長州藩にて(其の十捌)
「なんでぇ? 道案内してくれたと思ったら急に襲ってくるんだもんな。てか、どこも崩落してないじゃ……えええ! お、お前ら壁に身体埋めて何して……はっ!」
美心は全てを理解した。
これはごっこ遊びなのだと。
鍾乳洞の真ん中に立つのは何度も戦ったことのある銀兵衛。
最早、腐れ縁と言っても過言ではない相手である。
その相手がボス役のエキストラで激しいバトルの末、シリウス達はやられてしまった。
ピンチの中、到着した美心が圧倒的力で幕を引くのだと勝手に思い込む。
「お、お前ら……俺のためにそこまで……う、うわぁぁぁぁん!」
「お義母様が涙を流していらっしゃるわ」
「ボロボロになったおいら達の姿を見て悲しんでいるのら」
「お義母様、すみませんわ! 妾達では彼にまるで敵わなかったですの!」
「お義母様を悲しませてしまった、お義母様を悲しませてしまった、お義母様を悲しませてしまった……うわぁぁぁん!」
「「うっううっ……」」
美心の涙に釣られてレグルス達も大粒の涙を流す。
「くくく、春夏秋冬美心。貴様が再び長州藩に来ることは分かっていた。第二次長州征伐では大敗を喫した貴様が2度までもこの地で敗れるのだ! いくぞ!」
「あらあら、銀兵衛! 決して舞台を壊さぬよう……」
(あれ、カペラじゃないか。なんであいつが銀兵衛と……ははぁん、なるほど。あいつの交渉術はカカシマヤ勤務の頃から長けていた。その特技を活かし銀兵衛にエキストラの話を持ちかけたのだろう。なるほど、この展開を設定したのはあいつだな。まったく、エゲレスに行ったと思っていたがまさかこんなところで油を売っていたとは……だが、それも許そう! なんせ、俺が楽しめるようにしてくれたんだからな!)
ドゴッ!
バキッ!
ドゴゴッ!
ズバァァァン!
「す、凄い……」
「ん、速すぎて見えない。白水晶眼でも先を追えないほど……」
まるでドラゴ◯ボールのようなバトルが繰り広げられ鍾乳洞の至るところが傷付いていく。
「舞香様、陰陽力は十分や」
「では、行きます」
「くはっ、くははは! これで忌まわしき春夏秋冬美心も終わりだ!」
「生々逆流転!」
基地内で舞香が両手で印を組み千畳敷に描かれた巨大な太極図に手を向ける。
ボウッ
すると太極図が輝き、その中心で戦う銀兵衛と美心の動きが止まる。
「ぐっ……な、なんだこれ? 身体が動か……ねぇっ!」
「くくく、これで貴様も終わりということだ。春夏秋冬美心」
「お義母様!」
「マスターぁぁぁ!」
ボシュッ!
徐々に美心が若返っていく。
生々流転逆、それは神のみに許された禁忌の陰陽術である。
この世界で使えるのは前世が女神の舞香のみ。
「な、なんだ? 力が……溢れ……うぉぉぉ!」
「美心姉ちゃんの力が全盛期の10代や! ここを乗り切れば!」
ドゴッ!
「くくく、動きを封じられ尚も俺と戦うか。その心意気や良し! ヌゥん!」
バキッ!
「ぐっ……でぇぇぇ!」
バシュッ!
美心の身体が徐々に小さくなっていく。
「くっははは! 幼少期まで戻ったぞ! もう少し! もう少しだ! 生前まで戻せば……それは春夏秋冬美心の消滅を意味する! 勝った! 長州藩は日本を盗れるぞぉぉぉ!」
「お義母様がどんどん小さく……どうなっておりますの!」
「おほほほ、生々流転逆。春夏秋冬美心を倒す最大級の陰陽術ざます。ああた達もこれから先、身の振り方を考えるざます。もうすぐ春夏秋冬美心は消滅する!」
「「!!!!!!!」」
「そ、そんな!」
「マスター逃げてぇぇぇ!」
「くぅ、身体がこんなときに動かないッス!」
「お義母様、お義母様、お義母様……お義母様ぁぁぁぁ!」
「くっははははは! 春夏秋冬美心よ、貴様の終わりだ!」
ボシュッ!
太極図の真ん中から赤子になった美心は更に小さくなりやがて消えてしまった。