長州藩にて(其の弐十肆)
秋芳洞千畳敷に残されたのは意識を失い倒れている銀兵衛と基地内にいる金鶴のみ。
「おほほほほ、まさかミストレスが悪魔教を離反するなんて……これはあてくしがすべてを手にする良いチャンスざます。悪魔教は幕府や各藩の汚職大名と蜜月関係にあるざますし、折角構築したチューチュースキーム、無駄にはしないざます。おほ、おほほほほ! さて、これから忙しくなるけれど……銀兵衛、いつまで寝てるざます?」
ムクリ……
「俺は……意識を失くしていたのか?」
「始めてみたざます。ああたの恐怖に襲われたじろぐザマを……」
「ヤツは?」
「ミストレスと共に帰っていったざます」
「ミストレスと?」
「あの様子では悪魔教に戻ることは無さそうざます。トップがいなくなった今、あてくしがすべてを引き継ぐざますが……」
「好きにしろ。俺は修行に出る」
「春夏秋冬美心と再戦するために?」
「ヤツは人外者ではない。人外者だった春夏秋冬美心より得体の知れないナニカだ」
「ナニカねぇ……どうでもいいざます。あれに近付かなければ良いだけざましょ」
「くくく、そうだな……」
「船に戻るざますが、ああたも乗ってく?」
「南米までいいか?」
「お安い御用ざます」
そう言い金鶴と銀兵衛も秋芳洞を去り豪華客船へと戻って行った。
その後の彼らは闇の世界へと戻り再び表の世界に姿を現すのは3年後となる。
一方、山口城へ戻った行人と星々の庭園は先に戻ってきていた比奈乃と静に説明をし各々身体を休ませていた。
「お父様とお母様は松下村塾に軟禁されていただけで命に別状はなかった。レグルスさん、ありがとうございます」
「いいえ、すべてはお義母様のおかげですわ。礼ならお義母様に……」
「その……失礼だが、あそこにいる男性が本当に春夏秋冬美心殿なのか?」
静が視線を送った先で行人と比奈乃が話をしていた。
「生々逆流転……ふぅん。じゃあ、エキストラではなく本当にお婆ちゃんなんだね?」
「本当だって! 信じてくれよぉ比奈乃―――」
「ほんまやで。肉体は美心姉ちゃんの前世やけど記憶は変えられないからな。中身は美心姉ちゃんや」
「ふぅん……ま、イケメンだしいっか♪ えへへ、お婆ちゃん!」
「比奈乃ぉぉぉ、わぁぁぁぁん!」
比奈乃に弱いところは治っていない行人は比奈乃に抱きつくと大きく泣き叫ぶ。
その日の夜は城に戻ってきた静の両親と宴会をし盛り上がり……。
チュンチュン……チュン
翌朝。
「さて、皆さん帰りますわよ」
「ええっ? ムジカ達、まだ観光してないの!」
「ふむ、そうだな。某も少し長州藩を見て回りたいぞ」
「ん、あたし達は遊びに来たんじゃない」
「わち、早く新しい屋敷を見たいよぉ」
「そうね。レグルス、皆に休日をあげたらどうかしら? みんな、1人で京都まで戻れるだろうし先に帰る人は帰ればいい。何も集まって行動する必要はないわ。私達は星々の庭園。単独行動が得意なことは知っているでしょ?」
「さすが、レグルス! 話が分かるぅ♪」
「はぁ……分かりましたわ。皆、自由にしてくださいまし」
「ははは、レグルスもシリウスには勝てないのは相変わらずだな。んじゃ、行くか」
ガシッ
行人の腕を掴むレグルス。
「お義母様は帰りますのよ。その姿になったことを財閥内に周知させなくては……一週間ほどは休みなしだと思ってくださいまし!」
「はぁ!? 比奈乃ぉぉぉ」
「あははは、お婆ちゃん。あたしも帰るからレグルスの言う通りお仕事頑張ってね」
「比奈乃、私は長州藩内でのごたごたが少し落ち着いてから戻る。両親にすべてを任せられないし……」
「分かった。それじゃ、次は新学期でね」
「ああ」
そうして屋敷に戻る者、ここに残って観光を楽しむ者と分かれ皆、自分の時間を思う存分楽しむのであった。
某日某所……。
「くふっ、春夏秋冬美心は天道行人となり更に次元の違う強者へと変わりましたか」
「瀬取さぁん、これからどうしますぅ?」
「くふふふふ、何も変わりませんよ。戦いを望む朕らは新たな戦場へと赴くだけ。そうでしょう?」
「きゃははは、そうだミ」
「むふふ、次はどんな強者と出会えるでしょうねぇ。むふむふむふふふふ」
瀬取達は長州藩から脱出し再び日本国内を行脚する。
彼ら達と星々の庭園が邂逅するのはそう遠くない未来だということは誰も知らない。