長州藩にて(其の陸)
(ついに発動させるつもりッスね。黒水晶眼を)
「くふ、開いただけですか? それで何が変わる……ごぼっ!」
ヒュゥゥゥ
ズガァァァン!
目にも止まらないコペルニクスの攻撃で顔面に一撃入れられ吹き飛ばされる瀬取。
「ん、そうだった。この眼を使う前にマスターからとあるセリフを言えって言われてるんだった」
「くふっ、ほう? それはなんですか?」
「えーと、邪眼の力を舐めるなよ?」
「くふふふ、なるほど邪眼ですか! なんと素晴らしい! 自身の身体にブーストをかける黒水晶眼の力! 実にそそります!」
(未来視の白水晶眼と自身に強大なバフをかける黒水晶眼。この2つを同時に発動させているコペルニクスは初めて見たッス。いける! これなら瀬取にも勝てるッス!)
「ん、次で終わらす」
「くふふふふ、いいえ。まだまだです! もっと楽しませてください!」
カッ!
ドゴッバキッズガガッ
両者の目にも止まらぬ攻撃にフォーマルハウトはただその場で伏せるしかなかった。
ガッ
ガガッ
ズガガッ
床の畳が両者の衝突時に発生する衝撃波でボロボロになっていく。
そして、数分後……。
ドゴッ!
ズガァァァン!
再び吹き飛ばされる瀬取。
炭素をダイアモンド化した金剛石の鎧もひび割れ彼の頭から大量の血が流れ出ていた。
「くふふふ、なるほど……そういうことですか。黒水晶眼、自身をブーストさせるだけではありませんね?」
「ん、この眼は相手を1秒でも早く確実に殺せる部分を視せる。あんたの場合は頭部。心臓部より鎧の層が薄いみたいだね」
「くふふふ、いやはや何とも恐ろしい眼ですね。では、これならどうです?」
ガチン
再び炭素を生み出すと即座に密集させ金剛石の鎧とし自身の身を覆う。
「!」
「急所が見えなくなりましたか?」
「ん、これはどうやら長くなりそう」
「くふふ、ですがそろそろ夜明け。この辺りで幕引きとさせていただきましょう」
両者は再び構えを取ると動かなくなる。
(まさか、瀬取がこれほどだなんて……やはり勝ち目がないッスか!? 自分がかけたエンチャントはまだ生きているし自分が他にできること……何かないッスか?)
チュンチュン
雀の鳴き声が聞こえる。
日の出により天守の内部が激しく照らされる。
だが、目の見えないコペルニクスには関係のないこと。
同時に目を炭素の膜で覆っている瀬取も日輪など気にしていなかった。
チュンチュン
カァァァ
烏がやってきて雀を追い払う。
同時に両者が動いた。
「ん、視えてるよ」
「チェストォォォォ!」
両者がすれ違う。
フォーマルハウトには2人が何をしたのか見えていなかった。
「ごぼっ……くふふふ、まさかこれほど正確に108もの打撃を心臓部に与えるだなんて……ですがね……」
瀬取が口から血を吐き出し言葉を発する。
「ん、届かなかった……フォーマルハウトごめ……」
ガチン
そう言葉を残すと同時にコペルニクスが凍りつく。
「そんな……コペルニクス……」
「くふふ、では朕もコペルニクスを連れて行くとしましょう」
瀬取は意識を失っているコペルニクスを抱えると天守を後にする。
「自分は置いていくッスか? 自分も山口城に連れて行くッス」
フォーマルハウトを放置していくことに疑問が残りつい声をかけてしまう。
「……いいえ、貴女にはまだ別の仕事があります。長崎の出島へ赴き春夏秋冬美心を秋芳洞へ連れて来なさい」
フォーマルハウトは瀬取の言葉を耳にし一瞬何を言っているのか理解ができなかった。
(出島? マスター? 秋芳洞? どういうことッス?)
「くふふ、 連れて来れば分かりますよ。ですが、身体が綺麗なままでは春夏秋冬美心は話を聞きそうにないですね。ふぅ、弱い者いじめのようで心が痛むのですが……」
ドゴッ
「がはっ!」
突然、フォーマルハウトの顔面を蹴る瀬取。
ドゴッバキッズガッ
そして、何度も何度もフォーマルハウトを足技で傷付ける。
「ふむ、出島はこちらの方向ですか。では、伝言よろしく頼みますね」
ドンッ!
ヒュゥゥゥゥ……キラーン☆
まるでサッカーボールを蹴るかのように方向を定めフォーマルハウトを蹴り飛ばす。
彼女の姿は瞬く間に飛んで行き西の空へと消えていった。