長州藩にて(其の弐)
堀の中、陸までの距離は遠く大造寺に背を向けることになる。
皆がそのことを理解しており彼の付近から動くことができなかった。
「げふっげふっ!」
「デネボラ!」
「むふぅ、ほらほら何をしているんです? 彼女が死んでもいいのですか?」
「このぉ! 第3境地氷陰陽術、氷雨!」
ハダルが氷の礫を放つ。
だが、第3領域程度の強さでは彼の敵ではない。
水鎧を自身の身体に装着し、すべての攻撃を防ぐ。
「またあれか!」
「まずいのら。鎧がある限りこっちの攻撃は全く届かないのら」
「ええ、そうです。つまり貴女達は既に詰んでいるということですよ。渦潮」
突如、渦が発生し皆が飲み込まれていく。
「くっ、駄目だ。ごぼっ……」
「スピカちゃん……ごぼ……」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉……ごぼぼっ……」
「そんな……諦めるしか……ないのら?」
チームベータの皆は渦潮に飲まれ、そのまま浮かび上がることはなかった。
「むふっ、なんて無様な……吾に有利すぎる地形ではバトルにさえなりはしないというのに……ご苦労様でした。むふふふふふ……」
「ごぼっ……げふっげふっ! み……ん……な」
「おっとデネボラを忘れていました。ほいっ」
ザブン
デネボラを渦の中心に投げ捨てる大造寺。
彼女もそのまま浮かんでくることはなかった。
「さてさて、あちらはどうなっていますかな? むふふふふ」
…………数刻前。
「ケンタウルス! ケンタウルス! いけない! チームベータとの通信が絶たれたわ!」
「ええ、そのようですわね」
「……まじッスか……」
「ん、またあいつ」
「にゃふぅ、まさか既に察知されていたにゃんて……にゃろ、自信を無くすにゃ」
チームアルファの前に立つのは鈴城血濡。
相変わらず赤子を鞄のように片手で持っている。
「きゃははは、やっと来たミ。さぁ、以前の続きをやるミ!」
「ん、望むところ。みんなは下がってて。あたし1人で殺る」
「コペルニクス……危険だと判断したら助太刀に入りますわよ」
「ん、それでいい」
「ほう? また目隠しが私の相手をするミか? いい加減、その包帯取ってはどうミ?」
「見えていなくても、あんたの残念なオーラをビンビン感じてるよ。おばさん」
ズガァァァン!
突然、地割れが起き巨大な岩壁が隆起しチームアルファの皆を分断してしまう。
「誰が残念なおばさんだミぃぃぃぃ!」
ブンッ
手に持っていた赤子をコペルニクスに向かって投げつける鈴城。
「きゃははは、さぁ受け止めるしかないミ!?」
「ん、そうだね」
パシッ
グンッ!
赤子を受け止めた瞬間、ガーゴイルの姿に変わりその重さで体重を持っていかれそうになる。
「ん、やっぱりこうなるか」
地面すれすれのところで手を離しガーゴイルを床に置くコペルニクス。
そして、前をみると鈴城の姿は消えていた。
「きゃははは! 今度はうまく逃げたようだミ? でもさ……」
キィィィン!
ブシュッ!
突如、コペルニクスの左腕に無数の切り傷が付けられる。
「コペルニクス、大丈夫ですの!?」
「ん、大丈夫。そっちは?」
「リギル、フォーマルハウト、カノープス」
「ここだにゃ。岩に挟まって動けにゃいにゃ」
「私も同じ。なんとか陰陽術で岩を少しずつ削っているけど……」
「自分も同じ状況ッス。コペルニクスは動けるッスか?」
コペルニクス以外は隆起した岩に身体を挟まれ拘束されている状況だった。
「ん、なるほど……じゃ、援護も無理だね」
「そういうことだミ! お前を殺った後は動けない奴らをミンチにしてやるミ!」
ガァァァン!
鉄パイプを地面に強く叩きつけ地面に刺すコペルニクス。
「じゃ、少し本気で殺ろうか。残念なおばさん」
「きゃははは! 強がりを! 私の姿が見えていないお前に勝ち目はないミ! おっと、そもそも目が見えてないんだったミか? きゃはははは!」
シュル……
コペルニクスが両目を覆う包帯をゆっくりと外す。