津和野藩にて(其の伍)
「はぁはぁはぁ……殺り……まし……たわ……」
ドサッ
「レグルス!」
限界を超す動きの連続と相手を倒した安堵によりその場に倒れるレグルス。
フォーマルハウトはスピカを安静に寝かした後、彼女のもとへ走り出す。
「やったの! レグルスちゃん、勝ったの!」
「さぁ、次はおいどん達の出番でごわす! 白き娘、いい加減冷え過ぎて身体が鈍るでごわすよ」
「あららぁ、凶事ちゃん殺られてしまいましたぁ。これでレグルスちゃんもあたしが殺れて嬉しいですぅ♡」
雅致華はムジカとアルデバランの足を拘束していた氷を溶かし2人の前に立つ。
彼女は妖艶な着物姿で片手に綺羅びやかな鉄線を持っている。
「じゃあ、こっちから行くの! ど―――ん!」
ムジカは大きくジャンプして両手で持った大槌を雅致華に向かって振るう。
バキィィィン
「ふわぁ……」
雅致華は大きく欠伸をしムジカを見ることなく分厚い氷を自身の前に張り彼女の攻撃を受け止める。
「むむっ、そなたもあの男と似たような防ぎ方をするでごわすな」
「だってぇ、一歩も動かずに身を守る方法なんて他に思い浮かばないですぅ」
「全身を氷の鎧で覆えるの?」
「そんなの冷たくてできないですよぉ♪」
「だったら、その氷の壁をぶち破るだけでごわす!」
「パワー全開でいっちゃうの!」
ムジカとアルデバランは同時に雅致華の前に現れた氷壁に攻撃をする。
ドゴォォォン!
「くふふふ、流石は力自慢のお二人ですね。右京の氷壁を一撃で破壊するとは。ですが、それだけですね」
「ふわぁ……」
未だに動かない雅致華。
再度、彼女に向かって2人が攻撃する。
「ど―――んなの!」
「どすこぉぉぉい!」
ズガァァァン!
「また氷壁なの!」
「生み出す速度が早過ぎるでごわす!」
フォーマルハウトは一連の攻撃を見て思う。
(まずいッス。2人とあの女の相性は最悪ッス。一撃に重きを持つムジカとアルデバランの攻撃速度は決して早くはない。あの氷使いに勝つには……自分が少しでもサポートしなければならないッス!)
フォーマルハウトは両手で陣を組み叫ぶ。
「付与術式、炎熱! 付与術式、重撃!」
ボッ
2人の武器に炎が纏い淡く輝く。
重撃のエンチャントは一撃の威力を単純に倍増させる効果を持つ。
ムジカとアルデバランはフォーマルハウトと目線を合わせ頷くと再び氷壁に向かって攻撃する。
「ムジカがこれを壊すの!」
ドゴォォォン!
2人同時攻撃で壊せた氷壁がムジカの力だけで破壊され、間髪を入れずアルデバランが張り手を雅致華に食らわす。
「どすこぉぉぉい!」
「!」
ドゴォォォン!
砂埃が舞うほどの高威力の一撃。
フォーマルハウトは2人と目を合わせただけで理解してくれたことに安堵する。
(そう、この2人だけであの女を倒すには1人が女の防御を崩し、間を置かずもう1人が攻撃をする。自分のエンチャントがあれば可能だけれど……果たして今の攻撃で倒せたか心配ッス。早く砂煙が晴れてほしいッス)
「くふっ、甘いですね」
砂煙が晴れ現状が分かるとフォーマルハウトは表情が一変した。
「アルちゃん!」
「こほ―――こほ―――……」
アルデバランはまるで雪山で遭難した人のように白い霜に覆われ身体が凍りついていた。
「ほっ、危なかったですぅ♪」
「くふふふ、右京に近付くことは決して推奨されません。氷壁を破ったところで無駄。彼女の体表面には常時発動している雪獄がありますからね」
「瀬取さん、ネタバレしないでくださいよぉ」
ドシャア!
その場に倒れるアルデバラン。
分厚い肉で覆われている彼女だが全身がありえないほど冷え切り、張り手を繰り出した右手は凍傷を起こし細胞が壊死していた。
「こひゅぅぅ、ムジ……カ……この……女は……」
「アルちゃん、喋っちゃ駄目なの! きっと肺も凍ってるの!」
「くふふ、右京の言う通りレグルス以外は雑魚でしたね。見ごたえのないバトルで非常に退屈です。右京、ムジカもさっさと殺ってしまいなさい」
「はぁい♡ その後レグルスちゃんもいただきますぅ♪」