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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社活動編
31/263

西方にて

 シリウス達は見知らぬモンドンの街の中をただひたすら西方に向かって走り続ける。

 西に向かうのは訳がある。

 船がテムズ川に入ったのは東から、そしてその先は海。

 もしも悪魔によって窮地に立たされたとき逃げ場が無くなるのは命の危険を意味する。


「ケホッケホッ……」


 ベガも咳をし始める。


(ベガにも瘴気の影響が……一刻も早くここから抜け出さぬては!)


「リゲル、しっかりするでござるよ!」


「あ……ああ、ゲホッゲホッゲホッ!」


 自分もいつ瘴気の影響を受けるのか分からない恐怖に耐えながらシリウスは西方へ向かう。

 だが、それは仮にも幸運をもたらすことになることを4人は知らなかった。

 イーストエンドはモンドンの中で最大の工業地帯であったためである。

 スモッグの濃度は最も濃く公害の発生源となっている場所であった。


「おらぁ、サボってんじゃねぇぞクソガキャァァ!」


「ゴホッゴホッゴホッ!」


 逃げる途中で子ども達が鞭で打たれながら工場内で働いているのを目にする。

 リゲルと似たような症状を出し苦しみながらも強制労働している。

 それは一か所だけでなく至るところで目撃した。


「あれはこんな瘴気の中で子どもを働かせているでござるか?」


「あの大人達は人の姿に化けている悪魔よ。悪魔の好物は人間の苦痛。瘴気で命を削りながら更に強制労働で精神的にも追い詰めていく……悪の所業、ここに極まれりと言ったほうが良いかもしれないわね」


 シリウス達の心情は不愉快そのものだった。

 自分達も日本で親に捨てられ身売りされた過去がある。

 もし美心に救ってもらえなかったら似たような道を歩んでいたかもしれない。


(マスターに変わって助けてあげたい……だけど!)


 その思いを堪えながらシリウスは前に進む。


「シリウス、拙者はもう見ていられぬでござる!」


「リゲルとベガを放って行くと言うの! 今は我慢しなさい! 私達もここに居る時間が伸びるほど命を削られていっているのよ!」


「ぬぅ、そうでござった。すまぬ!」


「ケホケホ……わちも死んじゃうの?」


「死なせやしないわ。ベガ、まだ走れる?」


「うん、あとちょっとだったら……ケホケホ」


 劣悪環境の中、強制労働をしている子ども達を見捨てる心苦しさに耐えながら西方へ向かう。

 やがて辿り着いたのは巨大な時計塔のあるウェストミンスター宮殿付近。


「霧が少し薄くなってきた?」


「変な感じの霧では無くなってきたでござるな」


「わちも咳が出なくなってきたみたい」


「ヒューヒュー」


 最も重症なりゲルは気管支炎を引き起こし呼吸音が乱れている。


「リゲルの回復には瘴気から完全に離れないといけないわね」


 周囲を見ると視界は東部に居た頃より良いがそれでもまだ十分とはいえない。

 4人の目の前には薄っすらと強大な塔のようなものが見える。


「なんでござるか、あれは?」


 近付くとその巨大さに圧倒されるシリウス達。


「泰山府君学園にある時計塔より高い……頂上からなら街の様相も少しは得られそうね」


「僕とベガはそこに隠れて休んでいるよ……ゴホッゴホッ!」


「拙者が2人を見ているでござる。シリウス、頼めるか?」


「ええ、少しだけ待っていて頂戴」


 ビッグベンの頂上からモンドンの街を見渡すシリウス。

 東の方向はスモッグで何も見えないが反対の西には建物が並び、その先には広い原野が広がっている。


(この街に長く留まると瘴気にやられ私達は無事では済まない。一度、街の郊外に拠点を作り、そこから街に何度か足を運び悪魔を探すほうが良さそうね)


 ビッグベンから飛び降りプロキオンのもとへ戻るとすぐにリゲルとベガを連れ郊外へと足を進めた。

 道中でシリウスはこれからのことを皆に話す。


「私達はまだギハナ高地に着いたばかり……ここはマスターが仰った以上の魔境だわ。まずはあそこに見える森の中で小屋を建て、そこで生活基盤を整えましょう」


「ゴホッゴホッゴホッ……ああ、空気が何故か美味しく感じる」


「瘴気から抜けたでござるからな。ベガ、無事でござるか?」


「うん、わちの咳は止まったみたい。それより、どうして森の中で小屋を作るの?」


「悪魔は狡猾よ。この草原のど真ん中に建てると襲ってきなさいと言っているようなものでしょ」


「それに森の中だったら……ゴホッゴホッ! 食料も見つけやすい。よく考えたね、シリウス」


「リゲルはまず体調を戻さないとね」


 そしてモンドン郊外から離れた森の中で彼女達は思いがけないものを目にする。

 ………………。


「比奈乃様、いかがなされましたの?」


「この手紙、まだまだ続くみたい。明日のテスト勉強もしたいし続きは今度で良い?」


「そうですわね、続きが気になるのが本心ですけれど妾も仕事に戻らなければいけませんし……」


「じゃ、この手紙はお婆ちゃんに読まれないようにレグルスが持っていて」


 手紙をレグルスに渡すと比奈乃は自室へ戻っていった。

 話の続きが気になるものの英語が全く読めないレグルスも美心の部屋の掃除を初める。


(お義母様は今頃、松前藩で比奈音様とお会いしている頃ですわね。カペラもお義母様に会えたかしら?)


 レグルスの心配はよそに美心はカペラと共に函館近くのコタン(村)へと足を運んでいた。


「マスター、こちらが村長のアキシペ殿でありんす」


 村長の会話をカペラが訳しながら美心に伝える。

 その内容は数年ほど前から遠くの地で轟音とともに激しい光を目にする機会があったという。


(轟音ねぇ……ロセア軍が新兵器の実験でもしているんじゃないかと思ったが、ここは函館の近くだしありえないか? そうだとしたら松前藩ですでに対処しているだろうし)


「その地はどの方向だ?」


 カペラが村長に尋ねるとその方角を教わり、その地へ赴く。

 そこでは広大な大地が何かの力によって抉られていた。


「これはひどいな……綺麗な北海道の大地がまるで戦場のようになっている」


「マスター、これって陰陽術では?」


「陰陽術? まだこの地では使えぬはずだが……うん?」 


 美心は地面に落ちていた赤い石の欠片を拾い上げる。

 

「宝石……でありんすか?」


「ルビー? ガーネット? いや、それらとも違う。そもそも石では無い?」


 その手触りはザラザラとしており力を入れるとすぐに砕けてしまうほど脆かった。

 よく見るとその欠片は至るところに落ちていた。


「カペラ、この欠片を拾ってくれ。見つけ次第すべてだ」


 美心と共にカペラも地面にしゃがみ赤い欠片を拾う。

 数分ほどで両手で掬い上げられるほどの量が見つかった。

 美心が力を入れ捏ねると欠片が1つになるほど柔らかいのもその石の特徴だった。


「綺麗な宝玉になったでありんす。マスター、この宝玉をご存知でありんすか?」


「いや、分からぬ。だが……」


 美心はその宝玉をみると何故か心がざわつくのを感じていた。

 

「カペラ、この石を時間のある時で良いから詳しく調べてくれ。あと、この石のことは口外せぬように」


「了解でありんす」


 その後、2人はカカシマヤへ戻り美心は会食を楽しみカペラは比奈音の指導を請いながら従業員として勤務するのであった。

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