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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
美心(幼年期)編
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黒船にて

「ふーん……へぇ」


「美心っち、あまり見たら失礼だよ」


 ヘリーや周囲に居る軍服姿の外国人を、何処からどう見てもただの人間にしか見えないことに対し、美心は不思議に思っていた。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。魔王軍って人間なの? 見た感じ、クソ雑魚乙って感じなんだけど……」


「あはは、なにそれぇ? クソ雑魚って超ウケるんだけど! でも、絶対に油断しちゃいけないかんね。油断していると食べられちゃうかもよ」


 明晴の言葉が美心に誤解を与える。


(なるほど、普段は人間と区別がつかないように化けている。そして油断している人間が居ると魔族の姿に変わり人を食すると……くくく、実に魔族らしくて良いじゃないか、最高だ!)


 美心は最高の笑みをこぼしご機嫌になった。


(美心っち、嬉しそうだなぁ。英語もすごく上手に話せているし、タヒる前の美心っちってもしかしたらお金持ちのお嬢様だったりして。後で聞いてみよっと)


 明晴もニコニコと微笑んでいる美心を見ると釣られて笑みがこぼれてきていた。


(始祖殿にその弟子まで何故不敵な笑みを? ……いや、彼らは既にわかっているのだろう、この結末を)


「こちらデース」


 ヘリーに案内されたその部屋は豪華な飾りが装飾され真ん中には円卓と椅子がいくつか置かれていた。


「お座りクダサーイ」


「座っていいよだって」


「座るとは? 何処に? 座布団は……」


「ここにこうやって座るのですよ」


 奉行所の者たちは椅子を見るのが初めてでどのように座ればいいのか分からなかった。

 外国人のサイズであるため脚が宙に浮き、どうもソワソワしてならず結局のところ椅子の上で正座して座ることになった。


「あはは、そういえば習字の授業のときはさせられたわ」


「あたちも同じ!」


「そっか、美心っちの年代でも? いつまでも変わらないものもあるんだねぇ」


 一旦、部屋を離れたヘリーが書簡を持って椅子に座る。


「ソレデハいくつかのトラブルもございましたが我が国大統領からの親書をわたさせていただきマス」


「美心っち、なんて言ってんの?」


「大統領からの親書だって」


(そっか、正史じゃ黒船来航から数日後に親書を渡されペリーは帰国するはず。でも、この世界では先程の戦闘で歴史に少し変化が訪れたみたい。歴史の修正力がこんな時に働いては欲しくないのだけれど……)


「今、読ませていただいても?」


「イエス」


 仲島は英語が読めないため開いた親書を明晴に手渡す。

 そして同じく英語が苦手な明晴も内容を少し見ただけで諦め美心に手渡す。


(なんと、一瞬で目を通したとでも言うのか!? さすがは日本の始祖なだけはある。そして幼くとも構わず弟子にも手渡してしまうとは……)


 美心も親書に目を通し内容に愕然とした。


(なんだ、これは……。石炭の補給地として下田と函館の港を使わせていただきたい? それに難破した捕鯨船の漂流民の保護と、日アヘ間での交易の許可を願うだと? およそ魔王の親書とは思わない内容だぞ!)


「美心っち、やっぱそれって日米和親条約……って言っても分からないか? 下田と函館の開港要求が書いてあった?」


 明晴は小さな声で美心に聞く。


(日米和親条約? そういや黒船来航でそんなのあったな。だが、和親だと? 魔王は何を考えている? いや、それこそが魔王の狙いなのか? 仲良くするふりをしてすべてを奪い取る。ふむ、魔王ならやりかねない悪巧みだな。だとすると、この要求に答えることはできない。だが、この内容をそのまま伝えてしまうと奉行所は受け入れてしまうかもしれない。何せ日本は弱いからな)


 美心はまだこの世界での日本が世界一の強国であることを知らない。

 さらに陰陽術も全世界の者が使えると勝手に思っている。

 そして、その陰陽術でも最強クラスの技を何度でも放つ存在として魔王が居ると信じて疑わなかった。


(この条約を受け入れたが最後! 日本は魔王軍によって蹂躙される。そんなこと勇者としてさせるわけにはいかない!)


 バンッ!


 円卓を叩く美心。


「み、美心っちどうしたの?」


「なんですか、この条約は!」


「わ……ワッツ?」


 明晴は美心の怒りからある程度の内容を悟った。


(美心っちがマジギレしてる? そんなに酷い内容が書かれて……もしかして日米修好通商条約だったわけ!? でも、それは3年後のはず? 歴史の修正力が先に日本を壊すことを選んだ? そんな例今までに一度もなかった……どちらにしてもその条約は絶対に飲んだらダメ! そこから日本は富国強兵としてバグっていくことになる!)


