長州藩にて(其の弐十参)
パンッ
一発の銃弾が背後から舞香の胸を貫く。
「舞香様!」
「舞香!」
「な、なんですの!?」
皆が基地の方を見る。
するとそこには一基のガトリング砲を手に持つ低杉がいた。
「低杉! あんた何しとんのや!」
「低杉……あいつが!?」
「ひゃはははは! エゲレス陸軍から横流ししてもらったガトリング砲と対日本人用70ミリセンターファイヤー弾! これさえあれば春夏秋冬美心など!」
ズガガガガガ!
「きゃあ!」
「うわっ!」
「ん、危ない」
星々の庭園に狙いを定め放つ低杉。
皆、散り散りになり弾を躱し鍾乳洞の影に隠れる。
「ちっ、まずは邪魔なゴミ共を掃除しようと思ったが……ならば、春夏秋冬美心ぉぉぉ! 貴様を蜂の巣にしてやる!」
「「お義母様!」」
ズガガガガガ!
無数の銃弾が行人に襲いかかる。
だが、彼はその場から微動だにしない。
なぜならその背後には倒れた舞香と必死に介抱するずんがいるためだ。
「お義母様ぁぁぁ!」
パシッ
パシパシパシパシパシ……
「へっ?」
すべての銃弾を受け止める行人。
有り得ないその出来事に開いた口が塞がらない低杉はまるで金縛りにあったかのような感覚に陥る。
パラパラパラパラ
(んほぉ! 一度やってみたかったんだ! 銃弾を素手で受け止め拳をゆっくりと開き弾を床に落とすこの動作!)
「あまりの遅さに全部受け止めてしまったぞ?」
「ふふっ、流石はお義母様だね」
「ええ……私達が心配する必要もないほどに」
「でも、お義母様はあの場を動けない。後ろにいる女性を守る壁となっているから……」
「でも、妾達が近付くにしても距離がまだありますわよ?」
「ん、あたしが行く。水晶眼で先が見えるから」
「コペルニクス頼める?」
「ん」
「ふ……ふざけるなぁぁぁぁ! 銃弾を全て受け止める……だと!? そんな馬鹿なことがあるわけ……うがぁぁぁぁ!」
ズガガガガガ!
再び行人にむかい銃弾の嵐が襲いかかる。
その隙にコペルニクスが動いた。
(お、コペルニクスが行くか。あいつの水晶眼なら弾道を読むことなど容易い。ヤツの始末は彼女に任せるとしよう)
「ずん、舞香は?」
「大丈夫や。あんな銃弾で舞香様が死ぬはずないやん」
「心配してくださるのですか? 痛しの君……」
「当たり前だろ。幼馴染なんだし……」
「ああっ、痛しの君ぃぃぃ♡」
「良かったやん舞香様」
すべての銃弾を受け止める行人はコペルニクスを目で追った。
まだ低杉は彼女が近付いていることに気が付いていない。
「行けっコペルニクス!」
「了解」
「なっ!? いつの間に!」
銃身をコペルニクスに向けるが時すでに遅し。
彼女の持つ鉄パイプが低杉の顔面にぶち当たる。
ドゴッ!
「ふぎゃあ!」
「ん、比奈乃様は何処?」
「ひ……ひぃぃぃ! 春夏秋冬比奈乃なら毛利静と共に観光している。外出を許可したんだ!」
「嘘、人質を遊ばせるなんて聞いたことがない」
「う、嘘じゃないんだ! 信じてくれ!」
「信じられるとでも?」
ザザッ
シリウス達が低杉を囲う。
皆、武器を手に鋭い目つきで彼を睨みつける。
「ひぃぃぃ! 本当なんだ! 信じてくれぇ……」
「そこまでにしてやれコペルニクス。何処に行けば会える?」
「山口城に戻ることになっていますです!」
「んじゃ、城で待たせてもらう」
「この者はいかが致しますか?」
突然の質問に行人は戸惑った。
(え? エキストラの人が何の役なんて知らないし……どうしよう。ここで下手打ったら今後の展開に大きな影響が出るのか? う―――ん)
ドゴッ!
コペルニクスが再び鉄パイプで低杉を強打し意識を奪う。
「奉行所に預ける。あたしが連れて行く」
「おっ! んじゃ、コペルニクス頼んだぞ」
「痛しの君……」
「舞香、お前も来るか?」
「良いんですか?」
「もう悪魔教なんてやめて欲しいしな。お前の信者共、全世界でギャオっていい加減五月蝿いんだよ」
「あはは、美心姉ちゃんの言う通りやん。正直、頭が残念思考なおばさん達の扱いに困っとってん」
「それなら……お世話になります」
行人と星々の庭園に舞香とずんが加わり山口城へと戻っていった。