長州藩にて(其の十壱)
先に進んだシリウス達は秋芳洞百枚皿のところで第2の敵と激戦を繰り広げていた。
ズババッ!
「くっ、こいつ!」
「シリウス、下手に接近しちゃ駄目だ!」
「なんという斬撃でござる……まだ鞘から刀を抜いてさえいないというのに」
クンッ!
敵の斬撃が直角に曲がりプロキオンを直撃する。
ブシュゥ!
「プロキオン!」
会敵10分前……。
「3人共、止まるッス!」
最後尾のフォーマルハウトが声を掛ける。
「新手の敵か!」
通路のど真ん中に正座をし微動だにしない黒髪ロングの女性がいた。
左手には異様に長い太刀の鞘を持ち目を閉じている。
「………………」
「寝ている?」
「動かないわね」
「そっと横を通ってみるでござる」
「気をつけるッスよ」
忍び足で女性の横を通ろうとするプロキオン。
あと一歩で通り過ぎる瞬間であった。
「プロキオン、跳んで!」
「!」
キンッ
目にも止まらぬほどの高速で地表すれすれに一筋の斬撃がプロキオンを襲う。
その斬撃を飛び跳ねることで難を逃れたプロキオンは女性の前に立つ。
「…………」
「貴女も私達を通さないつもりですか?」
「…………」
一言も喋らない女はその場でゆっくりと立ち上がり太刀をシリウスらに向ける。
「倒してから通れということで良いのかな?」
「ああ、あの女性……立った途端、殺気が急激に膨れ上がったでござるよ」
「だったら、やるしかないわね! 炎!」
「エンチャントは防御重視でかけるッス!」
「ふふっ、仕方がないね。水!」
ジュッ
シリウスとリゲルが同時に放った陰陽術が女の眼の前で水蒸気に変わり視線を奪う。
その隙に2人は散開しプロキオンはタンクらしく女に大剣で斬りかかる。
「どっせぇぇぇぇい!」
「…………」
キンッ
鞘から太刀を抜かず、そのままで振るい大剣の軌道を逸らす女は乱暴にケンカキックを繰り出しプロキオンの腹を蹴る。
ドゴッ
「ぐっ! お主のような華奢な女性に似合わない蹴りでござるな」
威力は大したことがなく、その場で耐え再び大剣を横に薙ぎ振るう。
キンッ
女は鞘から少しだけ太刀を抜き、すぐに納める。
すると……。
バラバラ……ガシャン
「!」
「プロキオンの大剣が斬られた!?」
「そんな!? 盾代わりに使えるほど刀身が分厚い装甲で覆われている自分の傑作ッスよ!? それを斬った!?」
「…………」
「くくっ、はははは! 凄いでござるな。これは拙者も本気で参らねば悪いというもの。お主、名を何と言う?」
「……燐林劉鈴」
初めて声を聞く3人はその美しい声色に聞き惚れてしまった。
「ははっ、美しい声でござるな。そんなお主が何故このような……いや、それ以上言うまい」
スッ……
燐林が初めて構えを取る。
その構えは居合抜きに似ておりプロキオンは防御の構えで応対する。
「プロキオン、止めるッス! 素手でどうにかなる相手じゃないッスよ!」
「…………」
シュン
プロキオンの眼前から消える燐林。
「プロキオン、右だ!」
「くっ!」
ドゴッ!
やはり鞘から抜かずそのままで大きく横に薙ぎ振るう燐林。
プロキオンの横腹に強打するも耐え、燐林の持つ太刀に向かってパンチを繰り出す。
「どりゃぁぁぁ!」
「武器破壊を狙うつもりッスか!?」
「ふふっ、プロキオンも武器を壊されたんだ。これでおあいこ……」
キンッ
ブシュッ!
一瞬の出来事だった。
プロキオンの拳が燐林の鞘に触れる直前、少しだけ太刀を抜き納めると拳が大量の血を流してしまう。
「ぐわぁぁぁ!」
「プロキオン!」
「一体、何をしたんだ……」
「くっ、こいつ!」
「シリウス、下手に接近しちゃ駄目だ!」
プロキオンを案ずるあまり飛び出してしまうシリウス。
「なんという斬撃でござる……まだ鞘から刀を抜いてさえいないというのに」
シュン
後方から襲うシリウスの攻撃を避けプロキオンに最接近する燐林。
彼女が鞘ごと唐竹割りを繰り出す。
得体の知れない攻撃のため距離を置こうと横に移動した時だった。
クンッ
燐林の唐竹割りが直角に曲がり左一文字切りへと変化する。
ブシュッ!
「!!!」
プロキオンの腹に一筋の傷が入り血が吹き出す。
「プロキオン!」
「ぐぅ、これはまずいでござるな……」
バシャァァン
腹を押さえ燐林から距離を取ると遂に倒れてしまうプロキオン。
百枚皿に流れる澄んだ地下水が赤く染まっていくのであった。