬ、あらゆる毒物を急速に解毒させる体質であった。


(見つかっちゃった以上はどうしたら良いんだろ? そこまで考えてなかった。尼僧を殺すしか無いのかな? 子ども達を助けるためだもんね。うん、そうしよう)


 シリウスとリゲルが近くの大木から見ているとも知らずに、ベガは独断で判断をし尼僧を前に構えを取る。

 

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