長州藩にて(其の十漆)
「な……ん……で……」
「カペラ様?」
「あ―――カペラちゃんなの! みんな、カペラちゃんが来てくれたの! カペラちゃ―――……」
ムジカが無邪気にカペラの下へ走り出す。
カペラが死んだことを理解しているシリウスはすぐに声をかけ止まるように促す。
「ムジカ、近付いちゃ駄目! カペラは……もう!」
ムニュ
「ほぅ、たわわな乳。それに顔も美少女ときたざます。こりゃあ……ひひひ、極上の雌豚じゃねぇか!」
ムジカの乳を鷲掴みし不気味な笑みを浮かべるカペラこと金鶴。
「ひっ!」
ダッ!
ヒュン!
カノープスが猫の姿でムジカにタックルし金鶴の側から離れさせる。
「ムジカ、あいつはカペラじゃにゃいにゃ!」
「カノちゃん……でも、どうみてもカペラちゃんなの!」
「ちっ、今すぐに雌豚を食おうと思ったのに……余計な邪魔を……おほほほ! お久しぶりざます。星々の庭園の皆様。モンドンではあと少しのところでこの肉体の持ち主にやられたざます。だけど、今となってはあてくしの身体! ふは、ふはははは!」
「その話し方……もしかしてパープル!?」
シリウスと同行していたリゲル、プロキオン、ベガが驚愕する。
「悪魔教四天王の1人がどうしてこんなところにいるでござる!」
「はーはーはー……カペラ様の身体を悪魔が乗っ取った? はっはっはっはっ……ぐほっげほっはっはっはっ」
カペラを愛してやまないリゲルはこの状況が受け入れられず頭の中が混乱し過呼吸になってしまった。
「リゲル、呼吸を落ち着けるッス! ああ、まったく聞こえていないッス!」
「デネボラ! リゲルが過呼吸でござる!」
「待つわけ! ベガのほうが重症だかんね!」
「はっはっはっ……だ、大丈夫だ。僕は……やれる」
「リゲル、眼の前のあやつはカペラではござらん。下手に加減すると返り討ちに遭うでござるよ」
「わ、分かっている」
「くくくく! 悪魔教四天王の介入か。これはミストレスの指示なのかね? パープル」
「そうざます。この場をこれ以上荒らされたくないと……」
「くくく、そうか。ならば!」
ブワッ!
ヒュゥゥゥ……ズガァァァン!
黒い衝撃波が銀兵衛の身体から放たれ星々の庭園全員が鍾乳洞の壁に激突させられる。
「な、なんて……威力なの……」
「今まで出会った長州藩士でもヤツは間違いなく最強ですわ!」
「ん、動けない」
「変な力で動きを封じられてるわ! これって……陰陽術!?」
立つ者が誰もいない鍾乳洞の中心で銀兵衛はパープルに話しかける。
「これで良いかね? くくく、もう少し遊びたかったところだが真の目当てが来たようだな」
「そうみたいざます。おほほほ、それでは星々の庭園また会うざます。次はああた達を全員あてくしの雌豚にして差し上げるざます……おーほっほっほっほ!」
「カペラ様! カペラ様! カペラ様ぁぁぁ!」
「リゲル、あいつはカペラではないでござる! お主がカペラを慕っていることは既に分かっているが現実を見るでござる!」
「でも、でも! 肉体が生きているならカペラ様が復活できるかもしれないじゃないか! きっとお義母様なら!」
「リゲル!」
シリウスが初めて声を荒げる。
「カペラのことは忘れなさい。あの子は貴女の命と自分の命を引き換えにして死んだのよ!」
シリウスの目から大粒の涙が零れ落ちる。
その時だった。
ジャリ……ジャリ……ジャリ……
シリウス達がやって来た方向から1人の男が足を引き摺らせて姿を現す。
その男は大造寺だった。
「大造寺! くっ、ここに来て敵が次から次へと……」
「待つにゃ! 何か様子がおかしいにゃ……」
ジャリ……ジャリ……
「つ、強すぎ……ます……」
ドシャア
大造寺が倒れると同時に聞き覚えのある声が鍾乳洞内を響かせる。
「なんでぇ、これは?」