長州藩にて(其の参)
シュルシュルシュルル……
「包帯を取ってまさか今更、目を使うつもりミ? 無駄無駄! 私は今、周囲と一体化してるミよ」
「ん、そんなのあたしには関係ない。だって……」
「コペルニクスの言う通りですわ。生まれつき盲目の彼女は気配だけで相手の居場所を探れますの。それに包帯を外した以上、貴女の負けは確実ですわ」
「なん……だとミ?」
包帯を外し終わると閉じている両目をゆっくりと開く。
その眼球を見て鈴城は驚愕した。
「それは義眼かミ?」
「ん、左眼は白水晶で右眼は黒水晶を入れてる」
「きゃは……きゃははは! 女の子のアクセサリー感覚でそんなものを入れてるミか! 馬鹿だ、馬鹿だこいつ! きゃはははは!」
ヒュッ
鉄パイプを手に握り鈴城に向かって一直線に走るコペルニクス。
周囲の色と同化し判断がし辛い状況でも確実に相手の居場所を理解していた。
「きゃはは、確かに私の居場所が分かるようだミ。でもね……それだけじゃ私の全方位攻撃からは逃れられな……えっ?」
鈴城が術を放つ1秒前、コペルニクスは何かを避けたかのように進路を変え鈴城に襲いかかった。
ドゴッ!
「がっ……」
鉄パイプで左肩を強打される鈴城はすぐに反撃の術を放つ。
だが、その場所にコペルニクスの姿はなかった。
「ど、どういうことミ!? 私の攻撃が読まれているミ!?」
「コペルニクスの左の義眼は相手の動きを先見する未来視の眼。お義母様がコペルニクスのために自らの手で拵えてくれたくださったもの。わずか刹那の間ですが先を読み取れるだけで彼女は無敵となる……だから言ったでしょう? 貴女の敗北は確実だと」
ドゴッ
「ぐふっ!」
鈴城の攻撃を躱し鉄パイプで連撃を入れられる彼女のダメージは確実に蓄積していた。
「この……このような……このようなことがあって……たまるかぁぁぁぁ!」
呟怨嗟女へと姿を変異させる鈴城。
「ん、やっと来たね。残念なおばさん」
「ギャオオオン! おばさんは若い女のアップグレード版! ギャオオオン!」
変異した直後、ギャオリック砲でコペルニクスに攻撃する鈴城。
だが、相手の動きが読める彼女は既にその場におらず外してしまう。
「何やってるの? 当たらない」
「ギャオオオン! オスに好かれたくなくてわざとダサい格好をしているの! 私達はダサくさせられたぁぁぁ! ギャオオオン!」
いくら攻撃しようがギャオリック砲も鈴城の口から直線方向に飛ぶ以上、コペルニクスには当たらない。
「第4境地風陰陽術、鎌鼬!」
ズババ!
鈴城の両腕を切り裂くリギルの陰陽術。
「へっ? 何が起きた?」
突如、コペルニクスとは関係のない場所から風の刃が襲い来たことに鈴城は一瞬、戸惑ったがすぐに我に返る。
鈴城が攻撃が飛んできた方向へ目を向けると拘束したレグルス達が岩から脱出できていることに気付く。
「なっ……あっ!」
鈴城は周辺を見回し気付いた。
コペルニクスに攻撃を当てることに集中し周りの地形に与えたダメージのことなど気していなかったのだ。
それがレグルス達を拘束した岩盤であろうとも攻撃していたことに。
「やっぱり頭が残念なだけあって今更気付いたようだね。あんたの超音波攻撃でレグルス達を拘束していた岩盤もこの有り様。仲間を拘束して拘束を解くなんて何考えてるの? ねぇ、何考えてるのぉ?」
煽りに煽るコペルニクス。
鈴城は顔を真っ赤にして激昂する。
「ギャオオオン! あれもこれもすべて男が悪いに違いない! ギャオオオン!」
超特大のギャオリック砲をコペルニクスに向けて放つ。
だが、既にその場に彼女はおらず鈴城の背後を取っていた。
「ん、これで終わり」
ドゴッ!
「ば……馬鹿ミ」
鈴城の後頭部を鉄パイプで強打すると目が飛び出し不格好な状態で意識を失ってしまった。