長州藩にて(其の玖)
人影もシリウスに近付いてくる。
片手で巨大な斬馬刀を持ち肩には幼い子供を乗せている虚無僧がシリウスの前に立ちはだかる。
「誰?」
「ぷーくすくす、パパ。この娘達がターゲットだよ」
「うむ、そのようであるな。お初にお目にかかる。我が名は浄相院常流。そして、この子は托卵された我が愛息子……」
「くすくす、來來狂実だよ。始めまして、お姉ちゃん達」
「単なる親子連れでは無さそうね……」
チャキ……
皆が武器を構え最大級の警戒をする。
「うむ、我らは低杉珍作様直属部隊鬼兵隊なのである」
「その中でも最強と呼ばれる四柱なんだよ。強くてごめんねぇ、ぷーくすくす」
「低杉……まずいッス。この者達、長州藩士ッス!」
「ええ、どうやらやるしかないようね」
「うむ、その通りなのである。ここから先は通さないのである」
ブンッ
巨大な斬馬刀を片手で軽く振り下ろす浄相院。
だが、軌道が読みやすい故簡単に躱すシリウス達。
「ふふっ、この狭い洞窟内でその武器は致命的だよ。薙ぎ払うのは壁に当たってしまうし、今は振り下ろすか振り上げるしか無い。ふふっ、僕の計算にぬかりはないね」
「ええ、リゲルの言う通り。さっさと片付けて先に……」
「いや、もう終わったのである」
「え?」
ス―――
皆の身体に一筋の切り傷が入る。
「どういうこと!? 確かに避けたはず……」
「くっ、まずいでござるな。鎌鼬に似た斬撃でござる」
「血が吹き出さない……身体の筋繊維を正確に斬っているためか?」
「ぷーくすくす、次は首を落とすよ? お姉ちゃん達」
ザザッ
先頭を立つシリウスの前に後ろからやって来たミモザが浄相院の眼前に出る。
プルプルプル……
小刻みに震えているミモザ。
「ミモザ? どうしたの?」
「よくも……」
「くすくす、お姉ちゃん。顔真っ赤だねぇ。敵に傷付けられたのがそんなに嫌だった? ぷーくすくす、ざぁこ♡ ざぁこ♡」
「よくも吾輩の愛しの娘らに傷をぉぉぉ! もう、許さないネ!」
ミモザはシリウス達星々の庭園の旧メンバーを愛してやまない。
自身に付けられた傷よりもシリウス達に付けた傷に激昂したミモザは手に持つ十字の投擲武器を浄相院に向かって投げつける。
「ぬっ? これは!」
カッ!
十字の投擲武器が激しく輝き浄相院と來來の視力を奪う。
「シリウス達は先に行くネ! ここは吾輩が!」
「サポーターの貴女が戦えるはずないじゃない! その言葉は飲めないわ!」
「だったら、わちも残る。シリウス達は先に行って!」
「ベガ!?」
「シリウス、行くよ。ベガとミモザのコンビなら十分だって」
「くっ、危なくなったら引き返すのよ!」
「当然ネ。シリウス達に抱かれて果てるまで死ぬ気はないネ!」
十字の投擲武器がミモザの下に戻ってくる。
ブーメランのような投擲武器を使いこなすミモザは相手をデバフすることに長けている。
様々な効果が付与されたブーメランを投げることで相手を弱体化させるのだ。
激しく輝きに視力を奪われている状態の中、ベガが突っ込む。
「そぉれ!」
ドゴッ!
「ぐっ!」
ヒュゥゥゥ……ズガァァァン!
大男をパンチ一発で吹き飛ばすベガの怪力。
浄相院の肩に座っていた來來は軽く飛び上がり鍾乳洞のつららに掴まって難を逃れた。
「くすくす、パパを吹き飛ばすなんてやるねぇ。でもね……」
ガラガラ
鍾乳洞の残骸の中からゆっくりと身体を起こす浄相院。
腹に一撃を喰らっても何ともない様子。
「うむ、なかなかやるのである。お主の名は?」
「わちはベガ。こっちはミモザだよ」
「では、ベガとミモザよ。我も少々本気を出させてもらうとするのである」
「ミモザ、来るよ」
「させないネ!」
ブンッ
再びブーメランを投げるミモザ。
激しい輝きから目を守るため片手で眼前を防ぐ浄相院だが、ブーメランは輝かず一周してミモザの手元に戻ってくる。
「ぬ? 身体が動かぬのである」
「パラライズクロスネ。しばらくはカカシ同然ネ、ベガ!」
「よぉし!」
ドゴッ!
ドゴゴッ!
バキッ!
サンドバックのように浄相院に無数のパンチを繰り出すベガ。
だが、ベガの怪力を持ってしても何ともない浄相院はただただデバフが解けるまで立ち尽くすのであった。