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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社活動編
32/263

牧場にて

 エゲレス、モンドン郊外の森の中でシリウス達は唖然としていた。


「これは何でござるか……壁?」


 目の前には高さが10m以上もある高い壁が張り巡らされている。


「森の中にどうしてこんな?」


「ゴホッゴホッ、取り敢えず壁に沿って進めば何か分かるかもしれないよ」


「そうね、そうしましょう」


 ずっと森の奥まで壁は続いている。

 シリウス達は壁に沿って森の奥へ足を運び進め2時間ほど進んだ所で1つの明かりを見つける。


「どうして森の中に明かりが?」


「壁の入り口のための印?」


 明かりに近付くと壁面に1つの門が見えてきた。

 門は固く閉じられており向こう側の様子を探ることはできない。


「どうする、シリウス?」


「この壁の向こうが気になるわね。それにこんな不気味な壁がある森に小屋など建てられないわ」


「安全のためにも、ここは確認しておくでござるよ」


「わち、眠くなってきたぁ」


「シッ、誰か来るわ」


 森の外から一台の蒸気自動車がやってきて門の前で停止する。


 ブォォォ


「けほっけほっ……」


「瘴気を撒き散らしている……なんなの、あの車!?」


「リゲル、口をこれで塞いでおくでござる」


「ああ、すまない」


 プロキオンはリゲルにハンカチを渡す。

 

「あの車……もしかして悪魔が乗ってるの?」


「コホコホ……瘴気を後部にある筒から出しているんだ。相手は悪魔だろうね」


「門が開くでござるよ」


 ギ……ギギギ……


 門がゆっくりと開き自動車が門の先へ進んでいく。

 シリウス達も気付かれぬように移動し門の中へ入る。


「えっ……ここって?」


 シリウス達は眼前に映る光景に再び呆気に取られてしまう。


「門の中は広大な草原だったでござるか?」


「壁は円形に建てられているのね。そして壁の中は外と違い草原……」


「他には……」


「あそこに大きなお寺が見えるよ」


 自動車が進んだ先には和風の寺が見える。

 今まで見たモンドンのどの建築物とも違い皆が見知った建築物が建てられていた。


「どうして、こんな場所に寺が?」


「悪魔の施設なのかもしれないわ。みんな、気を抜かないで」


 シリウス達は姿勢を低くし屋敷に向かう。

 自動車から出てきたのは1人の男性。

 いかにも大富豪のような風貌で金のアクセサリーを身に纏い金のステッキをついている。


「ふぉっふぉっふぉっ、ミスユメコ。なかなかの上物ではないデスカ」


 そして、寺から白装束を着せられた少女と1人の尼僧が自動車に近付く。


「はい、ドケチ・シサンカー様。今月はこの子でよろしくお願いします」


 男と尼僧がなにやら話をしているが距離があるためうまく聞き取れない。

 シリウス達は3人の目を盗んで寺へ近付く。


「子どもと尼さん?」


「しかも、紅毛人ではなく日本人でござるよ。どういうことでござる!?」


「シッ、悪魔と何か話しているぞ」


 シリウス達が悪魔だと思いこんでいるだけで実際には裕福な資産家である。

 寺の軒下に潜り込み話を盗み聞く。

 しかし、その内容はすべて英語のため全く聞き取れない。

 話が終わったあと、白装束を着せられた少女が資本家に引き渡される。

 そして、去り際に尼僧が少女に声をかけた。


「華子ちゃん、里親が見つかってよかったわね。これからも元気でね」


「うん、グランマ。ありがとう!」


 二人の会話だけはしっかりとした日本語でシリウス達にも聞き取れた。

 

「里親……ですって?」


「ここは孤児院だったござるか?」


「まだ、そうだと決めるには情報が少なすぎる。コホコホッ……」


「わちね、このお寺の中を探ってみるべきだと思うの」


 ベガの提案に皆が頷く。

 自動車は少女と資本家の男性を乗せ門の方向へ走っていく。

 耳を澄ますと子ども達の無邪気な声が寺の中から聞こえてくる。

 

