長州藩にて(其の十)
「くすくす、パパにはまったく効いていないよ。ベガお姉ちゃん♪」
「実に良いパンチなのである。だが!」
麻痺の効果が切れ始め浄相院が斬馬刀をゆっくりと持ち上げる。
ベガはそのことに気付きながらも連武で浄相院を殴り続ける。
「このっこのっ! わちが……ここで!」
カッ!
浄相院にかけていた麻痺が遂に切れる。
それと同時に持ち上げた斬馬刀を目にも止まらぬ速さで振り下ろす。
ズガァァァン!
「ベガ!」
「避けたよ!」
「ぷーくすくす。でも、沢山斬られてんじゃん。ざまぁ♡」
ベガだけでなくミモザの身体の至る所に切断跡が入っていた。
痛みを羨わぬ切り傷にミモザは違和感を覚える。
(今、確かにベガは浄相院の斬撃を避けたネ。それに吾輩は浄相院から距離を取り射線上にも居なかったヨ。やはり、どう考えてもおかしいネ)
ゴプッ
動くと切り傷から血が滲み出てくるベガ。
痛みを堪えて構えを取り浄相院の眼前に立つ。
(ベガが危ないネ。一か八か試してみるヨ)
ブンッ
「スロウクロス!」
ミモザが浄相院に向かってブーメランを投げる。
相手を弱体化させるには近くを通りさえさせればデバフを与えることができる。
その軌道は浄相院の近くで大きくカーブしミモザの手元に戻ってきた。
「ぬ? またであるか?」
「くすくす、無駄だって。デバフで相手は倒せないんだから♪ ミモザはざぁこ♡ ざぁこ♡」
ミモザも切り傷から血が溢れ出すも痛みを堪えて再びブーメランを投げる。
「フラッシュクロス!」
カッ!
スロウがかかった浄相院は激しい輝きを放つブーメランから目を逸らすことができず再び視力を失う。
「ベガ! 今ネ!」
「どぉぉぉりゃぁぁぁ!」
拳でなく全身を弾丸のようにし突撃するベガ。
「くすくす、何度やったって無駄だって♪」
「なのである!」
ドゴォォォン!
浄相院のまるで壁のような肉体に激突するベガ。
「ぬぅ!」
あまりの威力に浄相院が初めて後方に一歩片足を動かしてしまう。
「でりゃぁ! だだだだだ!」
特攻からの連撃を繰り出すベガ。
浄相院もゆっくりと斬馬刀を持ち上げスロウのデバフが解けるのを待つ。
「ぷーくすくす、パパが武器を振り下ろしたら今度こそ身体が真っ二つになっちゃうかもね♪ くすくす、超楽しみ♡」
「だだだだだだ!」
ベガは浄相院の腕の動きだけを注意しながら連撃を与え続ける。
「さぁ、ここで果てるのである!」
ブンッ!
浄相院が斬馬刀を振り下ろすと同時にミモザもブーメランを投げた。
カッ!
「うわっ!?」
不意せず來來が光を見てしまい視力を失う。
ドゴォォォン!
振り下ろした斬馬刀によって地面に小さなクレーターができていた。
「ぬぅ……なるほど、そういうことであるか」
「あれ? 何処も斬れてないよ」
「当然ネ。今までの斬撃は浄相院ではなく來來! あんたの仕業ネ! 浄相院が武器を振るうとその巨大さ故、どうしても注意がそちらに向いてしまうヨ。その隙に來來が吾輩らに陰陽術を当て続けていたネ」
「ぷーくすくす、正解♪ だけど、それがなんだってのさ? ボクは第6境地に至った僧正の領域の陰陽術師! こそこそしなくても……」
ドゴッ!
「がっ……は!」
ヒュゥゥゥ……ズガァァァン!
來來が話しているにも関わらずベガが來來の腹に一撃を入れる。
ベガの怪力から繰り出された拳に來來は吹き飛び鍾乳洞の壁に激突してしまった。
「つまり、こっちをやれば良いんだよねミモザ」
「くすっ、そうネ。あらあら、そんなに吹き飛んで……來來ってばざぁこ♡ ざぁこ♡」
ピクピク
既に失神し意識を失っている來來。
視力とスロウが回復した浄相院は來來を抱き抱えると2人に向かって言葉を放つ。
「托卵されたとはいえ……この子は我の愛息子なのである。 我らの連携を見破ったお前達に我1人では太刀打ちできぬだろう。だから、ここは道を譲るのである」
「良いの?」
「うむ、我は壁になることしかできぬ朴念仁ゆえ素早い2人に手も足も出せぬのである」
「くすっ、それなら先に行かせてもらうネ。ベガ、傷は大丈夫ネ?」
「特に深くはないけど……」
「ああっ、こんなに血を流して♡ 吾輩が舐めてあげるヨ。うへ、うへへへ」
「ちょ……ミモザ、気持ち悪い」
2人仲良くシリウスの後を追うのであった。