長州藩にて(其の壱)
スピカの治療が終わり萩城に向けて出発するレグルス一行。
アルデバランは片腕を失い皆の邪魔になるわけにはいかないと宿に残ることになった。
数時間ほどで長州藩に入り萩城が目前へと迫っていた。
「あっ、日本海なの!」
「潮風が気持ちいいね、お姉ちゃん」
「比奈乃様と静さんは城に捕らわれているとみていいですわね」
「ああ、そこにいなければ皆目検討がつかん」
「この辺りに詳しい静殿が居ないのが辛いのら」
「潜入するならこの人数では多すぎるにゃ」
「だからといって少数になると長州藩士に見つかった時危険ッス」
馬車を停め皆で案を出し合うが神出鬼没の独立先行部隊への懸念がどうしても拭い去ることができなかった。
「仕方ありませんわね。先発隊と後続隊に分けて行動に当たりますわ」
「チームアルファはカノープスを筆頭にレグルス、コペルニクス、リギル、フォーマルハウト。チームベータはスピカ、デネボラ、ムジカ、ケンタウルス、ハダルで良い?」
「リギルとケンタウルスの特性を活かせば2部隊に分けても問題はないッス」
「アタシとお姉ちゃんならどんなに離れてたって会話できるもんね」
「決行は今夜。それまでは各自自由にしたいところだけど……」
「ん、敵陣内でそれは無理。このまま、ここで夜まで待機が最善」
コペルニクスが睨みを効かせると皆が怖がり従うしかなかった。
そして、夜。
ボディースーツに着替えたレグルス達は萩城へと向かう。
「ねぇ、なんか思ったより警備が薄くない?」
「これは……」
「明らかな罠にゃ」
堀の向こうに見える天守と警備している藩士達。
提灯の明かりの数が少なく潜入のエキスパートであるカノープスは即座に気付く。
「じゃあ、ここに比奈乃様達は……」
「それは分からにゃいにゃ」
「行くしかないってことなのら」
「くっ、ならば計画通りに」
「ええ」
チームアルファのメンバーが先に潜入する。
『もしも―――し、お姉ちゃん。聞こえていますか?』
『ええ、聞こえているわよ。やはり警備の数が異常に少ないわね』
『分かった。こっちも橋の上だけど警備の明かりが少ないみたい』
『気を付けて。罠であるなら何処でし……』
ブッ
突然、2人の通信が途切れてしまう。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!?」
「どうした?」
「声が突然切れて……お姉ちゃんの身に何かあったのかも!」
「そのようなのら……」
「えっ?」
ハダルだけではなくスピカ達も堀を見ていた。
それに気付いたケンタウルスも横を向くと……。
「むふふ、お久しぶりですね。星々の庭園の方々」
「あいつ! お姉ちゃんをやった!」
「水使いの大造寺だったか」
水の上を歩き、こちらに近付く大造寺。
チームベータの隊員らはすぐに戦闘準備に入る。
「くっ、周りは水だらけだぞ!」
「ずるいの!」
「うちが回復するから気にせず殺っちゃって!」
「そう言ってもここからでは届かないのら」
「陰陽術があるじゃん」
「だが、あいつを倒せる威力の陰陽術を使えるメンバーなどここには」
「もうっ、お姉ちゃんさえいてくれれば!」
「むふっ、手が出せませんか? では、まずこちらから。激浪」
ザッ……パァァァン!
巨大な波が突如発生し橋の上にいるスピカ達を飲み込む。
橋も破壊され皆が堀の中に落ちてしまった。
「みんな、無事か!?」
「ムジカは大丈夫なの!」
「アタシも」
「おいらも怪我はないのら」
デネボラがいないことに気付くスピカ。
「デネボラ? まずい、あいつ泳げないんだった!」
ザプン
堀の中に潜り溺れているデネボラを抱えると浮上するスピカ。
「げふっ、ごぼっごぼっ!」
「おやおや? 星々の隊員ともあろう者がカナヅチですか?」
ニュルン
「くっ! なんだ、このウネウネは!?」
「デネボラちゃん!」
水の触手がデネボラの身体に纏わりつくと空高く掲げる。
「げふっげふっ……」
「貴様、デネボラに何をするつもりだ!」
「むふふぅ、少し面白いゲームを思いつきましてね」
ブンッ
触手がデネボラを空高く投げ上げる。
ヒュゥゥゥ
ザバァァァン
「むぐっ!」
落下したデネボラを水塊の中に取り込み再び溺れるデネボラ。
ニュルン
「げふっげふっ!」
ブンッ
再び投げ同じことを繰り返す大造寺。
「貴様!」
「むふっ、理解できたようですね。さあ、デネボラが溺れ死ぬまでに吾を倒せますかな? むふふふふ」
あまりにも不利な状況の中、スピカ達チームベータの戦いが始まる。