「……そうね」


「もうすぐ夜だ。行動するなら夜中だな」


「ここで少し体を休めましょう」


「わち、お腹すいたよぉ」


「寺の中から少し食料を拝借すりゃ良いさ」


「罰が当たりそうなことを言うでござるな」


 そして、夜が更けるまで寺の軒下に身を隠し体を休める4人。


「さて、行動開始しましょう」


「足音から察するに30名以上は居そうでござるな」


 4人は二人一組になり広い寺の中を調べ始める。

 シリウスとベガ、リゲルとプロキオンに分かれ行動する。

 子ども達は既に寝入っておりシリウス達に気が付くことはなかった。


「日本語で書かれた絵本……」


「他のも全部日本語で書かれているよ……」


 シリウスとベガは子ども達の部屋を調べていた。


「おか……あ……ちゃん」


 コンッ


 眠っている子どもの足がベガに軽く触れる。


「あっ……」


「ベガ、任務中よ。静かに……」


 ベガが何かに気付いたようでシリウスの肩に触れ指で子どもの足を見るように促す。

 眠っている子どもの左足首に小さく数字が刻まれている。

 初めは変わった痣だと思っていたが部屋の中に居る子ども達の同じ箇所に数字が刻まれていた。


「入れ墨にしては変わっているわね?」


「何なんだろうね……」


 一方、別行動を取っていたリゲルとプロキオンはこの寺の住職でありそうな尼僧の部屋を天井裏から偵察していた。


「ふぅ……これで今月のノルマは達成できたわ。来月は誰にするべきかしら? それにしてもあの資産家は本当に羽振りが悪い。もっと金払いが良ければこちらもやる気が出るって言うのに……」


 意味深な言葉をポツリと零す尼僧。


(のるま? 金払い?)


「来月ってどういうことでござる?」


「ここはあいつが居ないときに入るしか無いね。一旦、シリウス達と合流しよう」

 

 そして寺の屋根上に集合し報告しあう4人。

 

「子ども達は全部で34人、全員日本人よ」


「足首に数字が刻まれていたから数人分だけメモしといた。リゲル、これでなにか分かる?」


「13492、20021、13599……なんだろう?」


「住職が今月のノルマは達成できたとか言っていたでござる。あと、羽振りが悪いとかも……」


「住職も日本人で確定?」


「尼僧は明らかに日本人だ。ただし悪魔とつながっている……」


「孤児院が……どうして?」


「連れて行かれた少女が白装束を着ていたのも気になる。日本人ならその意味はどういうことか分かるはずだ」


「死装束……やはり、あの子は」


「ああ、里親と教わったあの悪魔に食料として……」


「なんて下劣な!」


「そんな……それって豚や鶏と変わらないでござる! ここは日本人牧場ってことでござるか!」


「日本人牧場……」


 シリウスは後悔した。

 あの時にすぐ門の方向へ行けば少女を助けられるたかもしれない。

 だが、悪魔と相対して勝てるはずも無い。

 強い葛藤が彼女に押し寄せる。


「この国の人達はこのことを知っているのかなぁ?」


「そうだ、これが一般的ならこんな目立たないよう森の中に壁で囲んで作る必要など無い」


「つまり……どういうことでござる?」


「不法ってことさ。紅毛人だって同じ人間だ。人間が食料として飼育されているなんて知られたら暴動が起きかねない。人種が違ってもそれくらいの倫理観は一緒だと僕は信じているよ」


「あの瘴気の中を見たでしょ。紅毛人の多くは労働者としてすでに悪魔の手中に収まっていると考えたほうが良いわ」


「この国を牛耳っているのはお金を持った悪魔ってこと?」


「くそっ……すでに手遅れの状態でござらぬか!」


「飼育対象が日本人だけなのも気になるね。悪魔は日本人が好物なのか、それとも紅毛人が食べられないほど不味いだけなのか……」


「あの子達ってどこから連れられてきたのかな?」


 ベガの質問で皆の表情が暗くなる。

 4人もまた身売りに引き渡された後、運良く美心に救われた経験があるため直感でそれは分かっていた。


「日本の中で海外に子どもを売り渡す組織があるのは皆も知っているでしょ」


「ああ……だが、マスターが壊滅させたはずでは?」


「こんな組織、いくら壊しても湧いてくる。害虫と同じよ」


「ううっ、ここに居る子はマスターに救われなかった子ども達なんだね」


 4人は何かを決心したように互いを見つめ合う。


「だからこそ、私達がマスターの代わりとなってここに居る子ども達を救出するの」


「そうだね、偶然としても悪魔に繋がる組織を壊滅すれば!」


「ゾディアックとして相応しい存在に認められるでござるな!」


「そうと決まったら、今度こそ拠点を作らないとね」


「あの壁の上が最も安全だと思うけれど、どうやって登るかだね」


「わちの手甲で殴って窪みを作れば登れるよ」


「さすがでござるな、ベガ」


 4人は今後のために壁上に拠点を造り、そこを拠点として子ども達の作戦を練るのであった。

 そして、春夏秋冬財閥屋敷にて……。


「日本人を飼育する牧場……エゲレスにそんなものが」


(凄い、こんな設定思いもつかなかった。敵は資産家の金持ち野郎ってところかな? エキストラの人数とかかなり必要そうだけど、それもシリウスが準備してくれているのかな?)


 比奈乃はシリウスの送ってきた手紙を単なる旅先で思いついた創作物だと思い込んでいる。


「比奈乃様、続きを……続きを早くお聞かせくださいまし」


「テストも終わったし、シリウスの小説を楽しむぞぉ」


 手紙の続きを読む比奈乃とレグルスは現在のシリウス達4人のことよりも、過去の出来事について夢中になってしまっていた。

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