「美心っち、その条約は絶対に飲まないことを伝えて!」


(ほぅ、兄ちゃんも同じ結論に至ったか。今だけは共闘してやってもいいだろう)


 ビリッ!


 親書をヘリーの前で破り捨て中指を突き立てる美心。


「これが返事だ」


 英語で答える美心に対しヘリーの側にいた数名の軍人は怒りで顔が真っ赤になる。


「このイエローモンキーどもがぁぁぁ!」


 バンッバンッバンッ!


 拳銃を取り出し何の躊躇いも無く放った。

 だが、銃弾は空中で静止し地に落下する。


「おお、始祖殿の陰陽術」


「なるほど……初めから罠であったようですな始祖殿」


「最初からまともに話し合いの余地など無かった……今は逃げますよ仲島さん」


(えっ、逃げんの!? いきなり殺そうとしてきた魔族を放って!? こんなの全滅で良いだろ、全滅で!)


 全員で部屋を飛び出し艦内の狭い通路を走る。

 

「なるほど、ここは確かに動き辛い。敵地に呼び寄せることも計算済みだったようですな」


「ゴートゥーヘェェェル!」


「危ない!」


 曲がり角から突然飛び出してきた軍人に1人の役人が撃たれる。


「くっ、この狭い場所では刀も抜けん」


「甲板に出れば広いっしょ! 美心っち、付いて来れて……あれ、美心っち?」


 美心の姿はそこにはなかった。

 

(美心っち、もしかして怖くて動けない!? あーしのバカ! 気が動転して美心っちを放ってしまうなんて……今すぐにでもさっきの部屋に戻らないと)


 奉行所の者たちを先に行かせ明晴は来た道を戻る。

 一方、そのころ……。


「ぎゃははは! 弱ぇぇぇ!」


「な……なんて残酷ナ」


 ヘリーの頭を掴み引き摺りながら艦橋を探す美心。

 襲いかかってくる軍人はすべてワンパンで肉塊に変えていった。


「ひゃははは! 魔族滅ぶべし魔族滅ぶべし魔族滅ぶべぇぇぇし!」


「あ……あああ……悪魔デース」


 まさに一方的な暴力だった。

 何十人もの軍人が美心に向かって攻撃を加えるが、すべてその小さな体格で躱され気がついた時には全身がばらばらになっていた。

 

 ドシャァァァ!


「ジョォォォン!」


「くひひ、戦艦を鹵獲できれば俺が魔王の本拠地アヘリカに行って滅ぼしてやる。お前らは弱すぎて準備運動相手にもならんけどなぁ!」


 ボンッ!


 陰陽術がまだうまく扱えない美心は体術ですべての軍人を蹴散らしていく。

 

「はぁはぁはぁ……始祖殿とその弟子は?」


「まだ船の中だろう。彼らなら大丈夫だ。小舟を出して浜辺へ戻るぞ。至急、将軍様にお伝えせねば」


「美心っち、どこ――!?」


 べちゃ


「ひっ、なんか踏んだし! これは血!? まさか美心っち!」


 艦内を隈なく探す明晴。

 途中で出会う軍人は1人も居なかった。

 そしてたどり着いたのは艦橋。

 そこに居たのはヘリーと美心の姿だった。

 2人で何やら話しているが内容が英語のため明晴には理解できなかった。


「美心っち、良かったぁぁぁ」


 美心を抱き上げ、鋭い目つきでヘリーを睨み告げる明晴。


「ヘリーさん、アヘリカ大統領に伝えてください。難破した捕鯨船員の救助と帰国手続きだけは約束します。ですが、それ以外のことはすべて飲むつもりは無いと!」


 日本語が分からないヘリーは何を言っているのか理解できていない。

 それだけでなく鬼のような幼女がこちらを見ていることで恐怖心が頂点に達し何も考えられず頷いてしまう。


「よし、美心っち怖かったね……さ、帰ろう」


「えっ、今からこの船の動かし方を教えてもら……わわっ!」


 艦橋の窓から飛び出しそのまま上昇する明晴。

 

「わぁぁぁ、俺の船がぁぁぁ! 離せぇぇぇ」


(うんうん、美心っち。そんなに取り乱して……相当、怖い目にあったんだね。ごめんね、あーしが見失ったりしちゃったから)


 明晴の腕から離れようとするが不思議な力でびくともしない。

 何も抵抗できずに長屋へ帰宅させられてしまった美心であった。

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