長州藩にて(其の伍)
振り向くとそこには水牢に閉じ込められたスピカ達ベータチームと大造寺が居た。
「おや、灰斗。終わりましたか」
「ええ、ものの数分でね」
レグルス達は愕然とする。
1人相手に苦戦している中、さらにもう1人の敵が現れることなど想定もしていなかったためである。
「大造寺まで……」
「ケンタウルス! ハダル!」
「ん、これはまずいね」
「みんな、逃げるッス!」
フォーマルハウトの言葉に反応するかのようにレグルス達が動く。
目指す先は天守から外へと続く空間。
「では、吾はこの者達を連れて山口城へ」
「こちらもすぐに終わらせます」
(山口城? ああっ、自分達はなんて間違いをしていたッスか! 確か長州藩は数十年前、萩城から山口城へと藩庁を移していたはずッス!)
「逃がしませんよ」
ギュン
ドゴッバキッ!
一瞬の間だった。
まずはレグルスの後頭部に一撃を与え意識を失わせた後、続いてカノープスの腹を強打させ意識を飛ばす。
さらにリギルが陰陽術を放ち瀬取に向かって放った氷塊を瞬時に蒸発させ、彼女の腹部に軽く腹パンを食らわし意識を失わせる。
そして、コペルニクスとフォーマルハウトの前に立ち塞がったのであった。
「瞬く間に3人も!?」
「ん、窮地」
「灰斗、そこの者も拘束を」
「はっ」
ドプン
水牢へと閉じ込められるレグルス、カノープス、リギルの3人。
「安心してください。溺れ死ぬようなことはありませんので」
余裕から来る言葉だろうか。
大造寺が心配そうにレグルスらを見るフォーマルハウトに声を掛ける。
その後、彼はレグルスらを連れ天守から去っていった。
「さて、残るは2名。と言っても片方は戦闘力さえ持たないフォーマルハウトですし、コペルニクスどうですか? ここは一つゲームをしましょう。朕は貴女と同じく視覚をなくします。その状態で貴女が勝てば2人ともここから逃がしましょう。どうです?」
「ん、承知」
「ああ、水晶眼もどんどん使ってください。できれば、もう片方の眼もね」
「知ってるの?」
「情報通りであれば」
「誰があたしらの情報を流したの?」
「くふっ、それは言えません。ただ、今この瞬間もソレは貴女達を見ていますよ」
(誰か他にいるッスか? いや、そんな気配はないッス? 瀬取の嘘?)
「なるほど、そういうこと……」
「くふふふふ、そう言えば貴女は目で見ているのでは無かったですね。ええ、そういうことです。ですが、まずは朕と戦ってください。おっと、朕も目を塞ぎ……くふふふ、ではいざ」
瀬取は自身の目に炭素の膜を覆い視界をなくす。
そして、2人が同時に構え暫くの間微動だにしなかった。
(この勝負、おそらく一瞬で片が付くッス。コペルニクスには必勝の黒水晶眼があるッスがそれの発動を相手が許すかどうか……)
ポトッ
緊張の中、フォーマルハウトの額から流れ出た汗が床に落ちる。
カッ!
ドゴォォォン!
2人が同時に動き激突する。
コペルニクスの鉄パイプは下段から上段へと切り上げの攻撃。
瀬取の攻撃は真正面へと右ストレート。
刹那の未来が視えるコペルニクスは瀬取の右腕を切り上げで払い退けた。
だが、瀬取はその場で大きく回転し払い退けられた右手から裏拳を繰り出す。
その攻撃をしゃがんで躱すとコペルニクスは続いて彼の心臓部へと突きを繰り出す。
「くぅ! 良いですねぇ! ですが朕にも見えていますよ。貴女の動きが!」
心臓部に金剛石の膜を張りコペルニクスの攻撃を受け止めると左肘をコペルニクスの頭上へと落とす。
ドゴッ
「が……はっ……」
「ふぅ、まだまだですね。コペルニクス、貴女はまだまだ強くなる。もっとです。もっと本気を見せてください」
「コペルニクス、無事ッスか!」
「ん、痛いなぁ。でも、手加減したでしょ。本当なら今の一撃であたしは失神してるはず」
「くふふふ、まだ貴女の黒水晶眼を見ていませんからね」
「なるほど。情報を少しでも集めたいってこと」
「くふっ、まぁその通りです」
「だったら見せてあげる。こっちの眼の恐ろしさをね」
コペルニクスは閉じていた右眼をゆっくりと開く。